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税理士試験 簿記論|第75回総括&第76回の対策要点【会計専門学校講師が解説】

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2025年9月4日 簿記講師 鯖江 悠平

年に1回開催される税理士試験。第75回(2025年実施)簿記論の出題を総括し、次の第76回で点を取り切るための方針をまとめました。

長年簿記講師として指導する鯖江悠平氏に、出題傾向・難易度・頻出論点・時間配分・問題によっての“捨てる勇気”の基準まで具体策を聞いています。今年の振り返りにも、来年の仕上げにも効く内容です。解ける問題から、確実に積み上げましょう。ぜひ参考にしてみてください。

■税理士試験 簿記論

(1)簿記論とは

簿記論は税理士試験の必須科目の一つです。企業活動において日々の取引を記録・集計・計算方法など一定のルールを学ぶのが「簿記論」です。税理士試験の「簿記論」は日商簿記検定と出題範囲の大部分が重複しているため、日商簿記検定を学習された方なら、その知識が「簿記論」の学習において大きなアドバンテージになることは間違いありません。

また、「簿記論」では工業簿記の問題も一部出題されますが、日商簿記1級ほどの問題は出題されませんのでご安心ください。

(2)問題構成と試験時間

問題は3問構成で、すべて計算問題が出題されます。配点は第1問25点、第2問25点、第3問50点の計100点満点で構成されています。試験時間は120分で、時間内では解答しきれないボリュームが出題されるので、解くべき問題と解かない問題(捨てる勇気)を瞬時に判断する必要があります。この瞬時に判断する力は、相当数の問題を解き、解答にたどり着くまでの所要時間を憶測する力を養う必要があります。

(3)簿記論の合格率

過去5年の合格率は、下記の通りです。

令和6年(第74回):17.4%
令和5年(第73回):17.4%
令和4年(第72回):23.0%
令和3年(第71回):16.5%
令和2年(第70回):22.6%


毎年の合格率に若干のブレはあるものの、平均すると19%くらいです。以前に比べると合格率は上昇していますので、しっかり勉強すれば合格できる可能性は高いと言えるでしょう。

■簿記論の振り返り

(1)第一問

・自己株式(取得・処分・消却)
・転換社債型新株予約権付社債(発行・決算・権利行使)
・積立金方式による圧縮記帳(取得・決算)
・外貨建その他有価証券(取得・決算)、
・のれんの償却
・これらの最終値を用いた分配可能額

第一問は、上記について出題されました。いわゆる純資産会計を中心とした問題です。転換社債型新株予約権付社債は社債利息の金額より行使割合を算定し、圧縮記帳は減価償却費の金額を用いて耐用年数を算定するなど、 取引のスタートから現在までの会計処理と期間損益計算の考え方などが分かっていなければ解けないような構造 になっています。

出題の意図にも記載されていますが、特定のタイミングのみならず、各項目に関する一連の取引を適切に処理できるか(以前の処理に矛盾することなく、続く取引を処理することできるか)を問われており、項目ごとに簿記一巡を理解しているかを問われています。

(2)第二問

問1 吸収分割(分割会社と承継会社)

吸収分割の企業結合側と事業分離側の会計処理を精算表形式で問う問題です。事業分離(分離元企業)に関して、分離した事業に関する投資が継続しているのか、あるいは投資が清算しているのかそれぞれの会計処理を問われています。また、企業結合に関しては取得と逆取得の会計処理が問われています。一部難易度が高めです。

問2 ストック・オプション

ストック・オプションについて一連の処理を問う問題です。基本的な問題と条件変更(業績条件)に関して問われており、権利不確定による失効の取り扱い、対象勤務期間の見積もりはストック・オプションの会計処理を行ううえで基本的な項目となります。

(3)第三問

推定要素が絡んだ総合問題です。出題された論点としては、普通預金・商品売買・貸倒引当金・リース取引(貸手)・役務収益及び役務原価(保守サービス)・有形固定資産・投資有価証券(一部売却による保有区分の変更)・借入金(為替予約)・営業費・人件費・剰余金の配当が出題されました。

固定資産については、通常の減価償却費の計算に加えて、圧縮記帳・資産除去債務(取崩し)・買換え・リース(解約)など多岐にわたる出題があり、難易度が高い論点も含まれていたため、解答できる箇所とそうでない箇所の取捨選択が必要であったのではないかと思います。

前期末・当期末の閉鎖残高と普通預金の収支を読み取り、各問で求められる収益及び費用の金額を求めて解答を作成していく問題ですが、オーソドックスな決算の問題とは異なるため、解答の求め方に戸惑った受験生が多いのではないかと思います。その反面、前期末・当期末の閉鎖残高の差額が当期の収益及び費用となる箇所も含まれているため、気づくことができれば解答が容易であった箇所もありました。

とはいえ、初見でこのように見たことがない出題形式に対応するにはやや難易度が高かった気がします。そのため、出題の意図にも記載されていますが、与える必要がない資料をあえて明示することにより、差額で求めることや正攻法で計算するなど複数のアプローチで計算することができるよう難易度は調整されていたようです。

■簿記論の今後の対策

自分が思うように解けた人、あるいは思うように解けなかった人、それぞれいるかと思います。合格を勝ち取るためには、 今回出題されたから次回は出題されないなどヤマをはるのではなく、まんべんなく学習することが大切 です。

そのうえで、120分という制限時間の中で早く正確に解答する練習を怠らないでください。より多くの問題を解くことにより、解答までのプロセスや所要時間を予測することができます。

これがまさに解く問題と解かない問題の取捨選択に役立つことになります。また、来年度も見たことない形式で第3問の出題が予想されますが、 あくまでも資料の与え方が見たことがないだけであり、やるべきことは「いつも通りの決算整理仕訳」を行い、閉鎖残高勘定と損益勘定などを作成すること です。

■さいごに

「税理士に求められる能力は、与えられた資料から定型化した簿記処理ができることは当然必要であるが、会計実務においては、取引事実を十分に理解していることは前提として、会計基準に準拠した勘定科目の選択や金額の算定を行う必要があり、不足する資料があればこれを収集して簿記処理をする必要がある。」と出題の意図に記載されています。

単に簿記論の試験としての問題ではなく、会計実務を意識した学習を日頃より行うことにより、 会計実務において活躍できる人材を輩出したいという願いがこもった問題 ではなかったでしょうか。資格を取得することはもちろん大切なことではありますが、一人の会計人として働き、社会に貢献することを忘れないようにしましょう。

執筆者プロフィール

鯖江 悠平(さばえ ゆうへい)
簿記講師

簿記専門学校卒業後、専門学校の簿記会計講師を担当。

これまで簿記会計の授業だけではなく、テキストや問題集等の教材開発、学生の就職相談や卒業生の転 職相談など幅広く業務に携わっている。

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