2016年4月7日
法的紛争を裁判によらず、調停、あっせんにより迅速に解決する手続きである「ADR(裁判外紛争手続)」の利用が盛んになっています。今回は、主に企業間の紛争で利用されるADRにスポットを当て、財務、会計の専門家である会計士が関与する可能性などについて考えてみます。
ADRは、「Alternative Dispute Resolution」 の略で、民事上の紛争を解決するために、和解を仲介する手続きのことです。広義には裁判所で行われる調停等も指しますが、裁判所以外で行われる手続きを指すことが多いようです。
労働委員会のあっせんのように、行政が主体となるADRは古くからありましたが、平成19年に国が認証する民間ADR機関が行う手続きに一定の法的効果を与える「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」が施行され、利用が大きく広がりました。交通事故や消費者問題、医療問題など、様々な分野で民間のADR機関が活用されています。
ADRは、運営主体や実務者として士業が深くかかわっていることも特徴で、弁護士会をはじめ司法書士会、行政書士会等が設立した機関が、国から認証を受け運営されています。
会計士と関連が深いものとしては、事業再生ADRがあります。事業再生ADRは「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産活法)」に基づき経済産業省が認定した機関が行います。有名上場企業をはじめ多数の案件で、私的整理によって再生の道筋をつけたことで、大きな話題になりました。
事業再生においては、デューデリジェンスが必須の作業となります。資産価値の評価、事業の収益性などの企業価値を算定するなど財務・会計、ファイナンスの知見が必要となります。そのため、多くの会計士が事業再生ADR機関の補助人として活躍しています。
会計士がADRとかかわる機会は、機関での業務を行うケースだけではありません。紛争の当事者である企業内で働く会計士や、コンサルティングを行う会計士は、経営上の様々なトラブルについて助言を行うことがありますが、その際、裁判外のADRは選択肢となりえます。
たとえば、中小企業庁が設置する下請法に関する紛争を解決するADR機関、全国銀行協会が運営する融資に関するADR機関、そのほか知的財産に関する紛争、事業承継や相続の争いに関しても、ADR機関が設けられています。様々な紛争を、財務的な影響を冷静に分析し、負担を最小限にしながら解決するため、会計人としての知見を提供したいところです。