税理士試験を受けるためには一般的に大学での単位認定が必要になります。令和4年の税理士法改正により、学識による受験資格は緩和されましたが、大学での学習内容によっても税理士資格の取りやすさは異なるのではないでしょうか。
今回は、税理士試験と大学との関係を見ていきましょう。
税理士試験合格に向けて選ぶべき大学、予備校、会計大学院は?
税理士試験を受けるためには一般的に大学での単位認定が必要になります。令和4年の税理士法改正により、学識による受験資格は緩和されましたが、大学での学習内容によっても税理士資格の取りやすさは異なるのではないでしょうか。
今回は、税理士試験と大学との関係を見ていきましょう。
税理士試験の受験資格のうち、最も出願が多いのが学歴によるものです。
しかし、弁護士や公認会計士などと異なり、税理士を目指す人は必ずしも超高学歴者ばかりというわけではありません。
ただし、学部の選択においては商学部や経営学部出身者が多い傾向にあります。なぜなら、こうした学部では簿記や会計学などの授業が大学のカリキュラム内にあり、自然とこうした資格試験に興味を持つ学生が多く集まってくる土壌があるためです。
また、税理士試験は在学中でも受験できますが、在学中に学識資格で受験する場合には学卒者と異なり、3年次以上で社会学に属する科目を1科目以上含む62単位以上を取得していることが要件となりました。
そのため、大学時代からの早期合格を目指すのであれば、こうした学部を選択し、受験に必要な授業を選択する方が有利なのです。
大学自体もこうした国家資格の取得者が増えることは実績になります。近年では中央大学、駒沢大学、産業能率大学、関西大学など、多くの大学で受験のための支援講座を学内で行っています。
こうした講座は、大原やTACといった有名試験予備校のカリキュラムをそのまま利用しているため、予備校に通わなくても同様のレベルの授業を、テキスト代程度の少額な費用負担で受講することができます。
そのため、税理士を目指すのであれば、大学受験の際にこうした講座の有無などの情報を集めておくとよいでしょう。
実際に税理士として活躍する人は必ずしもこうした学部の出身者だけではありません。
他の学部出身者でも社会科学に属する科目を1科目以上履修していれば単位要件は満たします。卒業時の単位で出願する場合にはそれほど高いハードルとも言えません。
理士試験の資格予備校の2台巨頭として有名なのが「資格の大原」と「TAC」の2社です。有資格者のなかでも「どちらの出身ですか?」といった会話が行われることも多く、両者の受講生が大半を占めています。いずれも全国各地にある教室での担当講師による生授業スタイルを基本とした40年ほどの実績がある老舗予備校です。
5科目合格者を対象とした合格祝賀会は、有名ホテルで行われる華やかなパーティー形式で、祝賀会への出席を日々の勉強の糧にする受験生も多いです。
令和5年度の官報合格者 600人中、大原出身者は320名。TAC出身者は、こちらは令和5年の最新合格者数が発表されていなかったので、令和4年の数字で289名(それぞれ重複受講者含む) です。実績から見てもどちらも合格するためには遜色ないカリキュラム内容と言えるでしょう。
また、税理士試験11科目のすべての科目に対応しているため、受験者数の少ないマイナー科目にチャレンジできるのも老舗ならではの特長です。両校の受講生以外も受験する、本番さながらの全国模試も試験直前に行われています。
実際のところ、カリキュラム内容、受講形態(通学、Web、DVDなど)、質問対応(電話、メール)、受講料(通年で単科目23万円程度)などに大きな違いはありません。どちらを選択したかは、立地や講師との相性、開講時間などさまざまな理由で、受験途中に学校を変えたという受講生も少なくないです。
一般的に言われている違いは、大原はカリキュラムに沿った密度の濃い均質的な授業を行います。これに対し、TACは実務家の講師なども多数在籍し、講師自身の個性を生かした個性的な授業を行うという点です。科目ごとのスター講師がいるなど、内部の受講生しか知らない情報も多いため、学校が開催する説明会だけでなく、チャンスがあれば受験経験者からの話も聞くとよいでしょう。
なお、どちらも教育訓練給付金の対象校であり、対象者は受講料の給付が受けられます。このほかにTACでは、株主優待制度があり、優待券利用で授業料の10%割引が適用されます。優待券は、ネットオークションなどでも購入できるので、多くの受験生が利用しています。
また、資格の大原は運営母体が大原学園という専門学校であり、税理士試験に関しては資格予備校だけでなく、受験資格を得られる専門学校を持っているのも特長です。
大原の専門学校では、通信制大学を利用し、大学卒業資格も得られるカリキュラムもあります。これを利用することで、会計大学院入学に必要な学部卒の資格も同時に得ることができます。
専門学校は、指定校推薦やAO入試などの入学制度だけでなく、学内の授業料減免制度や日本学生支援機構の奨学金制度も利用できます。これらの制度を利用して、税理士の受験勉強ができることもメリットと言えるでしょう。
上記老舗2社以外にもさまざまな予備校がありますが、これらの大きな特長は料金がリーズナブルである点です。
これは、老舗予備校が受験科目や受講形態などさまざまなサービスを選択できるいわば、フルスペックサービスを提供しています。それに比べ、教室を持たずWeb媒体のみを利用したり、開講科目を主要科目のみにしたりするなど、サービスを絞ることにより低価格化を実現しているのです。このうち、受験生に人気な3校をご紹介しましょう。
