2017年11月24日
現在、監査基準において世界的な議論となっているのが「監査報告書の透明化」。日本においても金融庁で、関係団体等を交えて話し合い、意見の取りまとめを行いました。有名企業の会計不正などで監査の質に関する議論が高まっていることもあり注目が集まります。
「監査報告書の透明化」は、監査報告書において、財務諸表の適正性についての意見表明に加え、会計士や監査法人が着目した、会計監査上のリスクなどを記載するものです。
「監査報告書の透明化」は、国際監査・保証基準審議会(IAASB)が策定する国際監査基準に導入され、欧州やアジア各国において制度の導入が進められています。米国でも、公開会社会計監督委員会(PCAOB)が関連する基準を公表しています。
金融庁では平成28年の「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言で、「透明化」導入を検討すべきとされ、同庁が日本経済団体連合会、日本監査役協会、日本証券アナリスト協会、日本公認会計士協会と意見交換。このほど意見の取りまとめを行いました。
透明化でキーワードとなるのが「監査上の主要な事項(Key Audit Matters: KAM)」。KAMは、会計監査において、虚偽表示等のリスクが高い項目として注意を払って監査をした項目。発表された取りまとめにおいても、KAMの記載が、企業と財務諸表利用者の対話の充実を促すと期待する意見が示されています。
ただし、記載すべき項目、必要な手続きについてはまだ議論の余地があるようです。株主総会におけるKAM に記載された事項の説明責任、監査報告書におけるKAMの開示と企業による開示との関係、手続きに要する時間など実務上の課題について意見が提出されたことが示されています。
金融庁は、これらの意見を受け、今後、企業会計審議会において「透明化」について具体的な検討が進められることが期待されるなどとしたうえで、日本公認会計士協会が、監査法人や企業等と連携し、KAMを試行的に作成する取組みを行い、実務上の課題を抽出することに期待を示しています。
有名企業の事件で、監査の質に関する議論が進むなか、KAMの記載といった「透明化」は今後の重要な論点となるでしょう。監査基準、実務にも、何らかの影響がもたらされることは必至です。会計士として、「透明化」の概念とともに、これから詰められていくことになる実務上の留意点などを注視しておくことが求められます。