2016年10月24日
平成26年に、監査等委員会設置会社制度の創設など大きな改正が行われた会社法。改正では、株主が会社に対し提起する訴訟類型も追加されています。親会社の株主が子会社の取締役等の責任を追及する「多重代表訴訟制度」です。グループ企業に大きな影響を及ぼす同制度の概要と、会計士として注目すべき点をまとめてみました。
多重代表訴訟は、親会社の株主が子会社役員に対して責任追及の訴えを提起することを可能とする制度です。類似する制度に、株主が会社の役員の責任を追及する株主代表訴訟があります。従来から子会社の株式を持つ親会社は株主代表訴訟を行うことができましたが、今回の改正により子会社の株式を直接持たない親会社の株主が訴訟を提起することができるようになったということです。親会社の株主は、親会社に対し、子会社役員の責任追及の訴えを起こすよう請求し、60日以内に提訴されない場合、自ら訴訟を起こすことができます。
多重代表訴訟ができる親会社の株主には基準があります。まず、親会社は子会社の株式をすべて保有する完全親会社であり、さらに自社に親会社が存在しない会社でなくてはなりません(このような会社は「最終完全親会社等」といわれます)。
また、株主代表訴訟は、保有株式数に制限はありませんが、多重代表訴訟は、親会社の株主が株式議決権の100分の1以上を6か月以上継続して持っていなくてはなりません。また、訴訟の対象となる子会社の株式の帳簿価額が、親会社の総資産額の5分の1を超えていること、子会社の役員により親会社に損害が生じていること等が必要です。
会計士は、グループ化やM&Aのコンサルティングなど、企業再編に携わることが多くあり、今回の新制度には深く関係があります。今回の会社法改正について、他の重要な変更とともに多重代表訴訟の概要を学んでおく必要がありそうです。
自分が手掛ける再編案件で「最終完全親会社等」が形成される場合、親会社の株主が訴訟を起こせる状況にあるということを、ガバナンスに関する知識として持っておく必要があるでしょう。また、現在関与する企業グループについても、多重代表訴訟の対象となる子会社があるかどうか、会社法の条件に合わせて確認する必要あります。また、社外取締役など、会計士が自ら子会社役員となる場合も当然影響があります。責任追及のリスクは高まっているといえるため、取締役として就任する会社のグループ構成をチェックしておく必要があるでしょう。