■「税理士試験はやめとけ」と言われる4つの理由
(1)理由1:暗記が多く、勉強する範囲も広い
まず突然ですが、この文章を丸ごと暗記できますか?
事業者(免除事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下同じ。)、特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、課税仕入れを行った日、特定課税仕入れを行った日又は課税貨物を引き取った日若しくは特例申告書を提出した日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額、その課税期間中に国内において行った特定課税仕入れに係る消費税額及びその課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額の合計額を控除する。
これは消費税法「仕入税額控除」の条文を、資格の学校が受験生向けに簡略化したものです。このような税法の理論を大量に丸暗記しなければならないのが、税理士試験です。
税理士を目指す方は、会計科目である簿記論・財務諸表論から勉強を始める方が多いと思いますが、これ以外の税法科目の理論暗記はその2科目の比ではないくらい大変です。
わたしの場合、消費税法の条文は文字の羅列がプログラミング言語に似ているなと感じ、一定の法則で繰り返されているとわかれば、覚えやすくて面白いとも感じました。が、やはり何十ページと丸暗記するのはとても苦労しました。
税理士試験で科目合格を積み重ねていった先に理論暗記の壁にぶつかり、断念する人もいるでしょう。そういう経験をした人は、まだそれを経験していない人に対し「税理士試験、やめとけ」と忠告してしまうかもしれません。
(2)理由2:1年に1科目ずつ受けられるので難易度を見誤る事
みなさんご存じの通り、税理士試験の合格に必要な科目数は必修となる会計科目2科目(簿記論・財務諸表論)と税法3科目です。
税法科目は、所得税法・法人税法・相続税法・消費税法または酒税法・国税徴収法・住民税または事業税・固定資産税の9科目から選ぶことができます。
(選択必須科目は所得税法、法人税法のいずれか)
試験日は毎年8月の年1回。5科目に合格しなくてはならないとはいえ、毎年ひとつずつ挑戦できるという試験スタイルから、勉強を始める前は「これならイケる!」と思いがちなのがこの試験の恐ろしいところです。
実際に税法の試験勉強を始めると、先述したとおり圧倒的な暗記量に驚きます。
また、初めて試験に挑戦するルーキーから、簿記論・財務諸表論には合格済みで10年目の挑戦者というベテランまで、税法科目のライバルは猛者ばかり。この中から1科目でも合格を勝ち取るのは、並大抵のことではありません。
(3)理由3:落ちた理由がわかりづらい
税理士試験の合格基準点は、各科目とも100点満点中の60点です。
理論上はもし受験生全員が60点以上を得点した場合、全員合格もあり得るルールですが、実際のところは傾斜配点といって合格者の人数を10%前後に調整しています。そのため合格・不合格をわける59~60点ラインに大量の受験生が存在し、自己採点では合格できたと思っていても、不合格になってしまう場合があるのではないかと言われています。
また不合格の場合は、0~59点の得点が開示されますが、どこの部分でミスしたかまではわからないブラックボックスになっています。なので、釈然としない気持ちを持ったままもう1年勉強をするという辛さに耐えられない可能性もあります。
(4)理由4:とにかく大量の手書きが必要な筆記試験
税理士試験はマークシート方式ではなく、時間内に大量の文字を書かなければいけない筆記試験です。受験生は「いかにギリギリ読める文字で、正確にたくさん書くことができるか」を競いあっているような、「速記大会」化している面もあります。
ただ、自分の文字にあまり自信がなかったり、早く書くことが苦手な人は、非常に不利になると思われがちですが、まわりの税理士の方に話を聞いても試験の手書きが得意だったという方はほとんどいません。
合格する人は、「とにかく早く書く」という反復練習を繰り返したり、資格の学校の先生に自分の答案の文字についてアドバイスをいただくなど、工夫をしているように思います。そういうところで、受かりたいと思う熱意や執念、鍛錬する覚悟が必要な試験といえるでしょう。
■ 税理士試験に挑戦してもOKな人とは?
