■未経験者が会計事務所で働ける背景
(1)税理士補助の需要が高まっている
近年、会計事務所や税理士事務所では深刻な人手不足が続いています。税理士の高齢化が進む一方で、若手の税理士や税理士補助のなり手が減少しているのが現状です。このような状況の中で、
多くの事務所が採用のハードルを下げて、未経験者や資格を持っていない方にも門戸を開くようになってきました。
特に中小企業のクライアントを多く抱える会計事務所では、日常的な記帳代行や書類整理といった基本業務を担当できるスタッフを常に必要としています。こうした業務は専門的な知識がなくても、丁寧に教えてもらえば十分にこなせる内容です。そのため、
経験や資格よりも、コツコツと真面目に仕事に取り組める人材や、数字に対して苦手意識のない方を求める傾向が強まっています。
また、税理士補助として働きながら税理士資格の取得を目指す方を支援する事務所も増えています。働きながら勉強できる環境を整えることで、将来的に税理士として独り立ちできる人材を育てようという狙いもあるのです。このように、業界全体として未経験者を受け入れる土壌が整ってきていることが、資格なしでも挑戦できる大きな理由となっています。
(2)充実した教育体制の重要性
未経験者を積極的に採用している事務所の多くは、教育体制の整備に力を入れています。
新人が一人前になるまでには時間がかかることを理解した上で、段階的に仕事を覚えられるようなカリキュラムを用意しているところも少なくありません。
最初は簡単な書類整理やデータ入力から始まり、徐々に記帳代行や申告書の作成補助といった専門的な業務へとステップアップしていく流れが一般的です。先輩スタッフがマンツーマンで指導してくれたり、定期的に勉強会を開催したりする事務所もあります。また、会計ソフトの使い方や税務の基礎知識については、入所後に研修を受けられるケースがほとんどです。
ただし、事務所によって教育体制の充実度には大きな差があります。求人情報を見る際には、研修制度の有無や先輩スタッフのフォロー体制について確認することが大切です。面接の際に「未経験者はどのように仕事を覚えていくのか」と具体的に質問してみるのもよいでしょう。教育に熱心な事務所ほど、この質問に対して丁寧に答えてくれるはずです。
■税理士補助の仕事内容と求められるスキル
(1)税理士補助の具体的な業務内容
税理士補助の仕事は多岐にわたりますが、未経験者が最初に任されるのは比較的シンプルな業務からスタートします。
代表的なのが記帳代行です。
クライアント企業から預かった領収書や請求書をもとに、会計ソフトに取引内容を入力していく作業になります。最初は入力ミスがないか先輩がチェックしてくれますので、少しずつ正確性とスピードを身につけていきます。
慣れてくると、
月次決算のサポートや給与計算、年末調整の補助といった業務も担当するようになります。
月次決算では、一ヶ月間の取引をまとめて試算表を作成し、経営者に報告する資料を準備します。給与計算では社会保険料や所得税を正しく計算して給与明細を作る必要があり、正確性が特に求められる業務です。
さらに経験を積むと、確定申告や法人税申告書の作成補助にも携わるようになります。これらの業務は税理士の指示のもとで行うため、最終的な責任は税理士が負いますが、申告書の下書きやデータの整理といった重要な役割を担います。また、クライアント企業を訪問して資料を回収したり、経営者と打ち合わせに同席したりすることもあり、コミュニケーション能力も次第に磨かれていきます。
(2)税理士補助に求められるスキル
未経験からスタートする場合、最初から高度なスキルを求められることはありません。しかし、いくつかの基本的な能力や姿勢は大切にされます。
①正確性
何よりも重要なのが正確性です。数字を扱う仕事なので、一つの入力ミスがクライアントに大きな影響を与える可能性があります。慎重に作業を進め、わからないことがあればすぐに質問する姿勢が求められます。
②パソコンの操作スキル
エクセルでの簡単な表計算や、ワードでの文書作成ができれば問題ありません。会計ソフトの使い方は入所後に覚えられますが、パソコン操作に抵抗がないことは前提となります。
③ビジネスマナー
電話応対やメールのやり取りも日常的にありますので、ビジネスマナーの基礎を身につけておくとスムーズです。
④コミュニケーション能力
クライアントとのやり取りはもちろん、所内での報告・連絡・相談も頻繁に発生します。わからないことを一人で抱え込まずに相談できる力や、相手の話を正確に理解して行動に移せる力が大切です。
⑤学ぶ姿勢
税法は頻繁に改正されるため、新しい知識を学び続ける意欲も重要になります。資格取得を目指すかどうかは別として、常に学ぶ姿勢を持っている方は事務所から歓迎されます。
■税理士補助として働くメリットとデメリット
(1)メリット:成長機会とスキル習得
税理士補助として働く最大のメリットは、
実務を通じて専門的な知識とスキルを身につけられること
