2015年12月10日
日本企業の収益性向上、投資の呼び込みに関する話題で、最近「資本コスト」という言葉をよく聞くようになりました。投資判断だけではなく企業のガバナンスについて語る際も広く使われる概念です。現在、資本コストに注目が集まっている理由、また会計人として注目すべきこと等を考えてみましょう。
「資本コスト」とは、資金の調達・維持コスト。これは会社の立場から見た言葉で、株式発行による調達であれば、配当金などとして表されます。他人資本である借入金であれば利息です。資本コストの種類には、株式資本コストや負債資本コスト、加重平均資本コストなどがあります。
これを投資家の視点で見ると達成すべき投資利回りを指すことになります。つまり、資本コストを上回る収益をあげる企業が、新たな価値を創造することができた企業と判断されます。逆に資本コストを上回る収益をあげることができなければ、企業価値が下がっているということになり、投資判断における評価は下がります。
最近、政府等から、日本企業のガバナンスに関する報告書、指針等の公表が相次いでいますが、その中でも資本コストの考え方への言及が多くなっていると感じられます。たとえば、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの報告書(いわゆる伊藤レポート)の主要メッセージの一つには「資本コストを上回る ROE(自己資本利益率)を、そして資本効率革命を」とあります。
政府の「日本再興戦略」やコーポレートガバナンスコード策定の議論においても、「稼ぐ力」という言葉に象徴される収益性アップ、そしてガバナンス向上や情報開示、投資家との対話によって資本コストを下げることと同時に有望な事業への投資を行い、日本企業が資本コストを上回るROEを確保することが、重要なテーマとして取り上げられています。
資本コストへの注目の背景には、投資家が毎年の利益よりも企業価値を重視する昨今の流れがあります。海外投資家の割合増加による投資スタイルの変化、M&Aの活況により企業体そのものの価値を算定されるようになったことも影響しているといえるでしょう。
企業価値の向上を至上命令とするのが財務担当者、会計専門家です。企業価値への注目は、CFO(最高財務責任者)というポストへの注目度の高まりと軌を一にしているといえます。企業内会計士は、自社が投資家からどのような評価を受けているのか、何を見られているのかを理解し、企業価値向上のための方策を提言できるスキルを身につける必要がありそうです。