令和4年度税理士法改正の意義
■はじめに
令和4年度改正においては、税理士法について大きな改正がなされた。与党税制調査会の資料などを見ると、この改正は大きく3つの柱からなっていると解される。①ICT化とウィズコロナ時代への対応、②多様な人材の確保、③税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備、の3つである。
これらの項目を見る限り、新時代の税理士像を踏まえた画期的な改正という印象を持たれるかもしれないが最低限の改正をしたもので、今後も見直しが必要と考えられる。以下、主な改正内容について、元国税調査官の税理士松嶋洋が解説していく。
【税理士制度の見直し項目】
(1)税理士の業務の電子化等の推進
(2)税理士事務所の該当性の判定基準の見直し
(3)税務代理の範囲の明確化
(4)税理士会の総会等の招集通知及び議決権の行使の委任の電子化
(5)税理士名簿等の作成方法の明確化
(6)税理士試験の受験資格要件の緩和
(7)税理士法人制度の見直し
(8)懲戒処分を受けるべきであったことについての決定制度の創設等
(9)懲戒処分等の除斥期間の創設
(10)税理士法に違反する行為又は事実に関する調査の見直し
(11)税理士が申告書に添付することができる計算事項、審査事項等を記載した書面に関する様式の整備
(12)税理士試験受験願書等に関する様式の整備
(13)その他所要の措置
■ICT化とウィズコロナ時代への対応
(1)事務所設置規制の見直し
リモートワークの障害になっていた、税理士事務所の判定基準の見直しが行われる。現状、二か所事務所の禁止という制度があり、税理士は登録すべき事務所を設け、その事務所を二か所以上設けてはいけないとされている。なお、この制度上、税理士はそこに常駐し、そこで仕事をすべきとされていた。
コロナ禍が発生した2020年の確定申告において、この制度が大きな問題になったことは記憶に新しい。接触を避けるべきなのに、「(この制度があるため)テレワークは認められない」と税理士会は当初回答していた。
国税が税理士のテレワークを容認する旨を公表して、税理士会も問題ないと言い始めたが、本来は税理士の利害を代表する組織として、税理士会は国税と調整し、「税理士法違反であるが特例的に認める」という声を真っ先に上げるべきだった。
現状、税理士事務所のテレワーク化も進んできたが、「常駐」の必要性を踏まえると法的に問題がある状況が続いている。今般、ようやく運用上の措置が取られることになり、設備や使用人の有無等の物理的な事実ではなく、外部表示で税理士事務所に該当するか否かの判定を行う、といった措置がなされる模様だ。こうなると、従業員の机等もない一人用のレンタルオフィスを登録上の事務所とし、実際の業務は自宅等で行う、といった実務も認められると考えられる。
なお、現状も地方で税理士登録していながら、実際の活動拠点となる事務所は東京都という税理士がいる。距離的に登録事務所に常駐していないことは明白なのに、税理士会は十分な指導をしていなかった。税理士会の監督はこの程度であるし、何より、パソコン一台で十分な仕事ができる時代に、事務所の設置を義務付ける必要はなく、バーチャルオフィスの事務所も認めてもいいのかもしれない。
(2)税務代理範囲の明確化
税務代理範囲の明確化として、更正等の通知について、直接税理士が受領できるようになる。現状、税理士が受領する場合には、別途税務署に委任状を出すという取扱いであるが、税務署からの通知は審査請求など、税務代理の前提となる書類であるため、余計な手続きを無くすよう、改正されることになった。
その一方で、現状、税務調査時の税務代理の権限がトラブルになっている。税理士のみで税務調査に立ち会った場合、適正に税務代理権限を付与されているにもかかわらず、納税者に直接会わせるよう国税から要請されることが多い。しかし、「代理」という性格を踏まえれば、税務調査は税理士に全部委任することが可能であるはずだ。この点、法令で明確化すべきだろう。
■多様な人材の確保
(1)税理士試験の受験資格の見直し
税理士試験の受験資格の見直しが行われる。具体的には、会計科目の受験資格が不要となったり、経済学部や法学部の単位がなくとも、社会科学の単位があれば受験できるように拡大されたりする。
この改正の背景には、税理士受験生の減少に対する税理士会の危機感があることは間違いないだろう。将来的に税理士が減ると会費が減少するため、その対策としてこのような改正を税理士会は要望したはずだ。
しかし、税理士は税務の専門家なので、税法をきちんと解釈できる税理士を増やすことが重要であり、「税理士」と名乗れる人間を増やすべきではない。門戸を広げるのであれば、その分、税法について深い知識や運用能力を問う税理士試験としたり、実効性のある研修を義務付けたりする必要がある。
■税理士に対する信頼の向上を図るための環境整備
(1)懲戒逃れを図る税理士等への対応
懲戒処分を受けると税理士の再登録が制限されるが、懲戒処分がなされる前に税理士を辞めて処分を受けなければその制限はなく、逃げ得となる。腹立たしいことに、これを利用したとして報道される税理士は国税OBが多く、国税時代に培った税理士法の知識を悪用している実態が想像できる。
中には、懲戒処分がなされる直前に税理士法人を清算し、そのすぐ近くで同じ名前の税理士法人を立ち上げて、大手を振って税理士業務を継続する者もいた。本来、このような制度逃れに国税は厳格であるべきだが、懲戒処分をしても税収は増えないので、彼らは税理士の監督にモチベーションがない。
税務調査では、法律など関係ないとして多額の課税をするのが「国税」という組織である。このように、国税が本気を出せば、税理士法を自分の都合のいいように拡大解釈をすることもできるのであるから、このような不適切な事態はとっくの昔に是正されていたはずである。
ようやく改正が実現するが、国民の信用を失墜するような税理士に対し、スピーディーな対応をとれるよう、税理士会にも懲戒権を付与してもいいのかもしれない。
(2)税理士法人の業務拡大
その他、税理士法人の業務が拡大される。具体的には、成年後見業務や租税教育・普及の業務を行うことができるようになる。しかし、前者は税理士の専門ではない民法の知識が必須の業務であり、後者は社会貢献活動で、直接自社の利益につながらない業務であるため、これらの業務を実際に行う税理士法人は多くないように考えられる。
業務拡大というなら、源泉徴収のコストや社会的な信頼という観点から、弁護士法人などと同様に、一人税理士法人の導入などの検討も望みたい。
■おわりに
「税理士は準公務員であり、公益に資する存在である。」国税で行われる税理士法の研修においては、必ずこの指導がなされる。その上で、税理士はこのような崇高な存在であるからこそ、税理士法は厳しいと解説される。
しかし、税理士法は厳しい制度だからこそ、時代にそぐわない部分も多く、かつ抜け道も多かったことも事実である。本改正により、いくつかの問題点が是正されたことは率直に評価できる。しかし、まだまだ課題は山積しているため、より時代に即し、かつ公平な改正を今後も期待したい。
- 執筆者プロフィール
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松嶋 洋(まつしま よう)
元国税調査官・税理士昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。
- セミナー講師実績の一部
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- 東京税理士会麻布支部:「税理士が見落としがちな税務の盲点」
- 関東信越税理士会統一研修:「誤解だらけの税務調査実務とその対応策」
- TKC関東信越研修所:「税務調査の成果を劇的に変える!法律論交渉術」
- 鳥飼総合法律事務所:「相手を知ることで勝てる税務調査交渉術」
- 日本ビズアップ:「速報!松嶋流解釈 令和4年度税制改正」
- 東海税理士会:「税務調査の正しい法律解釈とその解釈を活かした交渉術」
- 株式会社エイブル:「税務署の裏側大家さん版」
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