「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の業務内容、仕事のやりがいとは?

2025年7月1日 EY税理士法人 パートナー/税理士 阿久津 隆一
目次
- (1)顧問契約/On-call契約に基づく日常的な税務相談対応
- (2)国内税務の中でも、特定の分野に特化した税務サービス
- (3)国税当局対応
- (4)税務意見書・税務メモなどの作成
- (5)税務関係の分析に関する報告書
- (6)グループ内組織再編やM&A
- (7)わたしの場合
■「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の業務のやりがいは?
この記事では、BIG4 税理士法人でパートナーとして活躍する阿久津 隆一氏に、BIG4税理士法人での業務内容、そのやりがいを中心に一般の税理士・会計事務所の業務との違いについて、語っていただきました。
■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)
わたしはこの仕事の本質はサービス業だと思っていますので、結局は 「気の利く人」に向いている のではないでしょうか。
この業界ではリスクを取ることを恐れるあまり、クライアントからの質問に対して明言を避ける方もいるのですが、それはわたしの姿勢には反します。クライアントは最終的に自らの責任で判断することは十分理解していることから、われわれ税務アドバイザーの役割は、当事者意識をしっかりと持ち、クライアントが判断できるよう十分な判断材料の提供と一歩踏み込んだアドバイスをすることではないでしょうか。
そのためには、常に クライアントと同じ目線に立ち、説明方法や用語の使い分けなども含めて、聞き手の求めているレベルに応じた柔軟な対応ができる気遣いも必要 です。
例えば、相手がCEO/CFOなどの役員なのか、現場の責任者/担当者なのか、どの程度の税務知識を持っているのかなどによってすべて変わってきますし、そこを細やかに判断できるスキルが求められます。
また、聞かれたことにのみ答えるような受け身な姿勢ではなく、能動的にさまざまな提案ができること。そして、わからないことについては上司に素直に教えを請い、学ぼうとする姿勢も大切です。そうすることで上司にもかわいがられますし、上司と多くの経験を積むことで、結果として自分の実力をつけることにもつながっていくと思います。
■「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の業務内容
(1)顧問契約/On-call契約に基づく日常的な税務相談対応
定額制の顧問契約や従量制のOn-call契約に基づき、国内・国際問わず、日常的な税務の相談に対応しています。サービスの形態は基本的にメール・電話/Web会議などが主になっています。
(2)国内税務の中でも、特定の分野に特化した税務サービス
例えば、グループ通算制度(旧連結納税制度)、組織再編税制、試験研究費の税額控除などの主要な税額控除関連など、国内税務の中でも特定の分野に特化した税務サービスです。
これ以外にも税制改正により新しい税制が創設された際には、適用・活用支援も行います。
(3)国税当局対応
税務調査への立ち合いや通常の対応支援のみならず、局面によっては反論書の作成や税務当局との折衝、最終的には税務訴訟のサポートまで幅広く行っています。
また、税務調査のみならず、法的安定の確保の観点から税務当局への事前照会業務なども行っており、事前照会文書の作成から、国税当局への説明、その後最終的な結論を得るまでのサポートなどもしています。
(4)税務意見書・税務メモなどの作成
クライアントからの依頼に基づき、税務当局と議論になりそうな特定の税務上の論点について、将来の税務調査に備えて、税務意見書や税務メモなどを作成することもあります。
