「先生、運転資金で融資を受けたいのですが、申込書の書き方を教えてください」
クライアントからこんな相談を受けたとき、あなたは自信を持ってアドバイスできるでしょうか?
実は、多くの経営者が「運転資金」という言葉を誤解しています。そしてその誤解が、知らず知らずのうちに会社の資金繰りを悪化させている可能性があるのです。税理士として決算書は読めても、「この借入金が返済できる性質の資金なのか」「金融機関はこの借入をどう評価するのか」まで判断できていないケースは少なくありません。
本記事では、銀行融資の実務で必須となる「借入金の3つの色」について解説します。この知識があれば、クライアントの借入金の性質を正しく見極め、資金繰り改善に向けた的確なアドバイスができるようになります。
金融機関から融資を受ける際、借入申込書には必ず「資金使途」を記入する欄があります。設備購入以外のケースでは、多くの方が迷わず「運転資金」に〇をつけているのではないでしょうか。しかし、この何気なく使っている「運転資金」という言葉。実は、私たちが日常的に使っている意味と、金融機関が考える「運転資金」には大きな隔たりがあるのです。
さらに、借入金には「3つの色」があることをご存知でしょうか。この色分けが正しくできていないと、知らず知らずのうちに資金繰りが悪化してしまう恐れがあります。今回は、資金繰り改善の第一歩となる、借入金の「色」について詳しく解説します。
■経営者が誤解している「運転資金」の本当の意味とは
「運転資金」という言葉は、日常会話では非常に広い意味で使われています。しかし金融機関が融資審査で考える「真の運転資金」には、明確な定義があります。
金融機関が融資判断で使う「真の運転資金」は、次の計算式で求められます。
金融機関が考える「真の運転資金」の計算式
運転資金 = 売掛金 + 在庫 - 買掛金
この式が示すのは、たとえ赤字企業であっても、債務超過に陥っている会社であっても、「事業を回し続けるために最低限必要な資金」のことです。
具体例で考えてみましょう。
【ケース1】運転資金がゼロになる企業
→ この場合、運転資金は「0円」です
【ケース2】サイトが同じ企業
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在庫なし
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売掛金回収:2ヶ月サイト
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買掛金支払い:2ヶ月サイト
→ この場合も、運転資金は「0円」です
■「広義の運転資金」と「真の運転資金」の決定的な違い
では、多くの経営者が使っている「広義の運転資金」と、金融機関の考える「真の運転資金」は何が違うのでしょうか。
その答えは「赤字補填資金」を含んでいるかどうかです。
コロナ融資を例に考えてみましょう。多くの方が「コロナ融資=運転資金」と認識していますが、実はコロナ融資の本当の資金使途は「赤字補填資金」です。
行動制限により売上が急減し、多くの企業が赤字に転落しました。その厳しい期間を乗り切るための資金がコロナ融資でした。
先ほどの計算式で考えると、売上が減少すれば売掛金も在庫も減るため、「真の運転資金」の必要額は本来減少するはずです。それなのに融資を受けているということは、つまりコロナ融資は「真の運転資金」ではなく「赤字補填のための運転資金」だったのです。
■借入金には「3つの色」がある
借入金は、その性質によって次の「3つの色」に分類されます。
①真の運転資金
先ほど説明した「売掛金+在庫-買掛金」で計算される資金です。事業を継続するために必要不可欠な資金であり、金融機関も比較的融資しやすい性質の資金です。
②設備資金
機械設備、車両、不動産など、具体的な資産(モノ)と紐づいた資金です。担保や購入物件が明確なため、資金使途が最も分かりやすい借入金です。
③特殊資金
以下のような、①②以外の特定目的のための資金です。
赤字補填資金:営業赤字を埋めるための資金
納税資金・賞与資金:一時的な支出に対応する資金
M&A資金:企業買収のための資金
この中で最も判別が難しく、かつ危険なのが「赤字補填資金」です。
■「赤字補填資金」を見分けるポイント
赤字補填資金かどうかを見分ける最も重要な指標は、「営業利益が赤字かどうか」です。
営業利益が赤字ということは、本業で利益が出ていない状態。つまり、キャッシュフロー(CF)がマイナスになっているケースがほとんどです。
【こんな状況は要注意!】
売上が減少傾向にある
それなのに、全体の借入金額が増え続けている
売上減少により「真の運転資金」の必要額は本来減るはずなのに、借入が増えているということは、赤字補填のための借入が増えている可能性が高いのです。
■税理士としてクライアントにアドバイスすべきこと
営業利益が赤字の企業には、次のポイントを確認することが重要です。
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無理に明るく振る舞わなくても大丈夫
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自分らしい関わり方でお客様に信頼される
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不安が “安心” に変わり、自然体で働ける未来がつくれる
借入金の「色」を正しく見分けることは、健全な資金繰りを維持するための第一歩です。
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- 執筆者プロフィール
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徳永 貴則(とくなが たかのり)
平成8年に当時の大和銀行(現りそな銀行)に入行。都心店舗を中心に法人融資業務を主担当し、本部の融資審査セクションでも業務を経験。2000社ほどの銀行融資に携わった経験を生かして、株式会社スペースワンを立ち上げ独立。多くの銀行融資コンサルティングのみならず、事業再生や経営改善のアドバイスを行っている。。