■試験に落ちたからこそわかる心構え
(1)税理士試験は精神が試される試験
わたしは2人の男児を出産して、日商簿記2級に合格したあと、本格的に税理士試験の勉強を始めました。会計事務所勤務、大学院通学と並行しながら簿記論・財務諸表論・消費税法の3科目に合格、2021年4月に税理士登録しました。資格勉強を始めてから資格取得するまで、およそ10年かかりました。
試験を受けた回数は、なんと9回(!)。乳幼児の育児で勉強時間がほとんどとれなかった年の記念受験も含め、9年連続で試験を受けました(合格はしませんでしたが、法人税法を受けた年が3年含まれています)。
受験生を卒業した今になって思うのは、「税理士試験は精神が試される試験」だということです。当たり前のことですが、資格取得するためには「勉強を続ける」ということが必要です。
長丁場になる税理士試験にでは、「勉強をやめたい」と思ったり、「続けていていいのかな」という迷いが発生することもあるでしょう。合格までたどり着くには、勉強を続けるための、精神的なコントロールがとても大事になります。
(2)本番で大事なことは、冷静であること
わたしは39歳で簿記論に合格したのですが、その時はとても冷静に試験に臨めたことを覚えています。
簿記論は本来、計算問題ばかりなので、正確さやスピードが重視されますが、その時は答えがわかっていても選択肢でひっかけるような、少々いじわるな問題が出題されました。ちなみにその年は、大学院の論文執筆とパート勤務、育児を並行しており、資格の学校へ行く時間がなかったため、直前期は模試を取り寄せて自宅などで解くのみでした。
だからこそ「これで受かったらもうけもの」と開き直ることができ、本番では落ち着いて問題文を読めたので、そのひっかけに気づいて解答できたのだと思います。
受験生仲間のとあるブロガーさんが発信していた「本番は練習のように、練習は本番のように」というアドバイスがあります。たくさん勉強したから絶対受かる!と慢心していたら、本試験で見たこともないような問題に出くわし、パニックになって不合格になってしまったという話もよく聞きます。
年一回の試験だからこそ、冷静さを保って本試験に臨めるようにする、そのための準備を事前にしておくことが重要なのではないでしょうか。
■生活面で意識しておくとよいこと
実は試験直前だからこそ、生活面で意識しておいてほしいことがあります。
以下に箇条書きにしましたので、ぜひ実践してみてください。
表1
- ①7~8月に入ったら本試験と同じ時間帯に模試を解く日を多くする
- ②趣味や楽しみの時間はできるだけ我慢する。わたしの周りでは、「6月から禁酒し、本試験のあとにビールを飲む」ことをモチベーションにしている方もいました
- ③家族に協力を頼む(理論を家の中の壁に貼る、家事の分担協力を申し出る、など)
- ④本試験で気力・集中力をもっとも高めるために効果的な方法を知る。わたしの場合は試験前のドーピングとして、ユンケルを飲みました(どのくらいの時間で集中力が高まるのかを事前に3日間ほど測っておき、当日ベストなタイミングで飲む)
- ⑤当日の会場までの移動中に余計なことに気を使わないように、試験会場までの道のりは事前に下見をしておく
■仕事面で意識しておくとよいこと
(1)忙しくても合格は可能
仕事の忙しさについては、正直、働いている会計事務所次第というところがあります。
本試験前には勉強時間を確保させてくれる事務所もあるでしょうし、忙しすぎて勉強時間が細切れになってしまう事務所もあるかもしれません。しかし、時間があれば合格するかというとそんなことはなく、忙しいからこそスキマ時間を上手く使い、合格する仲間を何人も見てきました。
仕事が忙しい人は限られた時間の中で勉強をしますので、集中力も高く効率のよい勉強法ができているともいえます。そして、直前期はひたむきに前向きに勉強を続けること。予定通りに勉強が進まないときも、むしろ、「こんな忙しいのに勉強してる自分すごいぞ!」と前向きに捉え、余計なストレスをためないようにして勉強を続けましょう。
(2)スキマ時間の暗記を反復
残業で帰りが遅くなってしまった日でも、寝る前には1行でもいいので理論に目を通しましょう。疲れているとついついスマホが見たくなりますが、スキマ時間にはスマホではなく理論本を手にもつこと。
スマホの壁紙も理論にしておくとよいと思います。目に付くところに理論を置くことで、自然と暗記する環境を作りましょう。
まとまって1時間勉強するよりも、5分でもよいのでスキマ時間があれば理論を覚え、これを何度も反復することで記憶の定着につながると思います。
