2015年5月19日
安倍政権の施策の中で、最も注目されるものの一つに農協(JA)改革があります。 特別法による民間法人である全国農業協同組合中央会(JA全中)を、平成31年3月までに一般社団法人化。 地域ごとの単位農協(単協)の独立性を担保し、自由度を高める施策とされています。この農政改革は、JA全中による単協の会計監査権限をなくす内容を含むものであり、 会計士業務とも大きく関わっています。
JA全中が全国の単協に対して行う監査の主体となっているのは、外部監査組織「JA全国監査機構」です。
JA全中によると、平成24年度のJA全国監査機構による監査実施件数は708件で、全国の単協への実施率は100%となっています。
JA全中による監査を行うのは、主に国家資格である農業協同組合監査士(農協監査士)で、内容は財務諸表等証明監査と、
指導監査(業務運営監査)。指導監査は、企業コンサルティング業務に近いものです。つまり、JAにおいては、企業の会計監査人の監査とは異なり、
監査とコンサルティングを同一の機関が行う体制になっていました。
改革案では、JA全国監査機構による会計監査は廃止され、公認会計士による監査が義務付けられることになります。
JA全国監査機構には、農協監査士のほかに公認会計士も所属しており、制度改正後は、独立した新たな監査法人を設立し監査にあたる方針です。
また、コンサルティングに関しては、単協の任意による依頼で、JA全国監査機構が引き続き行うこととなります。
財務諸表等証明監査と指導監査の独立性をどのように担保するか、また農協監査士資格の位置づけ、
存廃などについて課題も指摘されており、今後の議論に注目が集まっています。
農協改革が実行されれば、単協は会計監査を受ける際、JA全国監査機構が設立する監査法人か一般の公認会計士を選択できることになります。
いずれを選択するにしろ、公認会計士の関与の度合いが高まることになるのは間違いありません。
JA全国監査機構が新たに設立する監査法人では、会計監査のため公認会計士の人員の強化を行うことになるでしょう。
また、単協の会計監査について、一般の監査法人を選択する事例がどれほど発生するかは不明ですが、既存の監査法人が、農協監査のための体制を整備することも考えられます。
現在、監査法人に勤める会計士の方々にとって、農協改革が自身の業務にどのような変化をもたらすのかということは、不透明な面もあります。
しかし現在、いわゆる「六次産業化」や日本産ブランドの農産物の輸出業務など、ビジネスとしての農業に注目が集まり、
農家に対するコンサルティング業務を手掛ける監査法人が増えてきている状況があります。
そのタイミングで、健全な企業社会を担保するための重要な制度である「監査」の対象として、農協の存在がクローズアップされていることは、
個々の会計士にとって、農業における会計士としての役割について考える良い機会。農業のビジネスモデル、また農業会計の特殊性などについて、
学習をしておくことの必要性が増している状況であるといえるでしょう。