2015年11月02日
IPO支援、上場時の監査を行う監査法人・会計士にとって、新規上場の動向は大きな興味の一つ。帝国データバンク(TDB)が2015年8月に発表した「2012年~2014年IPO企業の業績動向調査」では、新規上場の件数が堅調に増加していることが示されるとともに、上場後の減益等、証券市場の信頼性についての課題も浮き彫りになっています。
2014年は株高傾向の後押しもありIPOが盛んに行われた年でした。同年に実施された新規上場は77件。これは、リーマンショックにより株式市場が大きく縮小した2009年から5 年連続の増加です。2015 年も、7月末時点で49 社で、前年同期比63.3%増となっています。
TDBのレポートでは、IPO好調の理由として、金融緩和等、株価を押し上げる経済政策に加え、円安を背景とした輸出企業の業績回復、2020 年の東京オリンピックによるインフラ需要の増加等を挙げています。
そして、興味深いのが新規上場の業種です。2012 年~2014 年にIPOを行った177 社のうち、「サービス業」が85 社で約半数。サービス業の中でも、スマホコンテンツやソーシャルメディア、また医療関連企業の上場が盛んで、TDBは「今後の市場拡大が見込まれる分野での上場が目立つ」と分析しています。
TDBでは2015 年 5月に「株式上場意向に関するアンケート調査」を発表しており、ここでもIPOの意向がある企業は「サービス業」で全体の 51.5%、そのうち「情報サービス業」が全体の 4 分の 1となっていました。比較的新しい分野で新興企業が勃興してきていることは、新たな需要に合わせた、産業構造転換の兆しが表れているといえるでしょう。
今後も新興市場を中心に、サービス関連業種のIPOが相次ぐ可能性があります。ただし、ここで課題となるのが、IPOを行った後の企業業績です。
TDBの調査報告では、上場直後に3割が減益となっているとの現状が指摘されています。昨年上場したソーシャルゲーム企業が、IPO後に業績見通しを黒字から赤字へ修正した問題は大きく報道され、投資家からは、上場基準の厳格化も求められています。
市場の信頼性を確保することができなければ、新興企業のIPO増加が短期的な過熱に終わり、むしろ後々に禍根を残すことにもなりかねません。そこで重要となる存在が公認会計士です。外部監査を行う監査法人はもちろんのこと、IPO支援やコンサルティングにおいても、長期的な企業価値向上を念頭に、適切な会計情報の開示、社内体制の整備のための助言を行うことが重要です。日本経済を成長軌道に乗せるために、会計士に期待されるものは大きいと改めて感じます。