会計士・税理士業界でキャリアアップを目指す方にとって、「Big4税理士法人」への転職は大きな選択肢の一つです。本記事では、Big4税理士法人の特徴から転職のポイント、年収やキャリアパスまで、転職を検討している方が知っておくべき情報を詳しく解説します。
税理士の科目合格とは?期限や企業の評価、求人への応募条件まで徹底解説

ジャスネットコミュニケーションズ株式会社 エグゼクティブエージェント
税理士 山中 宏
目次
■税理士試験と科目合格制度の基礎知識
(1)税理士試験の全体像
Big4(ビッグフォー)とは、世界的に最も大きな4つの会計事務所グループを指します。具体的には以下の4社です。
- デロイト トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)
- PwC(PricewaterhouseCoopers)
- EY(Ernst & Young)
- KPMG(Klynveld Peat Marwick Goerdeler)
これらの組織は、かつては「Big8」と呼ばれる8大会計事務所でしたが、1980年代後半から1990年代にかけての合併を経て「Big6」となり、さらに1998年にはPrice WaterhouseとCoopers & Lybrandの合併でPwCが誕生し「Big5」に。2002年にはエンロン事件をきっかけにアーサー・アンダーセンが解体され、現在の「Big4」体制が確立されました。
これらの組織は単なる会計事務所ではなく、グローバルなプロフェッショナルサービスファームとして、監査、税務、コンサルティングなど幅広いサービスを提供しています。その中でも税務部門が「税理士法人」として日本国内で活動しています。
(2)科目合格制度とは?
日本におけるBig4は、それぞれ以下の名称で税理士法人を運営しています。
- デロイト トーマツ税理士法人
- PwC税理士法人
- EY税理士法人
- KPMG税理士法人
これらの税理士法人は、グローバルネットワークを活かした国際税務や複雑な税務問題への対応力が強みであり、主に大企業や外資系企業をクライアントとしています。日本の会計・税務業界においてトップクラスの規模と影響力を持ち、高度な専門性と国際性を兼ね備えた人材の集まる場所としても知られています。
中小規模の税理士事務所が個人事業主や中小企業の顧問税理士として日常的な税務業務を担当することが多いのに対し、Big4税理士法人は複雑かつ高度な税務サービスを提供し、大企業の重要な経営判断にも関わる業務を担当しています。
■税理士の科目合格に関する「期限」はあるのか?
(1)実際の有効期限:一度合格すれば一生有効?
Big4税理士法人の大きな特徴の一つが、充実した国際税務サービスです。グローバルに事業展開する企業にとって、国際税務の問題は複雑かつ重要な課題です。
- 移転価格税制への対応
- クロスボーダー取引の税務プランニング
- 外国税額控除の最適化
- 海外子会社の税務管理
- タックスヘイブン対策税制(CFC税制)への対応
- 国際的な税務コンプライアンス対応
これらの業務には、各国の税法に関する深い知識と、国際的な税務の枠組みを理解した上での戦略的な提案力が必要となります。Big4は世界各国にネットワークを持つという強みを活かし、海外拠点と連携しながらグローバルな視点で最適な解決策を提示することができます。
(2)転職市場で有利な年齢と経験年数のバランス
企業の合併・買収(M&A)や組織再編は、税務面での影響が大きく、慎重な計画と実行が求められます。Big4税理士法人では、以下のようなサービスを提供しています。
- デューデリジェンス(税務面での事前調査)
- M&Aストラクチャリングにおける税務アドバイス
- 組織再編に伴う税務効果の最大化
- クロスボーダーM&Aの税務戦略立案
- 組織再編後の税務コンプライアンス体制構築
特に近年は、国内企業の海外展開や外資による日本企業の買収が活発化しており、異なる国の税制を考慮した高度な税務アドバイスの需要が高まっています。
一般的な税理士業務としての申告書作成や税務代理業務も行っていますが、Big4税理士法人の場合は主に大企業や多国籍企業を対象としています。
- 法人税・消費税等の申告書作成
- 税務調査への対応
- 税務争訟サポート
- 税務リスク管理
- 税務コンプライアンス体制の構築支援
特に税務調査対応においては、豊富な経験と事例の蓄積を活かした専門的なサポートが提供されます。
■税理士の科目合格をすると一般企業での評価は上がる?
