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顧問先支援の新常識! 税理士が知るべき公的機関連携の活用術と成功の条件

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2025年10月30日 税理士 吉元常予

目次

■はじめに:税理士の「専門外」相談へのジレンマをどう乗り越えるか

日々顧問先から投げかけられる、税務・会計の枠を超えた多種多様な経営相談に、どう対処すべきか悩まれていませんか?

「専門外だから」と突っぱねれば、顧問先の信頼や満足度の低下、結果として契約の継続に影響を及ぼす可能性がありますしかし、限られたリソースで、答えの出ないマーケティング、DX、事業承継といった領域に深入りすることは現実的ではありません。例えば以下のような問題です。

問題点1:専門外の相談の増加とリソース不足

  • IT・DX、売上拡大といった課題に、本業を圧迫されながら対応する難しさ。
  • 結果として、顧問先が悪質なコンサルタントに多額のフィーを支払い、事後的に会計データで把握するといった最悪のケース。

問題点2:待ったなしの事業承継問題

  • M&Aの浸透により、いつ顧問先を失うか分からない環境。
  • 親族内承継における「役員借入金」処理など、相続も絡むデリケートな問題への具体的かつ効果的な切り込み方。

問題点3:コロナ融資返済開始後の資金繰り悪化

  • 債務超過、リスケジュール案件への対応。「これ以上は無理か」という撤退基準と、「まだ打てる手はあった」という後悔へのジレンマ。

これらの課題に対し、顧問税理士として先手を打ち、信頼関係を維持するための鍵となるのが、国が設けている公的機関との効果的な連携です。

■顧問先支援を変える!3つの主要な公的支援機関の役割

小規模企業共済でお馴染みの 中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構) は、中小企業支援のハブとして機能しています。先生方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、上記のような経営課題に対応するため、各都道府県に以下の専門窓口が設けられています。

これらの機関は、弁護士、公認会計士、税理士、中小企業診断士などの士業が交代で出務しており、無料で事業者の相談に応じています。

支援機関 主要な役割と支援領域 主な相談例
よろず支援拠点 経営上のあらゆる相談に対応する総合窓口。 売上拡大、海外進出、IT活用、補助金活用、創業期の壁打ちなど
事業承継・引継ぎ支援センター 事業承継に特化。円滑な承継とM&A支援。 親族内承継計画策定、後継者不在時のM&A斡旋、後継者バンク運営
中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会) 事業再生に特化。深刻な債務超過・資金繰り悪化への対応。 リスケ交渉、事業再生計画策定、バンクミーティング開催

これらの公的機関を外部パートナーとして活用することで、税理士事務所は業務時間を外注でき、顧問先には経済的な負担なく専門的な支援を提案することが可能になります。

■公的機関連携の「メリット」と税理士が知っておくべき「デメリット」

公的機関との連携は、事務所のサービス品質と効率を劇的に向上させますが、注意点もあります。

(1)連携のメリット

① 専門性の補充: 人材不足の中、自所で確保が難しい高度な専門性(マーケティング、M&A、DXなど)を無料で補充できる。
② 業務負担の軽減: コア業務(税務・会計)以外の対応時間や人員リソースを軽減し、本来注力すべき業務に集中できる。
③ 顧問先満足度の向上: 顧問先が抱える課題に対し、適切な専門家を迅速かつ無料で紹介できるため、信頼度と満足度が向上する。

わたしの場合は、サービス業の顧問先のマーケティングや補助金関係のご相談は、よろず支援拠点をお勧めしています。必要な資料があれば協力する姿勢をとっていますので、結果的に補助金獲得につながることもあり、顧問先にも喜ばれています。

何よりクライアントにとっては、先生は応援してくれているという姿勢が顧客満足度につながります。

(2) 税理士が担うべき「ゲートキーパー」としての役割(デメリット)

外部の専門家に任せきりにすると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。税理士は情報のゲートキーパーとして、以下の点に注意が必要です。

① 時間と手間の発生: 案件の引継ぎ、資料作成など、税理士でしかできない協力が求められる場合がある。
② 進捗の管理義務: 外部機関の進捗をすべて任せると、情報の連携漏れが発生するリスクがある。
③ 情報の守秘義務: 公的機関側にも守秘義務はありますが、複数の専門家が関与するため、機密情報の取り扱いと共有範囲について慎重な注意が必要です。

基本的に 公的機関は、税務判断や税務申告のような最終責任を負いません 。すべては助言であり、目的達成のためのロードマップ作成が主になります。そのため、「事業承継税制を使ってください」など先生が専門外で対応を躊躇するような事項がロードマップに織り込まれることもあります。

そのため、「協力は惜しまないが税務に関することについては必ず相談してほしい」という税理士としての姿勢を顧問先に明確に伝えておくことが大切です。

■顧問先の課題別「公的機関への依頼基準」と成功のヒント

それでは、具体的にどのステージの顧問先を、どの機関に依頼すべきかの基準を示します。

(1)【よろず支援拠点】への依頼基準と連携のヒント

① 依頼基準

  • 専門外の課題が浮上したとき(売上・販路拡大、海外進出、DX導入など)。
  • 補助金活用など、所内で対応が難しい案件。
  • 創業期・第二創業期のビジネスモデルに関する壁打ち相手が必要なとき。