クライアント側はこれらを事前に備えておくことで、実際の税務調査の局面においても税務専門家の意見としてこれを提示することができますし、クライアントの担当者が変わった場合でも常に同じ説明が可能となります。
(5)税務関係の分析に関する報告書
例えば、日本企業が新たに海外に進出する場合などの局面において、進出先の国における税務リスクや将来の投資資金の回収方法なども視野に入れた形での投資方法や商流などに関する日本・海外の税務の観点からのアドバイスなど、さまざまな視点から多角的に分析し、報告書に取りまとめます。
(6)グループ内組織再編やM&A
経営効率化の観点から、例えば採算の思わしくない事業・子会社の統廃合などのグループ内組織再編や、M&Aの局面では税務デューデリジェンス業務や税務ストラクチャリング業務、買収後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)に関連した税務アドバイザリー業務などを行います。
(7)わたしの場合
わたしは大学2年の夏休み明けから税理士試験の勉強を始め、就職1年目の22歳の時にすべての試験に合格しました。キャリアパスとしては、大学卒業直後の4月からKPMG税理士法人に入社し、約6年半勤務した後、EY税理士法人に転職。当時、EY税理士法人に転職していたKPMG入社時の面接官のパートナーと偶然再会し、食事の席で一緒に働かないかと誘われ、わたし自身もその方と一緒に働いてみたいと思っていたのがきっかけです。
もともと毎年、税理士が約1,000人近く増えていく中で、いかに差別化を図るかという観点からは、「税務に加えて、英語・金融にも精通するようになると強いよ」というKPMG入社当時のメンターからのアドバイスの影響もありました。
その後は経済情勢の動向なども見ながら、よりニーズが高まっていくであろう日系多国籍企業向けの国際税務アドバイザリー業務に次第にシフトしていきました。
■BIG4税理士法人と一般の税理士・会計事務所との違い
BIG4税理士法人であっても、サービス業であるという点では、何ら他の税理士・会計事務所と変わることはありません 。ですから、BIG4以外での会計事務所での経験についても、特にクライアントのハンドリングを含めたコミュニケーション能力などについては、十分に活きる余地があると思います。
一方で、担当する クライアントの規模や取り扱う取引やリスクに関する金額規模、扱う税法の分野、クロスボーダーの取引が多い点などは、BIG4以外の会計事務所とはかなり異なる ことが想定されます。
BIG4ならではの強みという意味では、常に最新の情報に触れられることや、豊富な他社事例を含む圧倒的な情報量などではないでしょうか。
もし、読者の皆さんが国際税務に挑戦したいというのであれば、 英語の勉強 はもちろんのこと、国際税務に関連する国内法(例えば、法人税法であれば、組織再編税制・外国子会社合算税制・子会社株式簿価減額特例(ソフトバンク対策税制)・BEPS2.0関連など、所得税法であれば、源泉所得税関連)や租税条約(BEPS防止措置実施条約の適用関係を含む)や日本以外の海外税務についての幅広い知識が必要になることから、常に最新動向をキャッチアップしていく必要があり、高い向上心と常に学び続ける姿勢が重要になってきます。
また、志向性のところでも説明しましたが、 少しでもわからない・はっきりしないことがあれば、それを納得するまで突き詰めていく姿勢 がとても重要です。
その上で、複数の要素を総合的に検討する必要がある場合(例:日本と海外における課税関係を両方考慮して、最適な形をアドバイスするケースなど)には、下記も必要となります。
- ①各要素の比較検討/分析・総合的な検討を行う力
- ②クライアントが適切な判断を行うための十分な判断材料となるよう、分析結果を適切な形でアウトプットにおこす力
- ③税務という専門用語が多く、内容も難しいものについて「要はこういうこと」と簡単にわかりやすく説明できる力
■「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の業務のやりがいは?
