税理士資格を持つことは、現代のビジネス社会において大きなアドバンテージとなります。しかし、資格取得後のキャリアパスは実に多様であり、自分に最適な転職先を見つけることが重要です。この記事では、税理士の主要な転職先について、それぞれの特徴や魅力を解説していきます。最良の選択をするための判断材料としてください。
税理士のおすすめ転職先は?
目的別に見る重要ポイントと成功事例
2025年10月24日 ジャスネットキャリア編集部
目次
■税理士が転職を考える背景と理由
(1)キャリアアップを目指す税理士の動機
税理士が転職を考える背景には、様々な要因があります。最も多いのが、業務内容のマンネリ化です。中小規模の税理士事務所では、記帳代行や定型的な税務申告業務が中心となることが多く、より高度な専門知識を活かしたい、組織再編や国際税務といった複雑な案件に携わりたいという欲求が転職の動機となります。
労働環境の改善を求める声も高まっています。税理士業界では繁忙期の長時間労働が常態化している事務所も存在し、ワークライフバランスを重視する価値観が浸透する中、より健全な労働環境を求めて転職する税理士が増えています。
報酬面での不満も見逃せません。税理士資格は難関国家資格でありながら、所属する組織の規模や地域によって年収に大きな開きがあります。自身の専門性や経験に見合った適正な報酬を得たいという思いが、転職を決意する動機となります。
(2)転職市場の動向と影響
税理士を取り巻く転職市場は、ここ数年で劇的な変化を遂げています。従来は税理士事務所間の移動が主流でした。直近数年は一般事業会社の経理部以外ですと、IPO・M&A動向やガバナンス強化の影響による求人が拡大傾向でしたが、景況連動性が高い点には留意が必要です。
企業のガバナンス強化やコンプライアンス意識の高まりが、税理士の需要を押し上げている印象もあります。上場企業やIPOを目指すベンチャー企業において、税務リスクの管理や正確な税務申告の重要性が認識され、CFO候補として税理士を採用を希望する企業もあります。
M&Aや事業承継案件の増加も、転職市場に影響を与えています。中小企業の事業承継が社会的課題となる中、事業承継税制や相続税対策の専門知識を持つ税理士への需要が急増しています。
クラウド会計ソフトやAIなどのデジタル技術の進展により、税理士に求められる役割も変化しています。単なる税務申告の代行ではなく、経営コンサルティングや事業戦略への助言といった、より付加価値の高いサービスを提供できる税理士が求められるようになっています。
■税理士の主な転職先
(1)税理士事務所・税理士法人
税理士の転職先として最も一般的なのが税理士事務所や税理士法人です。Big4税理士法人では、グローバル企業をクライアントとし、国際税務や組織再編など高度な税務案件を扱います。中堅規模の法人では幅広い業務経験を積むことができ、個人事務所や小規模事務所は独立を目指す税理士にとって実務を学べる場となります。
(2)一般企業
一般企業への転職は、税理士にとって大きな可能性を秘めたキャリアパスです。社内の税務(申告・税務戦略・税務リスク管理等)を担当します(※対外の税務代理は行いません)。上場企業でも、税務を基盤に経理(連結・開示)や財務・FP&Aへ守備範囲を広げることで、CFOへの道筋が見えてきます。
(3)金融機関
金融機関では富裕層向けのPB業務や事業承継支援など、一部領域で税理士の知見が活かされています。プライベートバンキング業務では富裕層向けの資産税コンサルティングを行い、法人営業部門では融資判断や事業承継支援において税務面からの助言を提供します。
(4)コンサルティングファーム
コンサルティングファームは、税理士が高度な専門性を発揮できる環境です。FAS・税務・トランザクション系が主流となります。M&A・組織再編・再生支援など、戦略寄りの案件に税務面で参画することもあります。
(5)独立を目指す
独立開業は多くの税理士が目指すキャリアゴールです。自分の理念に基づいた事務所を作り、得意分野に特化したサービスを提供できます。収益の上振れ余地はある一方、人材採用・教育・品質管理が実質的な制約条件となります。
■税理士事務所・税理士法人への転職
(1)税理士事務所の特徴とメリット
中小規模の税理士事務所では、一人の税理士が顧客対応から税務相談、申告書作成まで幅広く担当します。クライアントとの距離が近く、経営者と直接対話しながら経営全般についてアドバイスを提供する機会が豊富です。顧客から直接感謝の言葉をもらえることも多く、仕事のやりがいを実感しやすい環境です。
