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税理士による「事業再生支援」の業務内容、仕事の魅力は?

中小企業の多い日本において、事業再生・経営改善を税理士が手助けをすることは、日本経済にとっても非常に有益なことだと思います。しかしながら、経営全体まで含めた俯瞰的な視点でアドバイスできる税理士というのは、まだまだ少ないのではないでしょうか。

ここでは税理士として様々な企業の事業再生・経営改善支援を行っている宮本晃先生に、業務内容ややりがいについてお伺いしました。これから税理士として、事業再生の分野を専門にしたいと考えていらっしゃる方は参考になさってください。

■必要とされる志向性(どんな人に向いているか?)

税理士が行う事業再生支援とは、債務超過など経営状態が悪くなった企業に対し、可視化した各種資料を作成して経営者の方々に実態を認識いただいただくこと。また、財務会計面を主とし様々な視点から改善策を提案し、収益が改善できるように支援することだとわたしは理解しています。

コロナ禍もようやく終息の兆しを見せています。コロナ禍対策のための金融機関の無利息・無担保融資(ゼロゼロ融資)のおかげで生き延びた企業が多かったわけですが、その元本返済のピークがこの2023年夏から2024年春にかけて到来します。

財務省、金融庁、経済産業省などは、その対策のために様々な政策を打ち出しておりますが、いまだに改善できていない企業も多く、これから多くの企業が倒産や廃業をする恐れが非常に高くなると言われています。

税理士の主な業務は、いうまでもなく、企業より(記帳代行の場合)会計帳簿をお預かりし、会計ソフトに仕訳を記帳し、月次試算表等を作成(税務書類の作成)、決算においては決算書、確定申告等(税務代理)を行うことです。

その意味では、金融機関よりも企業に最も近い存在であり、ほぼリアルタイムに企業の業績について把握しているわけです。業績が悪化する兆しも、会計数値に表れますので、改善のためのアドバイスも最も早く行える立場にいます。

しかしながら、今回のコロナ禍のように業績が悪化している企業に対して、税理士が積極的な関与を躊躇したり無関心であったりするケースが多々見られたのは、とても残念なことだと思っています。

事業再生支援に向いているのは、まずは日々頑張っている中小企業の経営者の方の役に立ちたい、なんとか経営状態を改善し、企業の成長を手助けしたいという気持ちがある人だと思います。

もちろん、意欲だけで業務ができるわけではなく、税理士試験科目にない管理会計や各業界についての情報、知識も必要になります。また、ほとんどの場合、中小企業診断士や事業再生コンサルタントとの連携が必要となりますので、そのため常に新しいことを学ぶ意欲があり、人とのコミュニケーション能力に秀でた人に向いているのではないでしょうか。

■「事業再生支援」の業務内容

企業ごとに、なぜそのような状況に陥ったかは千差万別ですので、当然のことながら事業再生の手法は、ケースバイケースとなります。

事実上、破綻状態に陥った企業に対して、債務の一部免除や弁済の繰り延べなどを行いながら、収益力のある事業に再構築する場合は、法律に則った手続が必要となる場合がありますので、その場合は、弁護士が主導して行うことになります。

税理士が行う事業再生支援業務とは、債務超過に陥る兆しがある場合やすでに債務超過に陥っている場合、事業再生が可能な企業に対して、その企業の実態を正確に把握し、なぜ、そのような状況に陥ったのか(窮境原因)を特定すること。自力が難しい場合は、一定期間、金融機関の融資返済を猶予してもらいます。

さらに、その改善策について事業改善計画書を策定、さらに、その計画が着実に実行され業務が改善されているかどうかPDCAサイクルを回してゆくことが主な業務となります。

改善が困難な場合は、中小企業診断士等のコンサルタントを交えてチームとして対応することもあります。

もちろん、税務顧問として関与していない法人からご依頼をいただく場合もあります。複数期間にわたって貸借対照表や損益計算書等の会計資料が適正に作成されておらず、表面上の財務諸表よりもはるかに財務状況が毀損しているケースも多いです。まずは、正しい貸借対照表、損益計算書を作成し、実態を把握することが第一歩になります。

そのうえで、なぜ、そのような状況に陥ったのか(窮境原因)を財務面、事業面の両方から経営者とじっくり打合せをすることにより特定する。また、経営者の方々にその事実を理解し、受け入れていただくことが最も重要なポイントになります(その後の経営改善のためのアクションプランを実行するのはあくまで経営者であり企業であるからです)。

その後の手順は上記と同様ですが、事業計画策定上、黒字体質になるまで時間がかかるため、金融機関からの借入金の返済を一定期間猶予していただく必要がある場合は、金融機関に事情を相談し返済計画のリスケジュールを依頼することになります。

借入金が多額で、また複数の金融機関が関与している場合は、中小企業活性化協議会や経営改善計画策定支援事業(405事業)等を活用して、より厳格な手順により金融機関の理解、支援を依頼します。

以上、大まかな手順は次のとおりかと思います。(ケースバイケースで前後します)

