2016年1月25日
会計士が企業の役員に就任することが増えていますが、その際に意識すべきこととして、取締役等には会社法等で様々な責任が課されており、場合によっては高額の損害賠償を請求される可能性がある点があります。
この、役員就任のハードルともなる法的責任への不安に応えるものとして注目度が高まっているのが、会社役員賠償責任保険(D&O保険)です。
D&O保険は、会社役員としての業務遂行を原因として発生した損害賠償や訴訟費用を保証する保険です。多くは会社が契約者となり、被保険者を取締役や監査役とします。
会社法上、役員が損害賠償の支払い義務を負うケースとして、役員としての任務懈怠、利益相反行為などにより会社に対して損害賠償義務が発生するケース、また役員として行った業務で、第三者に損害を与えてしまうことで賠償義務が発生するケースなどがあります。
D&O保険の注目度アップ、普及の要因として、株主代表訴訟が増加したことがあります。会社法では「責任追及等の訴え」と呼ばれるもので、株主が会社に役員への責任追及を求め、追及がなされなかった場合には、株主が株式会社のために取締役を訴えることができます。たとえば、無謀な投資により業績が悪化したり、社内の不正発生の監視を怠ったことで会社に損害を与えたりといったケースで株主代表訴訟を提起されることがあります。
会計士が就任することも多い社外取締役については、会社法では特別な規定があります。株主総会の決議や定款の定めに基づく取締役会決議により、社外取締役には通常の取締役とは異なる限度額を設けることが可能です。
D&O保険は、巨額となり、役員の支払い能力が及ばなくなる可能性も高いこれらの損害賠償や弁護士費用、訴訟費用などを保証するものです。各社が提供する保険商品、特約等により、カバーされる損害賠償の種類、保険金額等が異なり、また詳細な免責規定もありますので、会社が加入している、あるいは加入を検討している保険の約款等を詳細に調べておく必要があります。
万が一損害賠償が発生した場合に備え、保険の存在を知っておくことは非常に有用ですが、それ以前に、会計士が社外取締役等として就任する場合、どのような責任が発生するリスクがあるのか知っておくことはいうまでもありません。とくに、最も危険なケースの一つといえる、投機の意思決定等のガバナンス体制、社内での不正発生の防止策等については、就任前に、今まで培ってきた会計や内部統制の知識をもとに、可能な限りリサーチしておくことが重要になるでしょう。