(1)税理士試験に挑戦する前に心得ておくべき2つのこと
では、わたしが税理士試験を卒業した立場で「こんな人であれば税理士試験に挑戦しても大丈夫」と思うかをお伝えします。大事なのは、下記の2つでしょう。
1. まとまった勉強時間を確保できる(作れる)人
2. 3年受験して1科目も合格できなかった時にスパッと辞められる人
(2)まとまった勉強時間が必要な理由
まず1について、税理士試験を合格するまではとにかく大量の勉強時間が必要です。模試一題を解くのに2時間かかりますし、通学する場合の授業は3時間ですので、この時間を自分で捻出しなくてはなりません。
仕事で残業が多くて勉強できなければ、早く帰るように工夫したり、残業の少ない職場に転職する。子育てで時間がなかなか確保できなければ、子供が寝たあとに勉強したり、子育てを手助けしてもらえる環境を作ろうと考える。自ら行動に移して勉強時間を作れる人であれば、挑戦しても後悔せずに頑張れると思います。
(3)なぜ、スパッと辞めることが必要なのか
2については、合格できないのにダラダラと勉強を続けてしまい、時間を無駄にしないための自衛手段です。
わたしが言いたいのは、自分で期限を決め集中して頑張っても、合格できないとなったときには思い切って辞めるという判断ができる方なら、大変な試験勉強をやりぬく覚悟もあるのではないか、ということです。
とにかく長期戦になると精神が疲弊してくる試験です。3年合格がないならスパッとあきらめる、くらいの気持ちで最初から臨んでほしいと思っています。
もちろん適性があれば、長年、勉強を続けることで合格できる方もいるでしょう。実際、最初の4年間は科目合格がなく、その後の3年で5科目取得したという強者を知っていますが、そのようなケースは非常に稀です。
また、簿記論・財務諸表論を合格している場合は、税法3科目のうち試験で1科目合格、残りの2科目は大学院で取得するというルートを選ぶ方法もあります。なので、そのルートも視野に入れて受け続けるのもよいかと思います。
実際わたしの場合も、法人税法を3年不合格になったあと大学院に進学しましたので、3年は一区切りになると思います。
■ 税理士試験をあきらめた…その先にあるおすすめの資格
税理士試験は、思った以上に難しい試験です。最初はやる気に満ちて始めた勉強も、不合格が続くとモチベーションを保てなくなることもあるでしょう。
そんな時には一度、「なぜ自分が税理士資格を取りたいと思ったのか」「やりたい仕事は本当に税理士でなくてはできないのか」、自問自答してみましょう。
一例をあげると、現在は会計業界でもIT化がどんどん進んでおり、そういった中で活躍されている方が必ずしも税理士・公認会計士であるわけでもありません。
今まで税理士の勉強をしてきた方であればなおさら、それに別の資格をプラスし、実務経験を積むことで開ける道もあるかと思います。
ここでは税務・会計業界で高く評価される資格をご紹介しますので、次のステップとして参考にしていただければ幸いです。
(1)相続に関する資格
税法の中で最も難しい科目の一つと言われているのが「相続税法」です。もしあなたが相続税法の勉強をしてきたのなら、【相続士】【相続診断士】【相続カウンセラー】などの資格取得を目指してはいかがでしょうか。
最終的な申告手続きは税理士しかできませんが、相続の相談をできるようなカウンセラー的な役割は、いまの世の中で大変必要とされています。
どんな会計事務所でも相続に関する相談はありますし、会計事務所でなくとも相続に特化したビジネスを展開している会社もありますので、相続系の資格を取得しておくと評価されるでしょう。
(2)ファイナンシャルプランナー(FP)
FPは「くらしとお金」に関する幅広い相談に対応することのできる資格です。金融業界、不動産、保険業界、資産運用コンサルティングなどで広く活かすことができます。
また昨今の会計事務所では事務所内での「保険担当」として、クライアントに説明をするポジションのFP資格保有者ニーズも増えています。
経理・会計業界で活躍するために、取得しておいて損はない資格だと思います。
(3)日商簿記1級
日商簿記1級と税理士試験の簿記論は出題範囲が8~9割重なっており、難易度も同じくらいと言われています。合格率が低く足切りもあり非常に難しい試験ですので、企業によっては取得すると手当がついたり、昇給の際に高い評価を得ることができるでしょう。
日商簿記1級の範囲には工業簿記や原価計算が含まれますので、簿記論とどちらをより難しいと感じるかは個人によります。とはいえ、今まで税理士試験の簿記論の勉強をしてきた方であれば、挑戦しやすい資格ではないでしょうか。
(4)全経の法人税法能力検定
全経の税法能力検定も評価される資格です。たとえば法人税法能力検定でしたら、企業に課される法人税の税務処理や税務署への提出書類に必要な知識を問われます。経理担当者としてスキルアップを目指す方や、税法のスペシャリストにとっても有用な資格になります。
法人税の勉強をしてきた方であれば、基礎学力の確認としても使える資格試験になるため、挑戦してみてもいいのではないでしょうか。また、3級から始まり、2級、1級と進めることができますので、確実に実力を積むのに適した試験といえます。
■ まとめ
今回は、「税理士試験はやめとけ」と言われる理由と、今までの勉強を活かして取得できる資格のご紹介をいたしました。
税理士資格は取得まで最短でも4~5年はかかると言われる難関です。途中でモチベーションが続かなくなってしまったり、永遠に勉強が終わらないような気持ちになってしまったり、頑張りすぎて体調を崩してしまったり…と、個々人にドラマがあることでしょう。
わたしは運よく税理士資格を取得できたことで、いまたくさんのご縁に恵まれ自分らしく働くことができています。近年は税理士業界を盛り上げるイベントが各地で多く開催されており、先日「税理士サミット」というイベントに参加してきました。
日本各地から450名以上もの税理士その他関係者が集まり、大いに盛り上がりました。(前列、右の方にいます)
いま税理士業界はITの導入が進む変革期にあります。そんな中、最前線で活躍されている人たちは税理士だけではないと実感しました。ですが、税理士だからこそ見える世界もあると思います。この記事が、受験生の方にとって考えるきっかけになれば幸いです。
- 執筆者プロフィール
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定岡 佳代(さだおか かよ)
税理士
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。
「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。