です。会計や税務は企業経営に欠かせない分野であり、これらの知識は将来どのような仕事に就いても役立ちます。特に簿記や税務の知識は汎用性が高く、経理職や財務職への転職を考える際にも強力な武器になります。
また、様々な業種のクライアント企業に関わることで、幅広いビジネスの仕組みを理解できるのも大きな魅力です。飲食店から製造業、IT企業まで、多種多様な業界の経営状況を数字で見ることができます。この経験は、ビジネスパーソンとしての視野を大きく広げてくれるでしょう。
(2)デメリット:業務の厳しさと繁忙期
一方で、税理士補助の仕事には厳しい面もあります。
最も大きな課題となるのが繁忙期の忙しさです
。
確定申告の時期である二月から三月、そして年末調整が集中する十二月から一月にかけては、残業が増える傾向にあります。この時期は帰宅が遅くなったり、休日出勤が必要になったりすることも珍しくありません。
また、責任の重さもプレッシャーになることがあります。たとえ補助業務であっても、ミスをすればクライアントに迷惑をかけてしまいます。申告期限に遅れることは許されませんし、計算ミスがあれば税務署からの指摘を受ける可能性もあります。常に緊張感を持って仕事に臨む必要があるため、精神的な負担を感じる方もいるでしょう。
覚えることも多く、初期は特に大変です。会計ソフトの操作方法、税法の基礎知識、各種書類の作成方法など、習得すべき内容は膨大です。特に未経験からスタートする場合は、最初の数ヶ月は毎日が勉強の連続となります。わからないことだらけで自信を失いそうになることもあるかもしれません。
■税理士補助の将来性とキャリアパス
(1)税理士資格取得への道
税理士補助として働きながら税理士資格の取得を目指す方は少なくありません。税理士試験は難関資格として知られていますが、実務経験を積みながら勉強することで理解が深まり、合格に近づきやすくなります。試験は会計学2科目と税法3科目の合計5科目に合格する必要があり、1科目ずつ受験できるため、働きながらでも計画的に挑戦できます。
税理士補助として働くことで受験資格を得られる場合もあります。一定の実務経験があれば、学歴要件を満たしていなくても受験が可能になるのです。また、日々の業務で会計処理や税務申告に触れることで、テキストだけでは理解しづらい実務的な感覚が養われます。
事務所によっては、資格取得を目指すスタッフを積極的に支援しています。勉強時間を確保できるよう業務量を調整してくれたり、試験直前には特別休暇を与えてくれたりする事務所もあります。資格取得後のキャリアアップも期待できるため、明確な目標を持って働けることは大きなモチベーションになるでしょう。
(2)税理士補助としてのキャリアアップの可能性
税理士資格を取得しなくても、税理士補助としてキャリアを築いていく道もあります。
経験を積んで専門性を高めることで、主任やマネージャーといったポジションに昇進し、若手スタッフの指導を任されるようになります。
また、特定の業務分野に特化してスペシャリストとして活躍する道もあります。
例えば、相続税や事業承継といった特定分野の専門知識を深めることで、その分野のエキスパートとして重宝される存在になれます。クライアントからの信頼も厚くなり、給与面でも優遇される可能性が高まります。また、大手の会計事務所では、マネジメント業務や営業活動に携わるキャリアパスも用意されています。
さらに、税理士補助としての経験は他の職種への転職にも有利に働きます。企業の経理部門や財務部門、コンサルティング会社など、会計や税務の知識を活かせる職場は多岐にわたります。実務経験があることで、単に簿記の資格を持っているだけの方よりも高く評価されることが多いのです。
■未経験から税理士補助に転職した成功事例
(1)異業種からの転職成功者の体験談
30代前半で小売業の販売職から税理士補助に転職したAさんの例を紹介します。
Aさんは簿記の資格も持っておらず、経理の経験もありませんでしたが、数字を扱う仕事に興味があり、将来性のある仕事に就きたいと考えて税理士補助の求人に応募しました。
面接では、前職での顧客対応の経験や、コツコツと真面目に取り組む性格をアピールしました。事務所側は、経験よりも人柄とやる気を重視して採用を決めたそうです。入所後は先輩スタッフのサポートを受けながら、まずは簡単なデータ入力から始めました。最初の半年は覚えることが多くて大変でしたが、わからないことはすぐに質問する姿勢を大切にし、自宅でも簿記の勉強を続けました。
1年後には基本的な記帳業務を一人でこなせるようになり、2年目には給与計算や年末調整も担当するようになりました。現在は入所四年目で、簿記2級も取得し、法人税の申告書作成にも携わっています。Aさんは「未経験でも受け入れてくれる事務所を選んだことと、素直に学ぶ姿勢を持ち続けたことが成功の鍵だった」と振り返っています。
■未経験・資格なし税理士補助のよくある質問
(1)税理士を目指さずに税理士補助として働ける?
