■なぜ30代未経験でも税理士転職のチャンスがあるのか
税理士業界では近年、深刻な人材不足が続いています
。税理士の平均年齢は高齢化が進んでおり、若手から中堅層の人材確保が業界全体の課題となっているのです。この状況が、30代未経験者にとって追い風となっています。
さらに重要なのは、
30代のビジネス経験そのものが税理士業務において大きな武器になる
という点です。営業職での顧客折衝経験、事務職での正確性を求められる業務経験、管理職でのマネジメント経験など、これまでのキャリアは決して無駄にはなりません。
税理士の仕事はクライアント企業の経営者と向き合い、数字を通じて経営課題を解決する仕事です。社会人としての成熟度やコミュニケーション能力は、専門知識と同様に重視される場面も多いのです。
実際に税理士法人の採用担当者からは「ビジネスマナーが身についており、すぐに現場で活躍できる30代の転職者は貴重な存在」という声も聞かれます。20代の新卒者と比較して、クライアントとの信頼関係構築がスムーズであり、教育コストも抑えられるため、積極的に採用したいという事務所も増えているのです。
■税理士の具体的な仕事内容とはどのようなものか
(1)税務申告業務
税理士の業務は多岐にわたりますが、中核となるのは税務申告業務です。法人や個人事業主に代わって所得税、法人税、消費税などの申告書を作成し、税務署に提出します。
ただし実務では、単に数字を入力して申告書を完成させるだけではありません。クライアントの事業内容を深く理解し、適切な税法の解釈を行い、時には節税提案も含めた総合的なアドバイスを提供します。
(2)月次業務
月次業務としては、クライアント企業の会計帳簿のチェックと月次決算書の作成があります。最近では会計ソフトの発達により、入力作業そのものは自動化が進んでいますが、その内容が正しいかを確認し、経営者に対して財務状況をわかりやすく説明する役割は税理士の重要な仕事です。毎月訪問してヒアリングを行い、数字の背景にある経営課題を一緒に考えるプロセスは、やりがいを感じられる場面でもあります。
(3)その他、業務
そのほか、年末調整業務、給与計算のサポート、税務調査への立ち会い、相続税の申告、事業承継のコンサルティングなど、税理士の業務範囲は想像以上に広範です。特に中小企業の経営者にとって税理士は「頼れる相談相手」であり、税務以外の経営相談を受けることも少なくありません。このように、人と深く関わりながら専門性を発揮できる点が、税理士という職業の大きな魅力といえるでしょう。
■30代で転職した場合の年収はどれくらいを期待できるのか
(1)初年度年収
30代未経験から税理士業界に転職した場合の初年度年収は、およそ350万円から450万円程度が一般的
です。この金額だけを見ると「これまでのキャリアより下がる」と感じる方もいるかもしれません。しかし税理士業界の特徴として、資格取得や実務経験の蓄積に応じて着実に年収が上昇していく構造があります。
税理士試験の科目合格を進めていくと、1科目合格ごとに月給が1万円から2万円程度アップする事務所もあります。
3科目合格の段階で年収500万円前後、税理士資格を取得して実務経験を3年から5年積めば、年収600万円から800万円のレンジに到達することも十分可能です
。大手税理士法人では、マネージャークラスになると年収1000万円を超えるケースもあります。
ただし事務所の規模や担当クライアントによって年収には大きな幅があり、思っていたよりも昇給が見込めない場合もありますので、転職先の吟味は非常に重要です。
(2)独立開業
また独立開業という選択肢があるのも税理士の大きな特徴です。開業税理士の平均年収は700万円から800万円程度とされていますが、顧問先を順調に増やせれば年収1000万円以上も現実的な目標となります。
30代で転職し、40代前半で税理士資格を取得、40代後半から50代で独立開業というキャリアパスを描く方も珍しくありません
。
重要なのは、目先の年収だけでなく、長期的なキャリア形成と収入の伸びしろを見据えることです。専門性を磨けば磨くほど市場価値が高まる職業であり、年齢を重ねても活躍できるという点が税理士の魅力と言えるでしょう。
