2016年3月3日
会計不正の防止、証券市場の信頼性確保のための要となる会計監査。監査の質を担保するための方策が盛んに議論にされています。中でも現在注目されている制度の一つとしてEUで導入の動きがある監査法人の「ローテーション」があります。日本での導入の可能性を含め制度の内容について確認しましょう。
欧州議会は、上場会社の監査に関する規則を改正、2016年6月に施行することを決定しました。その大きな変更点が、一部の大企業について、基本的に最長で10年で監査法人を交代させることを求める監査法人の強制ローテーションの導入です。
同制度は、大企業の監査の在り方を大きく変える可能性をもっています。ただし、期間の終了後に再度入札を行った場合や、他の監査法人と共同監査を行った場合の期間延長なども認められており、EU加盟各国が判断する余地もあります。導入後にどのような形で運用され、監査の様相がどのように変わるのか、注視しておく必要があるでしょう。
会計士の皆様が気になるのが、日本におけるローテーション制度の導入の是非ではないでしょうか。2015年10月6日に行われた金融庁の「会計監査の在り方に関する懇談会第1回」においても、この問題について意見が交わされたようです。
会議では入札時の報酬引き下げ競争による監査の品質の低下、交代による初年度監査の監査工数増加によるコストアップ、クライアント企業に関する知識の蓄積の中断等に懸念が示されています。議事要旨では「コストをかけてもやるべきではないかという意見もあるとは思うが、いずれにしても十分な検討が必要である」との参加者の意見が記載されています。
日本の公認会計士法では、大会社における同一の公認会計士による監査が一定の制限を受けています。国内外の事例で、監査法人と企業の長年の馴れ合いから、適切な監査がなされなかったと考えられる事例も指摘されており、ローテーションの意義そのものについては、先進各国である程度の共通認識があると思われます。
しかし、EU型の強制ローテーション制度の導入に対しては慎重であるべきだという意見もあります。誇りを持って監査業務を行う公認会計士の皆様にも、様々な意見があると思います。制度がどのように変わろうとも、ローテーション制度の狙いである独立性の担保や馴れ合いの防止について、一人一人の公認会計士が、社会的役割を心に期しつつ、高い志で業務にあたりたいところです。