税理士資格の取得を目指さなくても、税理士補助として長く働くことは十分に可能です。
実際に、税理士補助としてキャリアを積み、ベテランスタッフとして活躍している方は多くいます。資格取得を目指すかどうかは個人の選択であり、事務所側も資格取得を強制することはありません。
ただし、事務所によっては資格取得を推奨している場合もありますので、採用面接の際に自分の考えを正直に伝えることが大切です。資格取得を目指さない場合でも、実務経験を積んで専門性を高めることで、十分にキャリアアップは可能です。主任やマネージャーとして後輩の指導を任されたり、特定分野のスペシャリストとして活躍したりする道もあります。
(2)税理士補助の仕事に役立つ資格とは?
未経験から税理士補助を目指す場合、持っていると有利な資格がいくつかあります。
最も代表的なのが日商簿記検定です。
3級程度の知識があれば、会計の基本的な仕組みを理解していることの証明になります。
2級まで取得していれば、より高く評価されるでしょう。
その他にも、税理士試験の科目である簿記論や財務諸表論に合格していれば、税理士を目指す意欲があることの証明になります。
(3)未経験からの税理士補助への志望動機は?
未経験から税理士補助を目指す際の志望動機は、正直で具体的であることが大切です。「安定した職業に就きたい」「専門スキルを身につけたい」といった理由は誰にでも当てはまるため、あなた自身の経験や考えと結びつけて語ることが重要です。
例えば、前職での経験から会計や税務に興味を持ったエピソードを交えるとよいでしょう。「前職で経理部門とやり取りする中で、数字で会社の状況を把握する面白さに気づいた」「自分で確定申告をした際に税金の仕組みに興味を持った」といった具体的なきっかけがあると説得力が増します。
また、なぜその事務所を選んだのかも明確に伝えましょう。「未経験者への教育体制が整っている点に魅力を感じた」「地域の中小企業を支える仕事に関心がある」など、その事務所ならではの特徴と結びつけた志望動機が好印象です。何より大切なのは、学ぶ意欲と成長したいという熱意を伝えることです。
■まとめ
未経験・資格なしから税理士補助として働くことは、決して不可能ではありません。むしろ、業界の人手不足を背景に、多くの会計事務所が未経験者に門戸を開いています。大切なのは、正確に仕事をこなす姿勢、学び続ける意欲、そしてコミュニケーション能力です。
税理士補助の仕事は、記帳代行から始まり、徐々に専門的な業務へとステップアップしていきます。最初は覚えることが多く大変ですが、実務を通じて会計や税務の知識が身につき、将来のキャリアにも大きく役立ちます。繁忙期の忙しさや責任の重さといった厳しい面もありますが、それ以上に成長を実感できる仕事です。
もし税理士補助の仕事に興味があるなら、まずは求人情報をチェックして、未経験者歓迎の事務所を探してみましょう。面接では、あなたのやる気と人柄をしっかりアピールしてください。新しいキャリアへの第一歩を踏み出す勇気が、あなたの未来を大きく変えるかもしれません。
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