② 連携のヒント

単に「相談に行ってみて」と伝えるのではなく、具体的な相談内容を整理した上で繋ぐこと。コーディネーターは税務知識に深くない場合もあるため、財務状況の概要などの資料を準備しておくのがスムーズな支援の鍵です。

(2)【事業承継・引継ぎ支援センター】への依頼基準と連携のヒント

① 依頼基準

  • 親族間・従業員承継において、感情的になりがちな議論を第三者の専門家に仲介させたいとき。
  • 後継者に事業譲渡する際、業務や事業の立て直し(再生)のために再生専門家のサポートが必要なとき。
  • 後継者不在で事業譲渡を希望している、または事業拡大のため買収したいが民間のM&A会社の手数料が負担になるとき。

② 連携のヒント

事業承継は税務だけでなく、経営、法務、人事など多岐にわたります。税理士は財務の視点から、役員退職金や自社株評価の資料を提供し、税金面を担うこととなります。最終的な意思決定は先生も同席されることをお勧めします。

また、小規模な事業であっても、単に廃業するのではなく事業引継ぎが可能な場合もあるので、まずは相談をすすめることも社会的に意義があります。

個人的には、「リングにタオルを投げる」ことも税理士の役割ではないかと思っています。

(3)【活性化協議会】への依頼基準と連携のヒント

① 依頼基準

  • 事業再生フェーズが明確になってきたとき(例:大幅な債務超過、業績回復の見込みがない、資金繰りがもたない等)
  • 債務者区分が低下し、金融機関からの信用回復が最優先であるとき

② 連携のヒント

協議会は金融機関との利害調整が主目的です。税理士には粉飾の修正を含めた正確な現状の財務データと、資金繰り表のなどの作成サポートが求められます。

最近ではメインバンク自ら経営者に働きかけて活性化協議会への相談を促すことも増えてきているようです。税理士からアプローチする場合は、顧問先と同行する前に事前に協議会と打ち合わせをすると以後の流れがスムーズです。

③ 補足

留意点として、公的機関は都道府県ごとに商工団体や公益法人が受託事業として運営している場合が大半なので、それぞれ運営方針や、専門家の選定などカラーが違います。

特に事業再生にあたっては、過去の粉飾決算に対する対応は異なるため(仕方ないと受け入れるか、全く受け入れないか)、事前に関係者に確認が必要です。

■まとめ:公的連携こそがこれからの顧問税理士に求められる「付加価値」

わたしが公的機関に出務して強く感じているのは、税理士に対する社会の期待が非常に高いということ、そして、国の中小企業施策が専門家活用を通じた生産性向上に強く注力しているということです。

事務所経営において、低価格路線か付加価値路線かの選択を迫られる中、顧問先を取り巻く状況はますます複雑化しています。もはや税理士だけで全てを解決できる時代ではありません。だからこそ、限られたリソースの中で、国の公的機関などを顧客に紹介し、外部と連携することの重要性は高まる一方です。

この外部連携は、単なる業務の外注ではありません。 税理士が「ゲートキーパー」となり、最適なタイミングで最適な専門家(公的機関)を紹介することで、顧問先は「自分の顧問税理士は経営課題解決のハブだ」「安心できる専門家をたくさん持てた」という確かな安心感と信頼を得られます。 また、税理士には成長戦略だけでなく、出口戦略への対応も求められています。

特に感情労働となる側面もある事業承継や再生の場面では、外部機関と連携することで、客観的な視点と新鮮な知見を取り込むことができます。

顧問税理士が顧問先支援から「蚊帳の外」にならないよう、日頃から関係性の構築に心を砕かれていることと存じます。しかし、顧問先にとって最良の結末を迎えるためにも、本稿でお伝えした公的機関との連携を積極的に試みてください。これにより、顧問先支援の質を向上させ、真に付加価値の高い顧問税理士としての地位を確立されることをおすすめします。

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執筆者プロフィール

吉元 常予(よしもとつねよ)
税理士

昭和52年生まれ。兵庫県出身。高校卒業後、イギリス留学や写真の専門学校といった「道草」を経て、税理士の道へ。この異色のキャリアの原点は、若くして直面した「争族問題」と、個人事業主時代の税務の不安でした。「社会(税金)のルールを知ることの大切さ」を痛感し、一念発起。結婚・出産後、芸術大学への編入や大学院での学び直しを経て、2024年に吉元税理士事務所を設立。
現在は、兵庫県内の公的機関に税理士として出務する公的な立場と、自らの顧問先を持つ実務家の両面から、相続や事業承継などの出口支援を専門としています。遠回りした経験と争族を知る者として、数字だけでなく、お客様の感情や人生の歴史に深く寄り添い、「揉めない・後悔しない未来」の実現をサポートしています。

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