2016年1月28日
有名企業の不正会計に関する話題が連日報道されています。不正の温床となった社内の人間関係、組織の体制とともに「押し込み」や「バイセル」等、不正の手法も取り上げられることが多くなっています。これらの不正の手口の内容とともに、その手法が頻繁に利用されるのはなぜなのかといった背景について考えてみましょう。
「押し込み」「バイセル」の手法は、利益をかさ上げするための、いわゆる循環取引です。まず行われるのは、期末に利益を水増しする必要が発生した場合に、取引先企業などに部品等を強制的に購入させる(押し込む)こと。これにより不当な利益を計上します。
この状態では、取引先に在庫が積み増されることになりますので、翌期以降にそれを高く買い取って帳尻を合わせることになります。バイセルの意味通り「買って、売る」ことにより会計を操作する手法です。なお、買い戻す際に高めの価格を設定することは「マスキング」などと呼ばれます。
別会社を利用しての利益の水増しは、どこかに不自然に大きな損失が発生することになりますので、売上が動いていないとほころびが生じます。したがって、不正に一度手を染めてしまえば止めるのは難しくなり、常態化してしまうという特徴があります。
循環取引による不正は昔からありますが、現在特に注目されるようになっている理由として、グローバル化、水平分業が進んだことにより、海外企業へのOEMといった委託取引が盛んとなっていることがあります。委託製造などの業務では、部品を押し込み、製造や加工等を行ったうえで、通常設定されるよりも高めの価格で買い戻すといった取引が行われます。
このような取引の難しいところは、委託会社に部品を売り、完成品を買う契約は一般的に用いられていることから、取引自体は通常のものと見分けがつけにくいこと。そのため、同じものが還流する単純な循環取引よりも発見が難しくなります。
報道される会計不正では、社内の環境、企業風土に大きな問題があったことも指摘されています。不正の発見のために会計士の役割が重要であることは言うまでもありませんが、外部からの目だけではなく、CFOや内部監査人など、内部の会計専門家と連携することが重要となります。社会的に大きな問題は、監査法人や会計士の人材市場にも大きな影響を与えます。不正手法を熟知する監査経験者、海外関連会社に関する監査の経験者、内部統制などのスキルのある会計士の価値が高まり、企業の内外で求められる傾向が高まるものと考えられます。