■なぜ1年目で転職を考えてしまうのか
税理士・会計事務所での1年目は、多くの方にとって試練の時期となります。まず最も大きな要因として挙げられるのが、
業務量と責任の重さ
です。税理士業界は繁忙期と閑散期の差が激しく、特に確定申告時期や決算期には深夜まで残業が続くことも珍しくありません。入社前に想像していた以上の業務負荷に直面し、体力的・精神的な疲労が蓄積していきます。
また、専門性の高い業務であるがゆえに、
覚えるべき知識や手続きが膨大で、常に学習し続けなければならないプレッシャー
も大きな負担となります。税法は毎年改正があり、最新の情報をキャッチアップし続ける必要があります。さらに、クライアントからの要求も多様化しており、税務だけでなく経営相談や資金調達支援など、幅広い知識が求められる場面が増えています。
人間関係の悩みも見逃せない要因です。小規模な事務所では限られたメンバーで業務を行うため、一度人間関係に問題が生じると職場全体の雰囲気に影響が及びます。また、
所長や先輩職員との考え方の相違、指導方法への不満、コミュニケーション不足などが重なると、職場に居づらさを感じるようになります
。
給与面での不満も転職を考える大きな理由の一つです。
税理士業界は一般的に初任給が低めに設定されていることが多く、特に無資格での入社の場合、期待していた収入を得られないことがあります
。長時間労働の割に給与が見合わないと感じたり、将来的な昇給の見通しが立たないことで、他業界への転職を検討する方も少なくありません。
■まずは業務の見直しを!どのように負荷を軽減できるか
ポイント①
業務負荷の問題を解決するには、まず自分の業務効率を見直すことから始めましょう。多くの場合、
1年目の職員は基本的な作業に時間をかけすぎている傾向があります
。例えば、仕訳入力や資料整理において、ショートカットキーの活用やテンプレートの作成により、大幅な時間短縮が可能です。
ITツールの活用による効率化も検討してください。クラウド会計ソフトの機能を十分に活用できていない場合や、手作業で行っている作業を自動化できる場合があります。事務所で使用しているソフトウェアの機能を改めて学び直したり、新しいツールの導入を提案することで、業務全体の効率化を図ることができます。
ポイント②
タスク管理の改善も効果的です。
一日の始まりに優先順位を明確にし、重要度と緊急度のマトリックスを使って業務を分類する習慣をつけましょう
。
また、同じような作業をまとめて処理する「バッチ処理」の考え方を取り入れることで、集中力を維持しながら効率よく作業を進められます。
ポイント③
上司や先輩との相談も重要な解決策です。業務量が明らかに過大である場合は、率直に相談してみましょう。多くの場合、上司は部下の業務状況を正確に把握できていないことがあります。具体的な業務内容と所要時間を整理して相談することで、業務の再配分や優先順位の見直しが行われる可能性があります。
■なぜコミュニケーションが重要なのか
職場でのコミュニケーション不足は、多くの問題の根本原因となります。税理士・会計事務所では専門的な業務が中心となるため、どうしても個人作業の時間が長くなりがちです。しかし、だからこそ意識的にコミュニケーションを取ることが重要になります。
(1)報告・連絡・相談の徹底
まず、報告・連絡・相談の「ほうれんそう」を徹底することから始めましょう。
特に1年目は、些細なことでも確認を取る習慣をつけることが大切です
。不明な点をそのままにして後で大きな問題に発展するよりも、その場で確認を取る方が結果的に効率的です。
(2)積極的に質問する
また、積極的に質問することも重要です。多くの新人は「こんなことを聞いても大丈夫だろうか」と躊躇しがちですが、適切な質問は成長への近道です。質問する際は、事前に自分なりに調べたことや考えたことを整理し、具体的に何がわからないのかを明確にして相談しましょう。
(3)チームワークの向上を
チームワークの向上にも努めましょう。繁忙期には全員が余裕を失いがちですが、そんな時こそお互いをサポートする姿勢が重要です。自分の業務が終わった際は他のメンバーの手伝いを申し出たり、困っている同僚がいれば声をかけるなど、協力的な態度を示すことで職場の雰囲気改善に貢献できます。
■どうすれば勉強時間の確保ができるのか
(1)短くても朝時間・昼時間の活用を
税理士資格の取得を目指す場合、限られた時間の中で効率的な学習計画を立てるように意識しましょう。まず朝の時間を有効活用しましょう。通勤時間や始業前の30分を勉強時間に充てることで、集中力の高い状態で学習を進められます。音声教材やアプリを活用すれば、移動時間も無駄にすることなく知識の定着を図れます。