将来的な独立を考えている税理士にとって、個人事務所での経験は特に価値があります。所長税理士の近くで働くことで、顧客獲得の方法や料金設定、事務所運営のノウハウなど、 独立に必要な実践的な知識を学べます 。
専門特化型の税理士事務所も魅力的です。相続税専門、医療法人専門、国際税務専門など、特定分野に特化した事務所では、その分野における深い専門知識と豊富な経験を集中的に積むことができ、 専門分野のエキスパート を目指せます。
(2)税理士法人の魅力とキャリアパス
Big4税理士法人では、グローバル企業や大手上場企業をクライアントとし、最先端の税務案件に携わることができます。国際税務、組織再編税制、移転価格税制など、高度で複雑な税務問題に日常的に取り組むことで、税理士としての専門性を飛躍的に向上させることができます。
専門分野ごとに細分化された組織構造があり、自分が興味を持つ分野でキャリアを築けます。体系的な研修制度も整っており、海外メンバーファームへの出向機会もあるため、グローバルな視点と経験を身につけられます。
明確なキャリアパスが示されており、スタッフからシニアスタッフ、マネージャー、そしてパートナーへと段階的にキャリアアップできます。 Big4での勤務経験は転職市場でも高く評価され、将来のキャリアの選択肢を広げます 。
■一般企業への転職
(1)一般企業での税理士の役割
企業内税理士は、自社の税務申告業務だけでなく、税務戦略の立案、税務リスクの管理、税効果会計の対応など多岐にわたる業務を担います。一つの企業に深く関わることで、ビジネスモデルや経営課題を深く理解し、経営目標の達成に向けて税務面から貢献できます。
上場企業では、グループ通算制度への対応や税効果会計、開示業務など高度なの業務に携わる機会があります。また、組織再編や海外展開、M&Aといった経営上の重要な意思決定において、税務面からの検証や助言を提供する重要な役割を担います。
上場・大手ほど労働環境は整う傾向ですが、非上場や成長企業では裁量が大きい代わりに負荷も増えがちです。税理士法人ほどの季節ピークは相対的に穏やかな傾向ですが、四半期・決算期、税務調査対応の際は繁忙になります。
福利厚生も充実しており、住宅手当や家族手当、退職金制度、各種保険制度など手厚い待遇が用意されています。研修制度や資格取得支援も充実し、継続的なスキルアップのための環境が整っています。
(2)企業内でのキャリアアップの可能性
一般企業における税理士のキャリアパスは多様です。税務担当者から税務リーダー、税務マネージャー、税務部長へとステップアップする王道のキャリアがあります。税務部門の責任者になれば、年収1000万円以上を得ることも珍しくありません。
さらに魅力的なのは、税務部門にとどまらず、経理部門全体のマネージャーや財務部門、経営企画部門へとキャリアを広げることができる点です。将来的に経営層に近いキャリアパスを描くこともできます。
ベンチャー企業やスタートアップ企業では、CFO候補として迎えられることも多く、企業の成長と共に自身の責任と権限も拡大します。ストックオプションなどのインセンティブ制度により、上場時に大きな経済的リターンを得るチャンスもあります。
外資系企業では給与水準が高く、明確な評価制度とキャリアパスが用意されています。実力主義が徹底され、成果を上げれば年齢に関係なく相応の報酬と昇進が期待できます。
■金融機関への転職
(1)金融機関での税理士の業務内容
銀行のプライベートバンキング部門では、富裕層顧客に対する資産税コンサルティングが主な業務です。相続税対策や資産承継のスキーム提案において、税理士の専門知識は不可欠です。金融商品の特性を理解した上で、節税効果を最大化しつつ、顧客の資産形成目標を実現する最適なプランを提案します。
法人営業部門では、企業への融資判断や取引先の財務分析において税理士の専門性が活かされます。決算書を税務の観点から精査し、利益の質や税務リスクを評価することで、より適切な融資判断に貢献します。
証券会社では、資産運用に関する税務アドバイスが主な業務です。株式投資や投資信託における税制の説明、新NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用提案など、顧客の資産形成を税務面からサポートします。
保険会社では、生命保険を活用した相続対策や事業承継対策の提案において税理士の専門性が求められます。保険営業担当者への税務研修や、顧客向けセミナーの講師としての役割も期待されます。
(2)金融業界でのキャリアの展望
