2016年5月26日
金融商品取引法違反となる不正取引のうち、多くを占めるのが内部者取引、いわゆるインサイダー取引です。今回は、証券取引等監視委員会が毎年度公表している違反事例に対する勧告事例をもとに、最近のインサイダー取引の特徴、また会計士として注意すべき点などを考えてみましょう。
証券取引等監視委員会は、市場の公正・透明性を確保し、投資家保護を図るための監視・検査を行い、内部者取引や相場操縦等の禁止行為について、金融庁長官に、課徴金処分を出すよう勧告を行い、その結果を公表しています。
公表された資料によると、証取委の課徴金制度が平成17年度に開始した後、平成26年度までに252件の勧告・課徴金事例があります。違反行為の内訳をみると、内部者取引が203件と大半を占めています。平成26年度の勧告事例をみると、全体の42件のうち、31件が内部者取引によるものです。
では、インサイダー取引はどのような場面で行われているのでしょうか。公表資料から、内部者取引の原因となった重要事実を見ると、最も多いのが「公開買付け」によるもので、平成17年度から26年度までの件数は60件と最多となっています。続いて、「新株等発行」が39件、「業績予想等の修正」「業務提携・解消」が29件となっています。また、公開買付けにかかるインサイダー取引は、とくに平成26年度に急増しています。同年度の内部者取引の勧告事例31件のうち、22件が公開買付けの際に発生しています。
公開買付けがインサイダー取引の発生原因となりやすい理由として、取引の対象となる人が多いことがあります。広範な投資家が参加するため、露見しにくいと考えたり、重大性を理解していなかったりといった理由で、安易に内部者取引に手を染めてしまう傾向があるのです。発行会社の役員、従業員の教育はもちろん、引き受けを行う会社、取引先などに対しても、情報管理と法令順守に関して啓発していくことの重要性を感じます。
内部者取引等の不正取引を防止するには、証券取引等監視委員会の調査、また課徴金や刑罰による抑止力だけでは不十分であることは論をまちません。内部者取引を未然に防げれるような体制整備が必要となるでしょう。会計士も、情報の取り扱いについての注意喚起をおろそかにしないことが大切です。そしてインサイダー取引は、公認会計士が不正を行うケースもありえます。当事者として、第三者として、公認会計士に求められる社会的役割の高さを意識しておきたいところです。