■どのような事務所が30代未経験者にとってオススメなのか
(1)教育体制が整っている
転職先選びは、税理士としてのキャリアを左右する重要な決断です。
30代未経験者にとって最も重要なのは「教育体制が整っているか」という点
でしょう。大手から中堅規模の税理士法人では、研修プログラムやOJT制度が確立されており、先輩税理士からの指導を受けながら段階的にスキルを身につけられる環境があります。
一方で、小規模な個人事務所にも独自のメリットがあります。
所長税理士と距離が近く、マンツーマンに近い形で実務を学べる環境は、深い専門知識の習得に繋がります
。また業務範囲が広いため、税務申告だけでなく経営コンサルティング的な仕事にも早い段階から携われる可能性があります。ただし教育が属人的になりがちなため、所長の人柄や指導方針を面接でしっかり見極める必要があります。
(2)資格取得支援制度が充実している
資格取得支援制度の充実度も重要なチェックポイントです。
受験費用の補助、試験前の休暇取得、科目合格時の報奨金など、学習をサポートする制度が整っている事務所を選ぶ
ことは、受験に対する理解のある職場を選ぶことと同義なため、仕事と勉強の両立がしやすくなります。特に30代は家庭を持っている方も多く、時間管理が重要になるため、残業時間の実態や繁忙期の働き方についても事前に確認しておくべきでしょう。
(3)将来的な自分のビジョンとマッチしている
さらに自分が将来どのような税理士になりたいかというビジョンも大切です。相続税や国際税務など特定分野に強い事務所、スタートアップ企業に特化した事務所、医療機関専門の事務所など、事務所ごとに強みや特色があります。
自分の興味関心や過去の職務経験を活かせる領域を持つ事務所を選ぶことで、差別化されたキャリアを築くことができます
。
■どうすれば税理士試験と実務を両立できるのか
30代で転職する場合、多くの方が税理士資格を持たない状態からスタートします。働きながら難関試験に挑むのは容易ではありませんが、戦略的なアプローチで合格を勝ち取っている方は数多くいます。
(1)税理士試験とは
まず理解しておきたいのは、
税理士試験は科目合格制であり、一度合格した科目は生涯有効
という点です。5科目すべてに合格する必要がありますが、一度にすべて合格する必要はなく、年に1科目ずつでも着実に進めていけば確実にゴールに近づきます。
30代から始めて、40代前半で資格取得というペースでも十分に実務経験を積みながらキャリアアップできるのです。
(2)科目選択の重要性
効率的な学習のためには、科目選択が重要になります。必
修科目である簿記論と財務諸表論は早めに取得し、選択科目では実務で頻繁に扱う法人税法や消費税法を選ぶのが一般的
です。ただし実務で担当する業務内容に応じて、相続税法や所得税法を優先する戦略もあります。自分の所属する事務所の業務内容と照らし合わせながら、学習と実務がシナジーを生む科目選択を心がけましょう。
(3)時間管理の方法
時間管理については、朝型学習に切り替える方が多く見られます。
出勤前の2時間を確保し、頭がクリアな状態で学習に集中する習慣をつける
のです。通勤時間も貴重な学習時間として活用し、音声講義を聞いたり、スマートフォンアプリで問題演習をしたりする工夫も効果的です。
重要なのは、職場の理解とサポートを得ることです。
面接段階で資格取得を目指していることを明確に伝え、受験に理解のある事務所を選ぶことが成功の鍵
となります。試験直前期には残業を減らす、繁忙期と試験時期のバランスを考慮するなど、職場のサポートがあれば学習効率は大きく向上します。
■なぜコミュニケーション能力が税理士に必要とされるのか
税理士というと数字と向き合う仕事というイメージがあるかもしれませんが、実際には対人スキルが極めて重要な職業です。クライアントの多くは中小企業の経営者であり、税務や会計の専門知識を持っていません。
複雑な税制を平易な言葉で説明し、経営判断に必要な情報をわかりやすく提供する能力が求められます
。
(1)最も重要なのはヒアリング力