Big4税理士法人の主なクライアントは以下のような特徴を持つ企業です。
- 上場企業や大企業
- 外資系企業の日本法人
- 海外進出を図る日本企業
- 複雑な組織構造を持つ企業グループ
- M&Aや組織再編を計画している企業
- 国際的な税務問題を抱える企業
これらのクライアントは税務面での複雑な課題を抱えていることが多く、高度な専門知識と豊富な経験を持つBig4税理士法人のサービスを必要としています。また、同じBig4グループの監査法人がクライアントの会計監査を担当している場合も多く、監査との独立性を保ちながらも、一貫性のあるサービス提供が行われています。
クライアント企業の規模は一般的に大きく、年間数千万円から数億円規模の報酬を支払うケースも珍しくありません。こうした大型案件に携わることで、Big4税理士法人に所属する税理士は幅広い経験と高度なスキルを身につける機会を得ることができます。
■税理士の科目合格者におすすめの職場・求人
(1)税理士法人・会計事務所
Big4税理士法人への転職を目指す場合、以下のようなスキルや資格が求められます。
必須・重視される資格
- 税理士資格
- 税理士科目合格
- 公認会計士資格
- 英語力(TOEIC 800点以上が目安、国際案件担当の場合はより高いレベルが必要)
求められるスキル
- 法人税法や所得税法などの税法に関する実務知識
- 企業会計に関する理解
- 論理的思考力と問題解決能力
- コミュニケーション能力(クライアントや海外拠点とのやり取りに必要)
- チームワーク(プロジェクト単位での業務が多い)
- 英文メールや文書作成能力(国際案件担当の場合)
税理士資格を持っていない場合でも、他の会計事務所や税理士事務所での勤務経験があれば検討される可能性はありますが、長期的にはキャリアアップのために資格取得が推奨されます。
(2)上場企業の経理部門
Big4税理士法人への転職を成功させるためのポイントは以下の通りです。
効果的な履歴書・職務経歴書の作成
- 具体的な業務内容と成果を数値化して記載
- 特に手がけた案件の規模や複雑さをアピール
- 国際税務やM&A関連の経験があれば強調
- 英語力がある場合は英語のレジュメも用意
面接対策
- 志望動機を明確に(なぜBig4か、なぜその法人か)
- 自身の強みとBig4での活かし方を具体的に説明
- 過去の実績や課題解決の事例を準備
- キャリアプランを明確に示す
情報収集
- 各Big4の特色や強みを理解する
- 志望する部門の最新の動向をチェック
- 可能であれば内部の人間からの情報を得る
転職時期としては、9月〜11月は次年度の採用計画が具体化する時期であり、求人が増える傾向にあります。
(3)外資系企業やM&A関連企業
Big4税理士法人への転職では、専門的な転職エージェントの活用が効果的です。
エージェント選びのポイント
- 会計・税務業界に特化したエージェントを選ぶ
- Big4への転職実績が豊富なエージェントを選ぶ
- 担当コンサルタントが業界知識を持っているか確認
効果的な活用法
- 非公開求人情報へのアクセス
- 応募書類の添削や面接対策の支援
- 年収交渉のサポート
- 入社後のフォローアップ
特に会計・税務業界では非公開求人が多いため、エージェントを経由することで選択肢が広がります。また、Big4各社の社風や特色、現在重視している分野などの情報を得られることも大きなメリットです。
代表的な会計・税務専門のエージェントとしては、ジャスネットコミュニケーションズなどがあります。ジャスネットは税理士事務所に特化した転職支援を行っており、経験10年以上のベテランが多数在籍するほか、公認会計士、税理士の資格を持ったエージェントも在籍。
税理士資格をまだ取得していない方でも、科目合格者としての中長期的なキャリアの展望、詳細な希望条件など、個々のニーズに応える最適なマッチングを重視しているのが特徴です。
■税理士の科目合格者の経験別年収
(1)科目合格の有無で年収はどう変わる?
