2015年4月2日
2015年2月10日、法務大臣の諮問機関である法制審議会が、民法の債権法に関する改正要綱を決定。 24日に法相へ答申を行いました。政府は3月の法案提出、成立を目指す方針です。すべての私法の基本である民法だけに、 改正による企業活動への影響が考えられます。会計士としてどのような点に注目すべきか、考えてみましょう。
改正民法には、業種によって影響が大きいものがあります。たとえば保険や金融、サービス業等でよく利用される「約款」に関する法律上の位置づけなどが考えられます。
約款が有効な契約とされるための条件として、顧客への内容確認の義務、一方的に顧客の不利益になる約款の無効などが明記されました。
不動産業が関連する「敷金」の扱いが明確化されていることも注目されます。民法改正案では、敷金を「賃貸で借り手が債務を担保する目的で貸し手に交付する金銭」と定義。
賃借人は生じた損傷の原状回復義務はありますが、経年変化は対象外とすることが明確化されています。
これらは、慣習・判例の条文化の面が強く、大きな変化ではないとみる向きもありますが、適正な契約実務・運用について、
改めて見直すべきでしょう。会計士・監査法人は、該当業種の関与先がある場合の制度周知、
また会計士自身のコンサルティングサービスの約款などを再度検証する必要がありそうです。
さらに大きな改正点として、時効があります。現行では、業種ごとに「飲食料1年」「弁護士報酬2年」などと定められていた短期消滅時効を廃止。
また従来は、「権利を行使することができる時」から10年とされていた時効期間に、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」が加わりました。
ここで押さえておきたいのが、財務改善のために、会計人が経営者に確実な回収を助言することが多い売掛債権です。
卸売・小売の売掛に適用されていた2年の時効は、短期消滅時効の廃止で、5年に伸長されるため押さえておきましょう。
融資の個人保証の扱いも変わります。中小企業、スタートアップ企業の融資の多くで求められる経営者の個人保証は、公正証書による契約が必要とされることとなります。
また無制限の保証契約はできず、必ず極度額を定めなくてはなりません。個人保証によらない融資への取り組みなど、金融機関の動きも含めて、改正の影響を見定める必要があるでしょう。
約款の見直しなど契約のリーガルチェックは弁護士の専門分野ですが、民法の改正点を公認会計士が理解しておくことは、 財務、また内部統制、コンプライアンスの専門家としても大切なことです。自らの会計業務、また関与先の実務の変化について、 今からチェックしておくことが重要なのではないでしょうか。