特に重要なのは、経営者の本音を引き出すヒアリング力です。表面的な数字だけを見ていては、真の経営課題は見えてきません。普段の会話の中から事業の方向性や悩みを汲み取り、それに対して税務面からどのようなサポートができるかを考える姿勢が、信頼される税理士の条件といえます。30代で培ってきた社会人経験は、まさにこの場面で活きてくるのです。
(2)組織人としてのコミュニケーション能力
税務調査への立ち会いでは、税務署の調査官との折衝能力も試されます。クライアントの利益を守りつつ、税務当局との建設的な対話を進めるバランス感覚が必要です。
また事務所内でのチームワークも重要で、スタッフ間での情報共有や後輩の指導など、組織人としてのスキルも求められます。
このように税理士の仕事は、専門知識だけでなく人間力が問われる職業です。前職での営業経験、接客経験、チームマネジメント経験などは、決して無駄にはなりません。むしろそうした経験を持つ30代の転職者だからこそ、クライアントから「話しやすい」「相談しやすい」と評価されるケースが多いのです。
■どのように実務経験を積み重ねていくべきか
(1)最初の1~2年
税理士業界では、資格取得と同等かそれ以上に実務経験が重視されます。
30代で未経験から転職した場合、最初の1年から2年は基礎的な業務からスタート
することになります。具体的には、会計データの入力チェック、試算表の作成補助、簡易な税務申告書の作成サポートなどです。
この初期段階で大切なのは、一つひとつの業務の背景にある理論や税法を理解しようとする姿勢です。単純な入力作業に見えても、なぜこの勘定科目を使うのか、なぜこのタイミングで計上するのかを考えることで、会計と税務の本質的な理解が深まります。疑問点は積極的に先輩に質問し、自分なりに調べる習慣をつけることが成長の近道です。
(2)2年目以降
2年目から3年目にかけては、担当クライアントを持つようになり、月次訪問や決算業務を任されるようになります
。この段階では、クライアントとのコミュニケーションを通じて実務知識を深めていきます。業種によって会計処理や税務上の注意点が異なるため、幅広い業種のクライアントを担当することで、多様な実務経験を積むことができます。
(3)税理士資格取得後
税理士資格取得後は、より高度な税務相談や組織再編、事業承継などの案件に携わる機会も増えてきます
。このレベルになると、単なる実務処理者ではなく、経営パートナーとしての役割が求められます。30代から40代にかけてこうした経験を積むことで、独立開業の選択肢も現実的になってきます。
実務経験を効率的に積むためには、所属する事務所の規模や特色を理解し、自分から積極的に学ぶ姿勢が重要です。新しい業務にチャレンジする機会があれば、臆せず手を挙げる。クライアント訪問に同行させてもらう。業界セミナーや勉強会に参加する。こうした主体的な行動の積み重ねが、5年後、10年後の大きな差となって表れます。
■転職成功事例①:営業職から税理士へキャリアチェンジしたWさんのケース
Wさん(35歳・男性)は大手メーカーで営業職として働いていましたが、専門性のあるキャリアを築きたいという思いから税理士への転職を決意しました。当時は税理士試験の科目合格はゼロの状態でしたが、「顧客の経営をサポートし、深く関わる仕事がしたい」という軸は明確で、すぐに簿記2級の勉強をスタート。
転職活動では20名規模の税理士法人に絞って応募し、面接で営業経験を活かしたいという熱意を伝えたところ、「クライアント開拓にも貢献できる人材」として評価され採用されました。入社後に簿記2級を取得したあとは、働きながら税理士試験の勉強をスタート。毎朝5時に起床して2時間学習する習慣を確立し、初年度に簿記論に合格しました。
現在は入社4年目で、すでに3科目に合格し、15社のクライアントを担当しています。営業時代に培った傾聴力とプレゼンテーション能力を活かし、クライアントからの評価も高く、新規顧問先の紹介も増えています。年収は転職時の400万円から現在は550万円まで上昇しました。Wさんは「30代での転職は遅いと思われがちですが、前職の経験は必ず活きます。大切なのは、なぜ税理士になりたいのかという動機を明確にすることでした」と振り返っています。