Big4税理士法人では、以下のような特性を持つ人材が特に歓迎される傾向にあります。
経歴面
- 他のBig4や中堅会計事務所での勤務経験
- 事業会社の経理・税務部門での経験
- 税務署や国税局での勤務経験
- 法律事務所や金融機関での関連業務経験
性格・適性面
- 継続的な学習意欲がある
- チームでの協働を重視できる
- 高いストレス耐性を持つ
- 緻密さと大局観のバランスがとれている
- クライアントとの関係構築が得意
特に注目すべきは、税務の専門知識だけでなく、ビジネスセンスやコミュニケーション能力も重視される点です。税務の技術的な知識に加え、クライアントのビジネス全体を理解し、戦略的なアドバイスができる人材が求められています。
また、年齢的には20代後半から30代がもっとも転職しやすい層ですが、専門性が高い場合は40代でも十分チャンスがあります。なお一度Big4税理士法人に入社するとBig4税理士法人の中を渡り歩く方も一定数います。国税庁出身の方がスカウトされる場合もあります。
(2)実務経験+税理士の科目合格で年収がアップする業界・職種
税理士試験の科目合格者(全科目合格していない方)でもBig4税理士法人への転職は可能です。特に以下のような条件を満たす場合、チャンスが広がります。
有利になる条件
- 法人税法と消費税法の科目合格
- 会計事務所での実務経験がある
- 英語力がある
- 特定業界の税務に詳しい
- IT・デジタルスキルが高い
科目合格者は一般的に、アシスタントやスタッフレベルでの採用となることが多いですが、実力次第でキャリアアップの道も開かれています。また、入社後も税理士試験の勉強を続けることが奨励され、試験前の特別休暇制度などのサポート体制が整っている法人もあります。
実際に、科目合格者として入社し、在籍中に残りの科目に合格して税理士資格を取得するキャリアパスは珍しくありません。Big4税理士法人での実務経験は、試験対策にも役立つ側面があります。
■税理士の科目合格で応募できる求人事例
(1)税務会計スタッフ【ITを導入し業務効率化を追求する税理士法人 】
Big4税理士法人の年収水準は、ポジションや経験年数、保有資格によって大きく異なります。一般的な目安は以下の通りです。
ポジション別平均年収(概算)
- スタッフ(経験1〜3年):400万円〜600万円
- シニアスタッフ(経験3〜5年):600万円〜800万円
- マネージャー(経験5〜10年):800万円〜1,200万円
- シニアマネージャー:1,200万円〜1,600万円
- ディレクター/パートナー:1,600万円〜3,000万円以上
これらの数字は税理士資格保有者の場合であり、科目合格者や資格なしの場合はやや低くなる傾向があります。また、英語力やプロジェクト管理能力など、付加価値の高いスキルを持っている場合は上乗せされることもあります。
中小税理士事務所と比較すると、特に若手〜中堅層では年収面でBig4が優位なケースが多いですが、中小事務所の所長クラスと比較すると差が縮まる傾向にあります。一方で、事業会社の税務部門と比較すると、マネージャー以上では一般的にBig4の方が高い年収となるケースが多くなっています。
(2)会計事務(アシスタント業務)、法人税・顧問業務(税務)【コンサルティングファーム】
Big4税理士法人でのキャリアパスには、大きく分けて以下のようなパターンがあります。
内部でのキャリアアップ
- スタッフ → シニアスタッフ → マネージャー → シニアマネージャー → ディレクター → パートナー
転職を活用したキャリア展開
- 他のBig4への転職(よりマッチする専門分野やポジションを求めて)
- 事業会社の税務部門長・CFOへの転身
- 独立して税理士事務所開業
特に5年以上の経験を積んだ後は、専門性を活かして様々なキャリアオプションが広がります。Big4税理士法人での経験は、特にグローバル企業や上場企業への転職に有利に働くことが多いです。
また、近年ではデジタル化の進展に伴い、税務のデジタルトランスフォーメーション(Tax DX)に関わる専門家としてのキャリアも注目されています。税務プロセスの自動化やデータ分析を駆使した新しい税務サービスの領域は、今後より重要性を増すと予想されています。
■税理士の科目合格で応募できる未経験求人事例
(1)法人税・顧問業務(税務)、相続・事業承継(税務)【資格支援が充実している税理士法人】
Big4税理士法人への転職には以下のようなメリットがあります。
専門的成長の機会
- 大規模・複雑な案件に携わる経験
- 最新の税務トレンドや国際税務の知識習得
- 体系的な研修制度による専門性の向上
- 多様な業界のクライアントとの仕事を通じた知見の蓄積
キャリアの幅広さ
- グローバルな活躍の場(海外駐在の機会も)
- 多様なキャリアパスの選択肢
- 将来の独立や転職時の高い市場価値
待遇面
- 一般的に高い年収水準
- 福利厚生の充実(確定拠出年金、各種保険等)
- 資格取得支援制度の充実
仕事環境
- プロフェッショナルな組織文化
- 同じ志を持つ優秀な同僚との切磋琢磨
- 比較的整備された働き方改革(在宅勤務制度など)
Big4では大企業や複雑な税務問題を抱える企業との仕事が中心となるため、幅広い経験を短期間で積むことができます。また、グローバルネットワークを活かした国際案件に携わる機会も多く、グローバルな視点を養うことができます。
(2)経理(決算業務)、経理(税務)、経理(連結決算)【東証プライム上場の接着剤メーカー】
一方で、以下のようなデメリットも考慮する必要があります。
業務負荷
- 繁忙期の長時間労働
- タイトな納期とプレッシャー
- クライアントからの急な要望への対応
組織の特性
- 大きな組織特有の複雑な意思決定プロセス
- 案件によってはマニュアル化された業務の割合が多い場合も
- 競争的な評価制度や昇進プロセス
適応の難しさ
- 求められる英語力や専門知識の水準の高さ
- 企業文化への適応(特に中小事務所からの転職の場合)
- スピード感と効率性の要求
キャリアの制約
- スペシャリスト化による知識・経験の偏り
- パートナーへの道が限られている
特に中小税理士事務所から転職する場合、仕事の進め方や組織文化の違いに戸惑うことがあります。また、大企業を相手にする分、一人で完結する業務は少なく、チームワークとコミュニケーション能力が重視される点も違いと言えるでしょう。
■税理士の科目合格者が転職で成功するには?