昼休みの効率的な活用も重要なポイントです。食事を済ませた後の15分から20分程度を復習時間に充てることで、午前中に学んだ内容の定着度を高めることができます。短時間でも継続することで、記憶の定着効果は大幅に向上します。また、職場の理解を得られれば、昼休みの延長や早めの退社など、勉強時間確保のための調整を相談してみることも一つの方法です。
(2)実務と学習の相乗効果を狙う
実務と学習の相乗効果を最大化することも、効果的な時間活用法です。日中の業務で遭遇した疑問点や処理方法を、その日の学習テーマと関連付けて復習することで、理論と実践の両面から理解を深められます。例えば、法人税の申告書を作成した日には、該当する法人税法の条文を確認するといった具合に、実務経験を学習のきっかけとして活用しましょう。
(3)週末はまとまった学習時間を取る
週末の学習時間は集中的な知識整理に充てることが効果的です。平日に断片的に学んだ内容を体系的に整理し直したり、問題演習を通じて実践力を鍛えたりする時間として活用します。
また、事務所によっては資格取得支援制度や勉強会の開催があるので、これらを積極的に活用することで、同じ目標を持つ仲間とともに効率的に学習を進めることができます。
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■どうすれば労働環境を改善できるのか
良好な労働環境は、長期的なキャリア形成において不可欠な要素です。税理士・会計事務所では長時間労働が常態化しやすい傾向がありますが、持続可能な働き方を実現するためには環境改善への取り組みも必要です。
(1)労働時間を把握し、環境を整える
まず、自分の労働時間を正確に把握することから始めましょう。どの業務にどれだけの時間を費やしているかを記録し、無駄な時間や改善できる点を洗い出します。また、
休憩時間の確保や有給休暇の取得など、法的に保障された権利を適切に行使する
ことも重要です。
職場環境の物理的な改善も検討してください。デスクや椅子の高さ調整、照明の改善、温度管理など、作業効率に直結する環境要因を見直しましょう。また、整理整頓された清潔な職場環境は、精神的な安定にも寄与します。
(2)ストレスを溜めないよう意識する
メンタルヘルスの維持も重要な課題です。ストレスの早期発見と対処法を身につけ、必要に応じて専門機関への相談も検討しましょう。また、趣味や運動などのストレス発散方法を確保し、仕事とプライベートのバランスを保つことが大切です。
これらの改善要求に対して職場が応じない場合や、労働基準法に違反する長時間労働が常態化している場合は、転職を真剣に検討すべきタイミングと言えるでしょう。
■どのように将来のキャリアプランを描けばよいか
税理士・会計事務所でのキャリアは多様な可能性を秘めています。1年目の段階で将来の方向性を明確にすることで、現在の困難も乗り越えやすくなります。
(1)税理士資格を取得するかどうか
まず、税理士資格取得を目指すかどうかを決めましょう。資格取得を目指す場合は、長期的な学習計画を立て、現在の業務との両立方法を考える必要があります。一方、資格取得を目指さない場合でも、専門性を高める方向性は複数あります。例えば、IT分野に特化したり、特定の業界に精通したり、経営コンサルティング能力を身につけるなどの選択肢があります。
(2)独立開業するかどうか
独立開業への道筋も検討してください。将来的に独立を考えている場合は、現在の職場でどのような経験を積むべきかを逆算して考えることができます。顧客との関係構築、営業スキルの向上、事務所経営の知識習得など、雇われる立場では学べない要素も多くあります。
(3)転職するかどうか
転職を含めた他の選択肢も視野に入れましょう。税理士・会計事務所での経験は、一般企業の経理部門や金融機関、コンサルティング会社など、様々な分野で活かすことができます。現在の不満が将来のキャリアチェンジのきっかけとなる可能性もあります。
■どうすれば適切な転職タイミングを見極められるか
転職を検討する際は、感情的な判断ではなく客観的な基準で判断することが重要です。特に「働いて1年目での転職は不利になるのではないか…」と不安を覚える人も多いのではないでしょうか。業界的に短期離職は選考で懸念されやすいのは事実ですが、「必ず不利」とは限りません。人材不足の会計事務所も多く、20代前半ならポテンシャル採用されるケースも多々あります。
(1)現在の環境に改善の余地があるかどうか