金融機関でのキャリアは、税理士に新たな可能性を開きます。 金融と税務という二つの専門性 を掛け合わせることで、他の税理士にはない独自の強みを構築できます。プライベートバンキング部門で経験を積めば、富裕層向けの資産税コンサルティングのスペシャリストとして高い市場価値を持つ人材になれます。
金融機関内でのキャリアアップの道筋も明確です。担当者からチームリーダー、部門マネージャーへとステップアップし、マネジメント能力と専門性の両方を磨けます。また、様々な部門を経験する機会もあり、金融ビジネス全体を理解した上で、税務の専門家として幅広く活躍できます。
金融機関での経験は、将来の独立開業にも役立ちます。富裕層顧客との接点を持ち、資産税や相続税の実務経験を積むことで、独立後に相続税専門の税理士として活躍する基盤を築けます。大手金融機関では職種・会社規模・総合職/専門職で幅が大きいため、600〜1,000万円台の事例があります(実際の水準はポジションに依ります)。
■コンサルティングファームへの転職
(1)コンサルティングファームでの税理士の役割
コンサルティングファームのFAS部門やM&Aアドバイザリー部門では、企業の合併買収における税務面での支援が主な業務です。タックスデューデリジェンスでは、買収対象企業の税務リスクを徹底的に調査し、買収後に顕在化する可能性のある税務問題を事前に把握します。
税務ストラクチャリングの提案も重要な業務です。M&Aの実行方法には様々な選択肢があり、どの手法を選択するかによって税務上の影響は大きく異なります。税理士の専門知識を駆使して、クライアントにとって最も税務効率の良いスキームを提案します。
事業再生コンサルティングでも税理士の専門性は不可欠です。経営危機に直面した企業の再建において、債務免除益課税への対応や事業再編時の税制優遇措置の活用など、税務面からの支援が企業再生の成否を左右することもあります。
主戦場はTax/移転価格/TA・FASで、戦略案件には税務観点の参画が中心です。企業の経営戦略や事業戦略の立案において、税務面からの検証は欠かせません。海外展開や新規事業立ち上げでは、最適な事業形態や組織構造を税務面から検討する必要があります。
(2)コンサルティング業界のキャリアパス
コンサルティングファームでのキャリアは、急速な成長が期待できます。アナリストやアソシエイトから、コンサルタント、シニアコンサルタント、マネージャー、そしてパートナーへとキャリアアップします。昇進のスピードは実力次第で、優秀な成果を上げれば年齢に関係なく早期に昇進できます。
短期間で多様な案件を経験できることが大きな魅力です。様々な業種のクライアント、多様な規模の案件に次々と取り組むことで、税理士としての専門性だけでなく、ビジネスパーソンとしての総合力を急速に高められます。
論理的思考力やプレゼンテーション能力、プロジェクトマネジメント能力など、税務の専門性以外のスキルも磨かれます。クライアントの経営層に対して提案を行う機会も多く、高度なコミュニケーション能力が養われます。
年収水準の高さも魅力です。外資系コンサルティングファームでは、入社時点で年収800万円から1000万円程度、マネージャーの報酬は部門・事務所・実績で大きく変動します。コンサルティングファームでの経験は、その後のキャリアにおいて強力な武器となります。
■独立開業する
(1)独立開業のメリットとデメリット
独立開業は多くの税理士が目指すキャリアゴールの一つと言えるでしょう。自分の理念や価値観に基づいた事務所を作り、得意分野に特化したサービスを提供し、顧客と直接的な信頼関係を築いていく過程には、雇われていた時代には味わえない充実感があります。
独立開業の最大の魅力は自由度の高さ です。ターゲット顧客、専門分野、料金体系など、すべて自分で決めることができます。働く時間や場所も自分でコントロールでき、ライフスタイルに合わせた働き方を実現できます。収入の上限もなく、事務所が成長すれば大きな報酬を得ることも可能です。
ただし、リスクも伴います。安定した顧客基盤を築くまでには時間がかかり、開業当初は収入が不安定になることを覚悟する必要があります。また、税務業務だけでなく、事務所の経営管理、営業活動、スタッフマネジメントなど、多岐にわたる業務を自ら行わなければなりません。
(2)独立準備の重要性
独立を目指す税理士にとって重要なのは、独立前の準備期間です。実務経験を積むと同時に、事務所運営のノウハウや顧客開拓のスキルを学ぶことが不可欠です。また、得意分野や専門性を明確にし、差別化要因を作ることも重要です。相続税専門、医療法人専門など、特定分野に特化することで競争優位性を確立できます。