ここでは、Big4税理士法人への転職成功事例を紹介します。
(1)科目合格は“通過点”。過信しすぎないことが成功のカギ
転職前 | 転職後 | |
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勤務先 | 会計事務所 | Big4税理士法人 |
年収 | 420万円 | 710万円 |
大学卒業後、地元の中堅会計事務所で4年ほど勤務していたAさんは、専門性を高めたいとの思いからBig4を目指そうと就職活動を開始。初めに利用した人材紹介サービスは担当と相性が合わず、セカンドオピニオン的な意味合いで登録したジャスネットで転職活動を進めました。エージェントからは経験の棚卸や将来のビジョンに関するアドバイスを得て、Big4に特化した面接対策も実施。最終的に目標だったBig4に就職することができました。
(2)自分の“市場価値”を正確に理解する
転職前 | 転職後 | |
---|---|---|
勤務先 | 会計事務所 | Big4税理士法人 |
年収 | 690万円 | 720万円 |
税理士資格は3科目合格(簿記論、財務諸表論、法人税)していたBさんは、3年間大手企業で勤務した後、会計事務所に勤務。担当は外資系クライアントや外国人居住者に対する国際税務だったのですが、さらに職域を広げていきたいという希望が募り、転職活動を始めました。Big4のうち3社を受け、最初の面接からわずか2週間でのスピード内定となりました。8年間務めた会計事務所を辞める際にはエージェントとキャリアを相談して決断したそうです。
■まとめ:科目合格は転職の大きな武器になる!
Big4税理士法人の求人情報を定期的にチェックするには、以下の方法が効果的です。
転職エージェント経由
- 会計・税務専門の転職エージェントに登録
- 定期的な情報交換を行う
- 非公開求人へのアクセスを得る
直接応募ルート
- 各Big4のキャリアサイトをチェック
- LinkedIn等のプロフェッショナル向けSNSでの求人情報
- 会計・税務専門のキャリアイベントへの参加
ネットワーキング
- 元同僚や知人を通じた情報収集
- 業界セミナーや勉強会での人脈形成
- 各Big4のアルムナイ(元職員)ネットワークの活用
求人を見つけたら、単に応募するだけでなく、可能であればその法人や部門で働く知人からの情報収集を行うことで、より的確に自分の強みをアピールすることができます。また、採用ニーズが明確になっていない段階でも、転職エージェントを通じて「この人材なら採用したい」と思わせるアプローチができる可能性もあります。
①法人税・顧問業務(税務)、国際税務(税務)【BIG4税理士法人での税務コンサルタント】
仕事内容 |
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応募条件 |
【必須】
【歓迎】
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想定年収 | 400万円~800万円 |
②営業事務・一般事務【Big4税理士法人にて請求書発行業務/テレワーク可能/未経験歓迎】
仕事内容 |
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応募条件 |
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想定月収 | 23万8000円 |
Big4税理士法人は確かに高いハードルがありますが、適切な準備と戦略的なアプローチによって、十分に実現可能な転職先です。個人の専門性と人間性を活かせる最適な環境を見つけ、プロフェッショナルとしての新たなステージへの一歩を踏み出しましょう。
税務の専門家としてのキャリアに、Big4という選択肢を加えることで、より広い視野と可能性が開かれることでしょう。
- 執筆者プロフィール
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ジャスネットキャリア編集部
WEBサイト『ジャスネットキャリア』に掲載する記事制作を行う。
会計士、税理士、経理パーソンを対象とした、コラム系読み物、転職事例、転職QAの制作など。編集部メンバーは企業での経理経験者で構成され、「経理・会計分野で働く方々のキャリアに寄り添う」をテーマにしたコンテンツ作りを心がけていてる。