スマホ学習に特化したオンラインでの学習形態の授業を行うことを特長とし、通勤の際の隙間時間を学習時間に充てられることから、忙しい社会人を中心に人気を伸ばしている学校です。
また、受講料は最もリーズナブルで、簿財2科目59,800円~、税法1科目49,800円~で受講できます。AI問題復習機能、理論の音声学習ツール、学習進捗度の管理ツールなど、スマホ学習ならではの機能も充実しています。
独自の「非常識合格法」と呼ばれる最小範囲に絞った薄いテキストで効率的に短期間合格を目指す学習方法が大きな特長の学校です。
受講形態はマルチデバイス対応であり、PCだけでなくスマホやタブレットでの受講も可能です。受講料は通年のアドバンスレギュラーコースで簿財一括135,700円(割引価格)、科目別レギュラー講座で76,700円~126,850円(割引価格)となっています。
スタディングと比べると高価ですが、質問などのサポートサービスも充実しています。
自宅での通信教育だけでなく、全国にあるLEC各校で通学講座も選択できる学習スタイルをとりながら、リーズナブルな価格で受講できることで人気な学校です。授業は実務経験もあるベテラン講師陣が専任講師として担当します。
受講料はレギュラーコースに相当するパーフェクトコースで単科目123,200円~です。
税理士試験は11科目中5科目の科目合格が揃うと合格者となりますが、このうち、大学院で修士の学位取得に係る研究について、国税審議会からの認定を受けた場合には、試験の分野(会計科目、税法科目)ごとに会計科目で1科目、税法科目で2科目の試験が免除されます。
そのため、会計に関する学位と税法に関する学位を両方取得すれば、税理士試験は2科目で合格することができます。
官報合格には簿財、所得税か法人税が必須とされますが、大学院の免除にはこれは該当しません。
学位の取得は、国税審議会が認定する研究である必要があることから、単に会計学や法学で単位取得があればよいというわけではありません。
そのため、科目免除を検討する際は、事前に免除要件に該当する研究ができる学校であるかを確認する必要があります。
こうしたこともあり、学位取得者の多くが利用するのが専門職大学院です。
専門職大学院は高度な専門性を求められる職業を担うための深い学識や卓越した能力を培うことを目的として導入された制度であり、税理士や会計士の試験の免除要件に該当する研究を行っているものを特に会計大学院といいます。
こうした大学院では、科目免除要件を満たす研究指導を行っているため、早期合格を目指すには、一般の大学での修士課程を目指すよりも確実であると言えます。
学部の卒業生が中心となる一般の大学院と比べ、専門職大学院は社会人のリカレント(学びなおし)教育が目的であることが多いため、夜間や土曜日を中心に講義時間が設定されることが多く、社会人でも通いやすくなっています。
ただし、修士課程の修了要件は、30単位以上を取得したうえで研究指導を受け、修士論文を完成させなければならないため、多大な学習時間を要します。
そのため、担当教授や知名度だけでなく、通いやすさは大きな要素になります。
また、試験科目は一般的に面接や論文だけのケースが多いですが、英語の筆記試験があるケースもありますので、試験科目を事前にチェックしておくことも重要です。
なお、基本的に通信制の大学院は東亜大学、産業能率大学などわずかな学校に留まり、名古屋商科大学など週末だけの出席で単位取得が可能な大学もあります。
一方で、ほとんどの大学が平日夜間と土曜日を使って授業に出席しなければならないことにも注意が必要です。
また専門職大学院で学位が取れれば必ず免除資格がもらえるわけではなく、あくまでこうした大学院でも研究内容によっては免除が認められないケースもあります。税理士試験における実績を確認するだけでなく、自身の研究についても指導教授の意見に沿って検討する必要があります。
授業料は私立大学で年間130万円~150万円程度(入学金等別途30万円程度)、国公立大学で年間50万円程度(入学金等別途30万円程度)となります。
なお、青山学院大学など、学校によっては秋入学制度があるケースもあり、1.5年での単位取得が可能なケースもあります。
その場合には、半期の授業料がカットできるため、費用をかけずに短期集中で単位取得を目指すことができます。ただし、その場合であっても必要単位数は変わらないため、注意が必要です。
税理士を目指すには、5科目の試験合格、大学院での修士号の取得、いずれも多大な学習量が必要になります。
また、これらはどちらが簡単かということでもなく、やり方は違えど、いずれも税理士として活躍するために必要な知識や経験となります。
税理士は新卒採用試験のように、出身大学で能力を図られることはなく、完全実力社会です。そのため、どんな形やどんな学校で学んだか?ではなく、学んだ知識をどう実務で活かせるかが重要です。そのためには、自身の置かれている環境の中で最善の勉強方法を利用し、早期合格することが大切なのです。
神奈川県出身。税理士。
早稲田大学在学中から地元会計事務所に勤務。その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。幅広い実務経験と、講師経験から実務家向けセミナー講師多数担当。「実務」と「教えるプロ」の両面に基づいたわかりやすい解説に定評がある。実務においては、街歩き、旅行好きの趣味を生かし、日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、『旅する税理士』。
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