■転職成功事例②:経理事務職から専門性を求めて転職したTさんのケース
Tさん(33歳・女性)は一般企業の経理事務として8年間勤務していましたが、単調な業務に物足りなさを感じ、より専門的なキャリアを築きたいと考えるようになりました。経理の知識を活かせる仕事として税理士に興味を持ち、働きながら簿記1級を取得してから転職活動を開始しました。
面接では複数の事務所から内定を得ましたが、最終的に選んだのは教育制度が充実している中堅税理士法人でした。入社時には税理士試験の科目合格はありませんでしたが、簿記1級保有者ということで初任給は未経験者の中では比較的高めの380万円でスタートしました。
Tさんの強みは、経理経験があったため会計ソフトの操作や仕訳の理解が早く、即戦力として評価された点です。入社半年で月次巡回業務を任されるようになり、1年目から決算業務にも携わりました。仕事と並行して税理士試験の勉強を続け、2年で財務諸表論と法人税法に合格。現在は相続税法の勉強中です。
子育てと仕事の両立という課題もありましたが、時短勤務制度を活用しながら着実にキャリアを積んでおり、現在の年収は480万円。Tさんは「経理の経験があったことで、実務の理解が早く、それが自信につながりました。30代女性でも、ライフステージに合わせて働ける税理士という職業は魅力的です」と語っています。
■どうすれば転職活動で評価される人材になれるのか
(1)即戦力であることをアピール
30代未経験から税理士業界への転職を成功させるには、選考の場で「この人なら活躍してくれそうだ」と思わせる説得力が必要です。そのための第一歩は、これまでのキャリアと税理士という職業との接点を明確に言語化することです。
営業経験があるなら「クライアントの課題を引き出し、解決策を提案してきた経験を、税務コンサルティングで活かしたい」、事務経験があるなら「正確性と期限管理を徹底してきたスキルは税務申告業務に直結する」といったように、自分の強みを税理士業務に結びつけて説明できるようにしましょう。
単なる志望動機ではなく、即戦力性をアピールすることが重要です
。
(2)学習意欲と計画性を示す
また学習意欲と計画性を示すことも効果的です。
すでに簿記検定を取得している、税理士試験の学習を開始している、具体的な合格スケジュールを立てているなど、本気度を証明する材料があると評価されやすくなります
。
面接では「入社後5年で税理士資格を取得し、10年後には○○分野のスペシャリストになりたい」といった具体的なキャリアビジョンを語れると、採用側も安心して投資できると判断します。
(3)転職エージェントの活用
転職エージェントの活用も検討すべきでしょう。
税理士業界に特化したエージェントは、未経験者を歓迎する事務所の情報や、面接で評価されるポイントなど、内部情報を持っています
。また履歴書や職務経歴書の添削、面接対策なども受けられるため、未経験からでも選考通過率を高めることができます。
■まとめ
30代未経験からの税理士転職は、決して容易な道のりではありません。
忘れてはならないのが、謙虚さと成長意欲です。30代という年齢を考えると、新しい環境で一から学ぶことに不安やプライドの葛藤があるかもしれません。しかし税理士業界では実務経験がすべてであり、未経験者は年齢に関わらず学ぶ姿勢が求められます。「これまでの経験を活かしつつ、謙虚に学んでいきたい」というバランス感覚を持つ人材が、最終的に成功を掴むのです。
明確な目標と戦略的なアプローチ、そして継続的な努力があれば、30代から税理士を目指しても充実したキャリアを築くことは十分に可能です。年齢を言い訳にせず、今日から一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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ジャスネットキャリア編集部
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