10万円以上の設備、機械、備品などの資産の購入金額を、使用可能期間にわたって費用化する会計処理のことを“減価償却”といいます。
さらに、税務の世界では20万円、30万円のラインで減価償却のルールが設けられています。
ここではその減価償却のルールのひとつである20万円未満の「一括償却資産」について、税理士の定岡佳代先生にわかりやすく解説していただきました。
知らないと損! 一括償却資産とは
税理士 定岡佳代(文章、イラスト)
10万円以上の設備、機械、備品などの資産の購入金額を、使用可能期間にわたって費用化する会計処理のことを“減価償却”といいます。
さらに、税務の世界では20万円、30万円のラインで減価償却のルールが設けられています。
ここではその減価償却のルールのひとつである20万円未満の「一括償却資産」について、税理士の定岡佳代先生にわかりやすく解説していただきました。
「一括償却資産」というワードはご存じでしょうか。簿記では登場しませんが、会計実務において扱う可能性が高く、企業の経理担当者や会計事務所で働く方ならぜひ知っておいていただきたいです。
今回の記事では、一括償却資産について基本的なことを理解していただきたいため、事業年度が1年である法人を前提として、重要性の低い細かな論点は省きました。以下お読みいただけますと幸いです。
通常、10万円以上の支出は、費用ではなく資産として計上します。取得した資産は、使用開始してから徐々に価値が目減りしていくと考え、その資産の耐用年数(役割を果たすとみなされる期間)にわたって費用化していきます。これを減価償却といい、減価償却される資産を減価償却資産といいます。
また税務の世界では、通常の減価償却ルールに加え、取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、使用開始から3年度にわたり、その取得価額の合計額を一括して毎年度3分の1ずつ費用化することができるというルールを設けています。このように3年で費用化する取得価額10万円以上20万円未満の資産を「一括償却資産」といいます。
「一括償却資産」は、会計ではなく税務の世界で登場しますので、簿記を勉強した方でも知らないことが多く、お問い合わせの多いワードです。
ちなみに、「取得価額10万円以上20万円未満」の判定については以下のことに注意が必要です。
たとえば、税込み経理をしている12月決算の会社が、当年度中に1台15万円(税込)の机を10台購入した場合を考えてみましょう。
一括償却資産として減価償却できるか、下記のステップで考えてみます。
一括償却資産の場合、10台の机のうち5台を3月に、残り5台を12月に購入したとしても、取得日に関わらず10台の取得価額合計を一括して、3分の1ずつ費用化できるというところがポイントです。
ここでいったん、一括償却資産から通常の減価償却に話を戻しましょう。
通常の減価償却方法には、「定額法」と「定率法」の2つがあり、減価償却費は次の式で計算します。
取得価額または期首簿価(※1)×償却率(※2)×(当年度の所有月数÷12ヶ月)(※3)
(※1) 定額法の場合は取得価額、定率法の場合は2年度から期首簿価を使います
(※2) その資産の種類に応じた耐用年数と減価償却方法により決まります
(※3) 年度の途中に取得した場合は、取得後の所有月数であん分します(1カ月未満は
1カ月とします)
例として、15万円の木製の机を期首に購入した場合を考えてみましょう。木製の机の場合、種類・科目は「器具及び備品」となり、耐用年数は8年です。この木製の机について、定額法と定率法の減価償却費の違いを図で見てみましょう。
上の図のように、定率法は定額法より償却率が大きいため、早期に減価償却費を多く計上できます。つまり、
経費(減価償却費)が多くなる → 利益が減る → 法人税等の節税効果が高くなる
となり、定率法の方が税務的なメリットが大きいのです。
なお、法人の場合ですと「器具及び備品」は通常、定率法が適用されます(定額法を適用する場合は、一定の期限までに所定の届出をしておく必要があります)。
次に、この木製の机を一括償却資産として費用化するとどのようになるか見てみましょう。
定額法、定率法、一括償却資産について初年度の減価償却費を比べてみると、一括償却資産の場合が50,000円と最も多く、初年度の節税効果が高いといえます。
また、耐用年数8年の資産でも一括償却資産として会計処理すれば3年で償却でき、早期で減価償却が終わるので、より早期に節税対策ができると考えられます。
なお、一括償却資産の場合は通常の減価償却と違い、償却資産税の課税対象にはならないため、この点でも有利です。
以上のことをふまえると、今回の木製の机の場合は、一括償却資産として費用化することで税務的なメリットが最も大きくなるといえるでしょう。
取得価額が30万円未満の減価償却資産については、年間300万円を限度として全額を購入した年度の費用として計上できる「少額減価償却資産の特例」もあります。
