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AIは税理士試験の計算問題にどこまで通用するか?実力と課題を徹底検証【法人税法・令和6年度】

2025年7月10日税理士 山中 宏
■ 過去問計算問題にチャレンジ
前回は本試験の理論問題にAIで挑戦しましたが、今回は計算問題にチャレンジしてもらいました。
対象としたのは、令和6年8月に実施された税理士試験「法人税法」第2問(計算問題)です。
GoogleのNotebookLMに法人税関連の試験データを網羅的に一式投入し、Geminiに解答を作成してもらいました。その後、Gensparkプラットフォーム上でChatGPT、Claude、Geminiの3つのAIエンジンが同時に稼働する環境を用意し、AI自身による自己採点も行いました。
■ AIは税理士試験をどう解くか
今回の問題は、資本の払戻し、寄附金、減価償却など、法人税法の主要な論点が幅広く盛り込まれた総合問題でした。
AIの解答を見てまず驚いたのは、その論理構成です。各項目について法的根拠を明示し、「法的な理由」と「課税上の取扱い」をきちんと分けて説明していました。
ただし、採点してみると、理論的な理解力と計算精度のあいだにギャップがあることが見えてきました。
■ AIの得意なところと苦手なところ
「AIの解答を詳しく見ていくと、いくつかの傾向がはっきりしました。
理論面では判断力が高く的確な法的根拠を挙げていました。
一方で、計算段階ではミスが多く、会計と税務の違いを正確に理解しておらず、按分計算などの複雑なルールを見落とすこともありました。
複数の論点をまとめた総合的な計算も苦手な傾向があり、個別の処理は合っていても、最終的な答えがズレるケースが目立ちました。
また、問題文に記載された数字を正しく読み取れず、自分で間違った数値を使ってしまうといったミスも見られました。
こうしたことから、AIは理論的な思考には強いものの、税法特有の複雑な計算や実務に近い処理では、まだまだ課題があることが分かりました。
■ ミスの本質 ―AIの“パターン学習”の限界
非常に印象的だったのが、AIの自己採点能力です。
○×だけでなく、「理論的根拠は良いが計算ミスが目立つ」など、まるで専門学校の講師のようなフィードバックを返してくれたのです。
この自己評価の正確さは、AIの学習能力の高さを感じさせるもので、人間にとっても参考になる部分が多いと感じました。以下はAIの採点結果です。

■ AIの自己採点力は結構すごい
AIは論点整理やミスのチェックにはとても役立ちますが、複雑な応用や最終判断は、やはり人間の力が必要だと思います。
今回の実験は、税理士業界にも多くのヒントを与えてくれました。
実務では、税法の整理や確認作業など、AIが得意とする領域があります。こうした部分では、AIを活用することで業務の効率化が期待できます。
ただし、最終的な数値の確定や、判断が求められる局面では、人間の確認がどうしても必要です。
今のところAIと税理士は、補い合う関係で最強です。AIは理論や情報整理に強く、人間は実務的な判断や細部の確認に強い。それぞれの強みを生かすことで、より質の高い税務サービスを提供できるはずです。
■ 税理士業界にとってのヒント:AIは敵か味方か
今回、AIの得点は50点満点中28点でした。税理士試験のレベルを考えれば、AIがここまでできたのはかなり驚きでした。
同時に、AIの限界も浮き彫りになりました。ただ、それを理解した上でどう活用していくかが、これからのカギになると思います。AIは脅威ではなく、使い方次第で大きな武器になります。
AIが自分の弱点を冷静に分析し、改善点を具体的に挙げていた点については人間にとっても見習いたい姿勢です。
- 執筆者プロフィール
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山中 宏(やまなか ひろし)
税理士/山中宏税理士事務所1995年中小企業診断士取得、2014年税理士登録、2020年ウェブ解析士取得。2021年6月山中宏税理士・中小企業診断士事務所開業。
会計事務所、大手自動車メーカー他実務経験が豊富。管理職経験が長く会社間や人とのコミュニケーション能力が高い。
現在では税理士として決算、税務相談、確定申告を行うだけでなく、中小企業診断士・ウェブ解析士として実地のコンサルティング、ウェブ集客・SNS集客を通して売上拡大、集客拡大の支援を行う。
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