(3)腱鞘炎予防に効果的なトラックボール
勉強中にたくさん理論を書いて腱鞘炎になってしまっている人がわたしの周りでもいました。試験当日に「手首が痛くて集中できなかった…」なんてことがないよう、仕事用PCのマウスをトラックボールに変えるのも、腱鞘炎予防に効果的です。
些細なことですが、勉強にマイナスになることはできるだけ改善し、ストレスを減らす工夫をしましょう。
愛用しているトラックボール。手首を動かさず親指だけでカーソル操作できるので、手首が疲れません。
■直前期に、勉強面で意識しておくとよいこと
わたしは簿記論、財務諸表論、消費税法の3科目に合格しています。
それぞれの科目について直前期に気をつけておきたいことをお話します。
(1)簿記論
簿記論は正直、“運”の要素がある試験だと思います。どんなに勉強していても、本番には奇をてらった問題が出ることもあり、これを予測するのは難しいからです。先述した「冷静さ」が重要になる科目かと思います。
わたしは簿記論で不合格だったとき、全体としては合格点に達していましたが、第三問の総合問題が合格点を上回っていませんでした。その経験から、第三問は試験時間2時間のうち、最初の50分以内で必ず手を付けるようにしていました。過去問・模試などを解いて、時間配分など自分のやり方を確立しておくことが大切です。
また、同じ問題を何度も解くと”慣れ”が出てくるので、本番で見たこともないような問題が出題されると対応できなくなるリスクがあります。これはわたしの個人的な意見ですが、「勉強はほどほどにしていた」という方が合格するのが簿記論だと思います。
(2)財務諸表論
財務諸表論は理論と計算が半分ずつある科目で、努力が結果につながりやすい科目かと思います。
理論は、一問あたりの配点が大きいと思われますので、基本的な暗記はしっかりとやるようにしましょう。計算は、簿記論ほど難易度の高い問題は出ないと思います。基礎はおさえたうえで、過去問・模試などを繰り返し解くことが重要です。
直前期の模試と同じような出題がされるとライバルも解ける可能性が高いです。よって、直前期の模試は必ず受け、正解できるようにしておきましょう。
(3)消費税法
税法はとにかく理論暗記!自分の暗記スタイルを確立して、完璧に暗記をすることが合格するには必然です。
わたしの場合は、よくお風呂で半身浴をしながら、1時間以上かけて暗記をしていました。ただじーっと椅子に座って暗記をするより、運動をしながら(汗をかきながら)暗記をすると集中力が高まるようです。
また税法の場合、直前期に改正で覚えることがさらに増えたりすることがあります。本試験にはその改正された部分が出題されるかもしれないので、もし出題された場合に後悔しないように、改正点もフォローするようにしましょう。
めったに出題されないけど、出題されると恐いイレギュラーな問題(国・地方公共団体等)も過去に出題されていましたので、直前期には数回は解くようにしましょう。何が出題されても冷静さを保てるように、対応0の項目をなくしておくことが冷静さを保つための秘訣かと思います。
(4)自分の暗記スタイルを知る
税理士試験では、特に税法では、非常にたくさんの理論暗記をしなくてはなりません。
理論暗記については「書いて覚える派」と、「聞いて覚える派」の2つのパターンに分けられると思います。わたしの場合は書いて覚える派だったので、あらゆることを書いて管理していました。
模試を何回まわしたか、暗記を何回覚えたかなど、よく見る理論の本に付箋など貼って書いており、「こんなにたくさんやったぞ」というのを可視化することで自信を付けるようにしていました。
模試・過去問の内容をカテゴリ分けして何回解いたかを管理し、弱点を洗い出していました。
■最後に
ついに直前期になりました。直前期まで勉強を続けられず脱落した人はたくさんいるはずですので、続けられた自分をまず褒めてください。そんな直前期、ここまで来たら体調を崩さないように気をつけて、本試験に万全の状態で臨めるように、ひたむきに勉強を続けてください。
このコラムが、受験生のみなさんにとって、少しでも参考になれば幸いです。
- 執筆者プロフィール
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定岡 佳代(さだおか かよ)
税理士
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。
「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。