  1. 企業の現状を把握する
  2. 窮境原因を特定する
  3. 事業改善計画を策定する
  4. 必要に応じ、金融機関に一定の支援を依頼する
  5. 事業計画の実行に際し、計画とおり実行されているか伴走支援を行う

■わたしの場合

わたしが税理士になったのは、実は55歳になってからです。

大学卒業後に総合商社で働いたあと、家業であったアパレルの製造業を継いで仕事をしていました。当時は売り上げが20億くらいありましたが、旧態依然としたシステムの会社で人材育成もできておらず、顧問税理士もいましたが、経営に対するアドバイスなどももらえないような状態でした。また、経営陣においてもそのような意識はありませんでした。

残念ながらビジネスモデルの変化にうまく対応できず、50歳手前で倒産。どうしたものかと思っていた時に、知人の税理士の話を聞いて自分も税理士になろうと決意し、50歳の時に専門学校に入学して5年かけて税理士になりました。

わたしは20年くらい中小企業の経営者として苦労し、倒産まで経験しましたから、税理士になったら、その経験を活かし企業会計に特化し、経営者の方々をサポートするような仕事をしたいと思っていました。

しかし、税理士試験には管理会計の科目がないため、経営についての知識がありません。そこでわたしは税理士の管理会計勉強会で様々な先生たちと一緒に勉強しました。ネットワークを作り、また中小企業事業再生マネージャー、事業再生士補などの資格を取得し、またその過程で事業再生を専門とするコンサルタントの方々とも親しくさせていただき、具体的に事業再生のお手伝いができるよう研鑽を積んできました。

現在は経営者の方々が会社の現状を正しく把握、分析し、将来の経営戦略を策定できるようなサポートを心がけ、毎月の試算表、財務分析資料などの作成、説明を行っています。

また、事業計画策定のための財務デューデリジェンス(実態調査)を受けることもあります。

■「事業再生」の業務のやりがいは?

やはりなんと言っても、お客様に感謝されることが一番のやりがいだと思います。通常の税務申告や決まった税務業務では得られない充実感が、事業再生にはあります。

前述のとおりコロナ禍を経て、中小企業では大変な思いをしているところも多く、「経営改善したくとも、どのようにすればいいのかわからない」「企業として事業計画書も作成していない」というような小さな会社でも、実際の数字を見ている税理士であるからこそ、できるサポートがあると、わたしは思っています。

経営者の方々は相談相手を求めていますし、資金繰りなど実際の財務状況を理解している税理士であれば、数字に基づいた納得感のある材料を提供し、その相談にのることができるからです。一生懸命頑張っている中小企業の方々を助けたいというという気持ちが伝わり感謝されるのが、何よりのやりがいではないでしょうか。

■「事業再生」の採用ニーズ

(1)求められるスキル、人材

通常の税理士としての知識だけでは事業再生の業務は難しいかと思います。

まずは管理会計の基礎を学び、事業再生のセミナーを受けたり、事業再生の資格を取得したりして、実際に事業再生計画を作ってみることが必要だと思います。

また会計・財務の知識は税理士としての業務で身についていると思いますが、経営・法律の知識も必要です。それがないと一緒に仕事をすることが多い弁護士や中小企業診断士などのコンサルタントと実務的な話をすることが難しいため、そのあたりの基本的な知識も身につけなくてはなりません。

実際に企業の経営者や幹部とやり取りをするため、コミュニケーション能力も必要です。経営者の方に現状を理解してもらうためのコーチングスキル、経営改善策をうまく実行してもらうためのファシリテーションスキルなども、基本的なものでかまいませんので学習すれば良いと思います。

(2)採用されるポイント

まずはお客様の役に立ちたいという熱意があるかどうかでしょうか。

通常の税理士業務よりも、さらなる研鑽が必要なため、その努力ができるかどうかが問われると思います。

また税理士資格はあるに越したことはありませんし、若い方であれば中小企業診断士などの資格にチャレンジするのも良いかと思います。

■「事業再生」の年収はどのくらい?

通常の会計事務所と年収は変わらないかもしれません(あくまでケースバイケースだと思います)。

事業再生をお願いされるということは経営状況が厳しいということなので、正直なところ、税理士として儲かるお客様ばかりではありません。わたしの場合はそれでも何か力になりたいという想いで仕事をしています。

親しい事業再生コンサルタントの方々も、強い使命感がないとやれない仕事であると言っています。

■「事業再生」の経験を活かしたその後とのキャリアパスは?

事業再生のニーズは非常に高いのですが、実際にコンサルタントなどと組んでそれを実行できる税理士は非常に少ないと思います。事業再生の案件を数多くこなすことで、その後は事業再生専門のコンサルに転職したり、事業会社の経営企画部門に転職したりすることも可能ではないでしょうか。

また経営改善・事業再生を専門に行う個人事務所を開設することもできますが、その場合はクライアントへの営業力や人脈などのネットワーク力なども問われると思います。

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