やはり誰もが知っているような 大企業を担当することができ、大手新聞の紙面に掲載されるようなM&Aなどの大きな取引に関与することができるという のは、仕事の満足感・やりがいに繋がると思います。
一方で、本質的なところでいえば、BIG4 税理士法人に限らず、サービス業である以上、クライアントの大小にかかわらず、 クライアントから感謝されること が一番のやりがいではないでしょうか。
先ほども申し上げた通り、BIG4の会計事務所の強みは、他社事例も含む圧倒的な情報量とともに、税制改正などの最新情報のスピード感、そして多くの企業や事例を担当できることで、一定期間で積むことのできる経験値は間違いなく高いと思います。
■「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の採用ニーズ
(1)求められるスキル、人材
現状、 税理士資格は必須ではありません が、資格保持者は税理士登録後に自身の名刺などにも掲載されることになるため、やはり専門家としての緊張感や責任感は増すと思います。一方で、試験勉強と仕事の両立は必ずしも容易ではないため、 早めに合格しておいた方がよい のではないでしょうか。
また、国際税務の分野を志す方は、業務に必要とされる英語については早い段階から勉強していた方がよいとは思いますが、一方で入社時にTOEIC何点以上でないといけないなどの基準はありませんので、働き始めてから勉強を始めることも可能です。
(2)採用されるポイント
昨今は科目数などにはこだわっておりませんので、 科目合格者の採用についても積極的に行っています 。
また年齢についても特に制限はありませんが、同期や上司が年下になる可能性も十分ありますので、すぐにチームメンバーに溶け込める方、どんな立場であっても 謙虚に学べる姿勢がある方 が歓迎されます。
なお業務は必ずしも楽ではないため、 ある程度の体力が必要 という点や、将来のキャリアパスを考えたときに、できるだけ若いうちに入社してもらった方がよいというのはあります。管理職であるマネージャーに昇格した時に40歳を超えていると、そこから先のシニアマネージャー、パートナー/アソシエートパートナーまでの5~10年を考えた場合、体力的にかなり厳しくなる可能性もあります。
(3)転職で気を付けるポイントや難易度
面接では ありのままの自分 を出すことを心掛けてください。
自分の強み・弱みとともに、これまでのキャリアで培ってきたもの、これから目指したい姿、そして転職先で何を活かせて、何を学んでいきたいのか、などを明確に自分の言葉で伝えられることが重要です。
■「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の年収はどのくらい?
中途であれば、ポジションにもよりますし、これまでの就労経験やそこでの年収なども考慮するため、一概には言えません。
あくまで一例ですが、実務経験は10年くらいを想定した場合、実際に個人の会計事務所でどのような業務を行っていたかにもよりますが、ポジションはおそらくよくてもシニアスタッフ相当での採用になるものと仮定します。
その場合、 ベースで550~650万円、残業代を含めて650~750万円程度 になる可能性はあるかもしれません(前職の給与等も考慮するため、一概には言えず、あくまでも参考値となります)。
■「BIG4税理士法人 アドバイザリー部門」の経験を活かしたその後とのキャリアパスは?
最近はさほど多くはなくなってきていますが、 他のBIG4税理士法人への転職 は考えられます。ただ、後ろ向きな理由で転職しないことや、転職により自身のキャリアパスが停滞しないように注意する必要があると思います。
また、会計事務所や税理士法人でさまざまな会社の税務業務を担当するのではなく、クライアント側に立ち、特定の一社または複数のグループ会社の税務業務を内部(インハウス)から支援したいという人には、 事業会社の税務部門や税務グループへの転職 というケースも増えてきています。将来的に税務部長や税務グループ長、その後の経験によっては経理部長やCFOなどへの道も考えられると思います。
加えて、BIG4税理士法人での経験を経て、独立開業する方もいます。クライアントの数や規模・提供する業務内容が変わる点は否めませんが、その分クライアントに寄り添ったサービスを行うことで、幅広く活躍されている方も多くいます。
また、引き続き業務受託という形でBIG4税理士法人の仕事を支援してくれるケースもあり、今でも一緒に仕事をしている方も多くいます。
関連リンク
- 執筆者プロフィール
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阿久津 隆一(あくつ りゅういち)
EY税理士法人 パートナー/税理士2007年9月、新日本アーンスト アンド ヤング税理士法人(現:EY税理士法人)に入所
多くの日系上場・非上場企業に対する国内税務・国際税務に関するアドバイザリー業務及び税務申告業務に従事、合計約20年超の経験を有する。近年は新興国を中心に、日系企業の海外進出から統括会社化を含むグループ内再編・M&A・清算・撤退に至るまで、幅広く国内税務・国際税務に関するアドバイザリー業務を提供
40社強の日系上場・非上場企業の国内・国際税務に関する税務顧問を務める
旬刊 経理情報(中央経済社)等の専門誌への寄稿及び基調講演・セミナー講師経験多数