税務会計の世界でも、かつての「代行業」「処理業務」というイメージから仕事内容のメインが変わろうとしています。従来の税務だけであれば、ITやAIの進化によって「作業」はどんどんなくなっています。そこで求められるのが、より経営者の悩みや課題解決に寄り添える提案型の業務。この分野は今後、税務会計業界でもメインとなっていくでしょう。
こうした中で近年、税理士のキャリアとして注目度が高まっているのが、コンサルティングファームへの転職です。中でも財務・税務系コンサルティングファームは、税理士の専門性を最大限に活かせる転職先として人気を集めています。税理士として培った知識やスキルを、存分に発揮できる高付加価値な業務に多く触れられる環境です。
そんなコンサルティングファームでの税理士の活躍について、税務会計業界の就職・転職支援に20年以上携わってきた、採用コンサルタントが分析してみました。
■財務・税務系コンサルティングファームで戦略的提案を
1)財務・税務系コンサルティングファームでの業務の特徴
財務・税務系コンサルティングファームでは、企業の財務戦略策定、M&Aにおける税務アドバイザリー、組織再編のストラクチャリング、国際税務戦略の立案など、高度で戦略的な税務コンサルティングを提供します。通常の税理士業務とは異なり、クライアントは大企業や上場企業が中心で、案件規模も大きく、経営の根幹に関わる重要な意思決定に税務の専門家として関与できます。
2)コンサルティングファームでの収入は?
年収面では、コンサルティングファームは税理士業界の中でも最高水準を誇ります。20代や30代前半の若手コンサルタントでも
年収500万円から700万円程度からスタート
。
・シニアコンサルタント:年収800万円~1,000万円
・マネージャークラス:年収1,000万円~1,500万円
こうした給与レンジが一般的です。さらにパートナークラスに到達すれば、年収1,500万円以上も十分に視野に入ってくるでしょう。また、実力次第で年齢に関係なく高年収を実現できるのも、コンサルティングファームの大きな魅力のひとつです。
3)コンサルティングファームへの転職で求められる能力
コンサルティングファームへの転職は、税理士資格だけでは不十分で、
即戦力としての実務経験とコンサルティングスキルが重視
されます。特にM&Aや組織再編、国際税務といった高度な税務案件に関わった経験があれば、採用において大きな強みとなります。
それだけに、単に税務処理ができるだけでなく、ビジネス全体を俯瞰し、クライアントの経営課題を理解した上で税務戦略を提案できる能力が求められます。
4)コンサルタントとして成功するために必要なもの
コンサルタントとして成功するには、
論理的思考力とコミュニケーション能力
が不可欠です。複雑な税務問題を分析し、クライアント経営陣に対して分かりやすくプレゼンテーションする能力、プロジェクトを円滑にマネジメントする能力など。税務知識以外のビジネススキルも重要になります。加えてExcelやPowerPointといったツールを使いこなすスキルも必須です。
■コンサルティングファームでのキャリアと働き方
コンサルティングファームでは、成果主義の評価体系が一般的です。プロジェクトごとの成果が評価され、優秀な成績を収めれば年齢や経験年数に関係なく昇進や昇給のチャンスがあります。逆に成果を出せなければ厳しい評価を受けることもあり、実力本位の世界と言えます。
1)プロジェクト単位での勤務が主流。案件によって労働時間も変化
働き方については、プロジェクトベースで業務が進むため、案件の状況によって忙しさが大きく変動します。大型案件に参画している時期は深夜残業や休日出勤も珍しくありませんが、プロジェクトの合間には長期休暇を取得できるなど、メリハリのある働き方が可能です。近年は働き方改革の影響で、リモートワークやフレックスタイム制度を導入するファームも増えています。
2)FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)でM&Aの最前線へ
FASは、M&Aに特化した専門的なコンサルティングサービスを提供する部門です。Big4監査法人に属するFAS部門と、独立系FASファームの2種類があり、いずれも税理士の専門性を活かせる転職先として人気があります。
FASでの税理士の主な業務は、
M&A案件における税務デューデリジェンス、ストラクチャリング、バリュエーション支援
などです。買収対象企業の税務リスクを洗い出し、最適な買収スキームを提案する役割を担います。また企業の価値算定においても、税務の観点から重要なアドバイスを提供します。
3)FASの年収例は
年収は、Big4系FASで
年収700万円から1,500万円程度
、独立系FASでは実力次第でさらに高い年収も期待できます。M&Aの専門家としてのキャリアを築きたい方にとって、FASは最適な選択肢の一つと言えるでしょう。
■総合系コンサルティングファームで幅広い課題解決に挑む
総合系コンサルティングファームは、戦略立案から業務改革、ITシステム導入まで、企業の経営課題全般に対するコンサルティングを提供します。税理士は主に財務・会計領域のプロジェクトに参画し、税務の専門家としての知見を提供します。
1)税務知識を軸として、総合力を養う
総合系ファームの特徴は、税務だけでなく経営戦略や業務プロセス改革など、幅広いテーマに触れられる点です。税務の専門性を保ちながら、コンサルタントとしての総合力を身につけることができます。
2)総合系コンサルタントの年収例
年収は財務・税務系コンサルティングファームと同程度で、経験とスキル次第で年収1,000万円以上も十分に実現可能です。将来的にパートナーを目指すことができれば、年収2,000万円から3,000万円以上も視野に入ります。
■まとめ
企業のグローバル化やコンプライアンス意識の高まり、さらにはM&Aや事業承継案件の増加により、税務の専門家へのニーズは多様化の一途を辿っています。一人では、そのすべてには対応しきれない。だからこそ、大手の税理士法人やコンサルティングファームで、互いの専門性を集めながら、経営者の課題解決に臨む仕事には価値が生まれます。
税理士法人や会計事務所でも、経営者の課題解決に向けた支援サービスは提供できるでしょう。ですが、一か所に専門家を幅広く集め、日常的に専門性を高めていく。そんな働き方を求めている、向上心・向学心の高い方にとっては、毎日が先輩上司あるいは同僚や後輩からも刺激を受け、自らを高めるきっかけを手に入れられる職場環境でもあります。
また、成果に見合った評価制度がしっかりと確立している職場も多いため、収入アップを目指すベテランにもおすすめの職場です。
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- 執筆者プロフィール
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ジャスネットキャリア編集部
WEBサイト『ジャスネットキャリア』に掲載する記事制作を行う。
会計士、税理士、経理パーソンを対象とした、コラム系読み物、転職事例、転職QAの制作など。
編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。