まず、改善の余地があるかどうかを慎重に検討しましょう。上司との面談を申し込み、現在抱えている問題について率直に相談してみることをお勧めします。多くの場合、職場側も問題を認識しており、改善に向けた取り組みが期待できる可能性があります。
(2)転職市場での自分の価値を知る
転職市場での自分の価値を客観的に評価することも重要です。現在のスキルレベル、経験年数、保有資格などを踏まえ、転職によって本当に状況が改善されるかを検討しましょう。また、転職活動には時間とエネルギーが必要であることも考慮に入れる必要があります。
また単に現在の職場から逃げたいという理由ではなく、将来的なキャリア目標の実現のための戦略的な転職であることも重要です。次の職場で何を達成したいのか、どのような成長を期待するのかを明確にしましょう。
そのためには経理・会計専門のエージェントに現状を相談することをおすすめします。通常、エージェントへの相談は無料ですし、専門家の視点でのあなたの状況に合わせたアドバイスは非常に有益なものになるでしょう。
■成功事例から学ぶ現在の状況を変える方法
成功事例1:業務改善提案により職場環境を変えたHさん(28歳・女性)
Hさんは大手会計事務所に入社後、1年目で深刻な業務負荷に悩まされていました。毎日午後10時まで残業が続き、休日出勤も月に数回発生する状況でした。当初は転職を真剣に検討していましたが、まず現在の職場での改善可能性を探ることにしました。
Hさんが取った行動は、自分の業務内容と時間を詳細に記録すること。1か月間のデータを収集し、どの業務にどれだけの時間を要しているかを分析しました。その結果、手作業で行っている作業の多くが、システムの機能を活用すれば大幅に短縮できることが判明。
さらにHさんは、同僚の業務状況もヒアリングし、事務所全体の効率化案をまとめて上司に提案しました。具体的には、定型的な資料作成のテンプレート化、チェックリストの作成、業務マニュアルの整備などです。上司はHさんの提案を高く評価し、改善プロジェクトのリーダーに任命されました。
結果として、事務所全体の業務効率が大幅に向上し、残業時間は平均して30%削減。転職を考えていた1年目の経験が、結果的に大きな成長のきっかけとなった成功例です。
成功事例2:専門性を高めて理想の職場に転職したKさん(27歳・男性)
Kさんは中小の会計事務所で働いていましたが、1年目で将来への不安を感じるようになりました。事務所の規模が小さく、学べる業務範囲が限定的で、キャリアアップの機会も少ないと感じていました。しかし、すぐに転職するのではなく、まず自分のスキルアップに集中することにしました。
Kさんは業務時間外に積極的に勉強し、1年で日商簿記1級を取得。さらに、もともと得意だった英語の勉強にも力を入れてTOEIC800点を達成しました。これらのスキルは現在の職場でも活用でき、徐々に難易度の高い業務を任されるようになりました。
3年が経過した頃、Kさんは自分の市場価値が向上したと判断し、転職活動を開始しました。国際的な会計事務所への転職を目標とし、これまでに身につけたスキルをアピールポイントとしました。転職活動では、現在の職場で取り組んだ業務改善事例や、自主的に習得したスキルが高く評価されました。
結果として、外資系会計事務所への転職に成功し、年収も30%アップしました。新しい職場では国際的な案件に携わることができ、さらなる成長機会を得ています。
これらの事例からわかるように、1年目で感じる不満や困難は、適切なアプローチにより解決できることが多くあります。転職という選択肢も含めて、自分にとって最適な道筋を見つけることが重要です。
■まとめ
税理士・会計事務所での1年目に転職を考えることは、決して珍しいことではありません。業務負荷の重さ、人間関係の悩み、給与への不満など、様々な要因が重なって転職を検討する状況に至ることがあります。しかし、転職を決断する前に、現在の職場で改善できる点がないかを慎重に検討することが重要です。
一方で、構造的な問題や価値観の根本的な相違がある場合は、転職が最適な選択となることもあります。その際は、十分な準備期間を設け、自分のスキルアップを図った上で戦略的に転職活動を進めることが成功のカギとなります。
どのような選択をするにしても、現在の経験を無駄にすることなく、長期的なキャリア目標の実現に向けて歩み続けることが大切です。1年目の困難は、必ず将来の成長につながる貴重な経験となるはずです。
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ジャスネットキャリア編集部
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