ただし、この特例を適用するには、青色申告法人である中小企業者等であることなどの要件があります。
また、少額減価償却の特例を適用した資産は、償却資産税の対象となります。
この特例が適用できる場合は、通常の減価償却や一括償却資産と併せて考慮した方がよいでしょう。
通常の減価償却の場合において、耐用年数が経過するまでに除却をしたときは、帳簿価額(費用化されていない残額)のすべてを、除却した年度に除却損とすることができます。
しかし、一括償却資産として会計処理した場合には、2年目で除却したとしても除却損を計上せず、2年目も一括して3分の1を費用化し、3年で償却することになります。
一括償却資産は実態としての減価償却ではなく、あくまで税務上簡便な処理として使われているということを覚えておきましょう。
下記リンク先でわかりやすい事例がありますので、ご参考にしてください。
国税庁HP 一括償却資産を除却した場合の取扱い
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/04/03.htm
取得価額が10万円以上20万円未満の固定資産を一括償却資産として扱うメリットとデメリットは、以下になります。
本記事で例にあげた木製の机のように、耐用年数が3年を超える減価償却資産であれば、一括償却資産として費用化することで通常よりも短期間(3年間)で取得価額の全額を費用化できるのです。
「経費が多くなる=利益が減る」ということになりますので、早期に減価償却による節税効果を得ることができます。
10万円以上20万円未満の減価償却資産は、購入する機会が多い金額ですので、各々の資産を耐用年数ごとに分けて管理し通常の減価償却を行うとなれば、減価償却費の計算が煩雑になってしまいます。
これに対して一括償却資産は、取得日に関わらず一括で3分の1ずつ費用化するため、資産台帳で一括償却資産だけをまとめて管理することで、減価償却費を容易に計算できます。
固定資産税の一種として、パソコンやコピー機など事業で使用される減価償却資産に課せられる「償却資産税」があり、通常の減価償却を適用した資産はこの償却資産税の課税対象となります。
しかし、一括償却資産として会計処理したものは、この償却資産税の課税対象になりません。
デメリットとしては、一括償却資産はあくまで税務の世界の取扱いですので、これに合わせて会計処理を行えば、正確な利益が表示されないという考え方もあります。
一括償却資産として処理をすると、多くの場合は利益を下げることになりますので、金融機関や投資家からの融資・出資を受けようとする場合は、不利に働くことがあるということも念頭に置いておいた方がよいでしょう。
また、2年目に除却することとなった場合には、通常の減価償却の方が早く費用化できることも覚えておきましょう。
最後に、減価償却の仕訳例をみてみましょう。
12月決算法人が、3月10日に15万円の木製の机を取得、12月7日に18万円の金属製の机を取得しました。取得後ただちに使用開始しています。
一括償却資産として減価償却した場合の仕訳は以下のようになります。(記帳方法は直接法、決算調整方式による)
取得時(3月10日):
一括償却資産 150,000円 / 現金預金 150,000円
取得時(12月7日):
一括償却資産 180,000円 / 現金預金 180,000円
決算時:
減価償却費 110,000円※ / 一括償却資産 110,000円
※(150,000+180,000)× 1/3 =110,000円
決算時:
減価償却費 110,000円 / 一括償却資産 110,000円
決算時:
減価償却費 110,000円 / 一括償却資産 110,000円
→3年度の決算後には一括償却資産の帳簿価額が0円となる
さて、ここで問題です。上記のケースを通常の減価償却として計算してみると初年度の減価償却費はいくらになるでしょうか。
木製の机 :耐用年数8年、償却率0.25
金属性の机:耐用年数15年、償却率0.133
(答えは冒頭の絵の右下にあります!)
一括償却資産は多くの場合、早期に減価償却を終えることができるため、高い節税効果が期待できるというメリットがあります。
簿記の勉強だけでは出会うことのないワードですが、知っていれば日頃の業務で役に立つことがあるはずです。経理に必要な知識として知った上で、どのように減価償却すればよいかシミュレーションしてみてください。また、詳細については税理士に相談してみるとよいでしょう。
この記事が、日々会計業務と向き合う方々のご参考になりましたら幸いです。
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。
「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。
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