2015年12月17日
現在、日本の財政問題として、また企業会計上の問題としても盛んに取り上げられているのが企業年金制度の将来についてです。
企業年金の一つであった厚生年金基金の解散が進み、政府は新制度の導入などの整備を進めています。公認会計士が行う業務でも様々な問題と関連しているため、論点を整理しておく必要があります。
厚生年金基金はAIJ問題に代表される財産の毀損が問題となっています。厚生年金保険料の一部を企業の独自設定による基金の掛け金と合わせて運用する「代行部分」の積み立て不足が顕在化。代行返上、厚生年金基金の解散が相次いでいます。政府は代行割れを起こしている基金の解散を促し、将来的に厚生年金基金制度の廃止を含め検討しています。
厚生年金基金の代行返上とともに、確定拠出年金や確定給付年金などの企業年金の導入も進んでいます。企業独自に設定され、基礎年金と厚生年金に上乗せされる、「3階部分」と呼ばれる企業年金は、一定の老齢給付額を約束する確定給付型と、加入者自ら運用する確定拠出型があります。前者は企業のリスクが大きく、後者は個人のリスクが大きくなります。各企業が抱える欠損等、問題の洗い出しとともに、経営を圧迫する年金制度を整理し、適切に運営できる年金制度を構築することが求められています。
企業年金の運用リスクについては会計上も大きな論点です。退職給付会計の処理方法が問題となります。年金資金の不足についてより厳格に反映されるIFRS(国際財務報告基準)とのコンバージェンスが進んだこともあり、2012年には日本基準の退職給付会計が大きく変更され、積み立て不足が負債として貸借対照表によりシビアに反映されることとなりました。今後も、退職給付債務の算出方法や、退職給付引当金の計上の在り方について、投資家から厳格な目が注がれることになるものと考えられます。
公認会計士にとって年金制度とその会計基準については必須の知識となります。監査を行う会計士は、積み立て不足を含め、年金資金について適切な会計処理がなされているか否かを精査することになります。また、経営コンサルティングにおいても、「レガシー・コスト」となる年金の正確な状況を分析し、改めて退職給付に関する制度構築をする企業が増えており、会計士は助言を求められることになります。
そのほかにも、最近の法制との関連ではマイナンバー対応、個人のファイナンシャルプランニング業務等々、会計専門家の年金に関する業務は様々です。公的年金、企業年金の制度をそれらの問題点とともに知っておくことは、会計人にとって非常に重要であるといえるでしょう。