2016年5月30日
中小企業の事業承継の方法として、第三者へのM&Aが注目されています。中小企業のM&Aには、公開会社が多い大会社が行うものとは異なる特質があり、専門家に期待されるスキルも異なります。今後も市場が伸びていくと予想がされている中小企業のM&A分野において、会計士に求められることについて考えてみます。
中小企業M&Aの大きな特徴として、株式が非公開であることがほとんどであることから、いわゆる敵対的買収ではなく、友好的であることが絶対条件になるという点があります。そして、大企業で多い吸収合併などよりも、株式の購入による完全子会社化で終了する簡易なものが多いのも特徴です。
また、中小企業は創業者であるオーナー社長が多いため、高齢化による事業承継とセットになるケースが多いことがあります。中小企業のM&Aは純粋に財務的な業務というよりも、家族の意思、経営者の老後のセカンドライフ、事業や従業員の継続など「想い」を引き継ぐことが重視されます。経営者の融資への個人保証の扱いも必ずと言っていいほど出てくる問題です。
売却を検討する場合に、価値の最大化が大きな課題となることは会社の大小にかかわりないことですが、中小企業にはここでも課題があります。中小企業の業務は属人的で、業務の内容が定量化、標準化されておらず、財務や法務を含め、客観的な情報が管理されていないことが多い点です。これは買収する側から見るとリスクになります。
M&Aを検討する際は、企業の価値の源泉を見極め、収益性の高い組織として磨き上げる視点か必要です。不要事業や資産の処分、取引先との債権債務関係の明確化など、事業・組織を客観視し、説明可能なものとする視点が必要です。そして、もちろんDCFや類似企業比較、純資産法など、デューデリジェンスの方法を意識しながら、企業価値を高める方策を打ち出していくことも重要です。
中小企業のM&Aの最も大きな特徴は、相手方を見つけることの難しさかもしれません。実際は市場で評価がされる要素がありながら、価値に気づかれていない中小企業も多く、M&Aの選択肢としてみられていないことが多いようです。M&Aの成功の秘訣は早めの対応。この点で、「検討がもう少し早ければ」という例が多い現状があります。
中小企業のM&Aのマッチングに関する情報と技術を持ち、経営者の「想い」もくみ取る相談者としてのスキルを持つ人材は不足しています。また、それらのスキルがある人材も、財務知識は不足しているとの指摘もあります。そのため、特に中小企業の顧問の経験がある会計事務所勤務の会計士には、M&Aエージェント、ファンド、M&Aコンサルティングファーム、金融機関などから熱い視線が注がれています。