■税理士の転職を成功させるためのポイント
(1)自己分析とキャリアプランの重要性
転職を成功させる第一歩は、 徹底的な自己分析 です。これまでの経験を客観的に振り返り、自分の強みと弱みを明確にすることが重要です。どのような業務分野で経験を積んできたのか、どの分野で成果を上げたのか、法人税務、所得税務、相続税務、国際税務など、各分野での経験年数や案件規模を具体的にリストアップしましょう。
キャリアプランを明確にする ことも不可欠です。5年後、10年後にどのような税理士になりたいのか、どのような働き方をしたいのかを具体的にイメージすることで、今回の転職で何を優先すべきかが明確になります。専門性を深めたいのか、マネジメント経験を積みたいのか、ワークライフバランスを改善したいのか、優先順位をつけることが重要です。
短期的な目標と長期的な目標を分けて考える ことも有効です。今回の転職がキャリア全体の中でどのような位置づけなのかを明確にすることで、後悔のない選択ができます。
自分の市場価値を客観的に評価する ことも重要です。同世代の税理士と比較して、自分の経験やスキルがどの程度のレベルにあるのか、転職市場でどのような評価を受ける可能性があるのかを把握することで、現実的な転職目標を設定できます。
(2)転職エージェントの活用法
税理士専門の転職エージェントは、税理士業界の転職市場を深く理解しており、一般には公開されていない好条件の求人情報を数多く保有しています。特に重要なポジションや好条件の求人は、エージェント経由でのみ募集されることが多いのです。
エージェントは各事務所や企業の内部情報も把握しており、求人票には書かれていない実際の労働環境、組織の雰囲気、離職率など、転職を決める上で重要な情報を教えてもらえます。
複数のエージェントに登録することをおすすめします。税理士・会計士に特化したエージェント、コンサルティング業界に強いエージェント、一般企業の管理部門に強いエージェントなど、自分の志望先に応じて使い分けましょう。
エージェントとの面談では、自分の経験やスキル、希望条件を正直かつ具体的に伝えることが大切です。年収、勤務地、業務内容、働き方など、譲れない条件と妥協できる条件を明確に伝えることで、より適切な求人を紹介してもらえます。
応募書類の作成や面接対策のサポートも、エージェントの重要な役割です。プロフェッショナルなアドバイスを受けることで、選考通過率を高めることができます。年収交渉の代行も行ってくれるため、より良い条件を引き出せる可能性が高まります。
■税理士(および科目合格者)の転職成功事例
・税理士事務所から一般企業の経理部への転職事例
【インタビュー】「続けてきた税理士の勉強を無駄にしない、一般事業会社の経理に転職」
https://career.jusnet.co.jp/case/detail.php?cid=310&casedtl_mc=2
・メーカーの経理から資産運用会社の経理に転職
安定した経営体制とワークライフバランスを求めて転職
https://career.jusnet.co.jp/case/detail.php?cid=240&casedtl_mc=2
■まとめ
税理士の転職先は、税理士事務所や税理士法人にとどまらず、一般企業、金融機関、コンサルティングファームなど、実に多様な選択肢があります。それぞれの転職先には独自の魅力があり、求められるスキルやキャリアパスも異なります。
専門性を深めたいならBig4税理士法人や専門特化型の事務所、年収アップを優先するならコンサルティングファームや外資系企業、ワークライフバランスを重視するなら一般企業の税務部門、将来の独立を見据えるなら小規模事務所がそれぞれ適しています。
転職を成功させるためには、徹底的な自己分析と明確なキャリアプランが不可欠です。自分の強みと弱みを客観的に評価し、短期的・長期的な目標を設定することで、最適な転職先が見えてきます。また、転職エージェントを効果的に活用することで、より良い求人情報と専門的なサポートを得ることができます。
税理士という専門資格は、キャリアの可能性を大きく広げる強力な武器です。この武器を最大限に活かし、自分らしいキャリアを築いていくために、焦ることなく納得できる転職先を見つけることが、長期的なキャリアの成功につながります。あなたの転職が、より充実したキャリアと人生への扉を開くことを願っています。
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