2016年1月21日
金融庁は9月、平成27年事務年度の監督・検査の方針を示す「金融行政方針」を公表しました。同方針の進捗等は、評価を行った末、平成28年6月にレポート。翌年度の方針に生かされることとなります。平成27年事務年度の方針の内容を、会計士として特にチェックすべき部分である、会計監査の質の向上のための取り組みを中心にみていきます。
昨今の会計不正の影響もあり、方針では会計監査の信頼性の確保に向けた強い姿勢がうかがえます。同庁は、会計監査の在り方について議論するため、財界、学者、会計士、アナリストなどで構成する「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置、その提言も踏まえて監査の質向上のための対応を検討していくとしています。
とくに、監査法人や公認会計士の適正な業務運営の重要性を強調。虚偽記載が認められる企業の財務書類について故意に監査証明した者に対し「厳正に対処」するとしています。また、公認会計士・監査審査会により、効果的・効率的な審査・検査を実施し、その検査結果に基づく行政処分等を厳正に行うことも明記されました。
日本公認会計士協会の役割についても言及しています。資格審査・登録事務等の厳正な執行、継続的専門研修の適正な受講、虚偽証明や信用失墜行為を行った会員に対する厳正な対応、品質管理レビューの一層効果的な実施への支援を求めていく考えが示されました。
最近の社会状況が反映された項目としては、IPO に関する記述も印象的です。IPOの件数が増加傾向にある一方、「IPO に対する株主・投資者の信頼を損ないかねない事例も指摘されている」として、不適切な取引、実態と乖離した業績予想、また上場時期の集中などへの対応を証券会社や監査法人に促し、IPO の質的向上を図る方針を示しています。
方針では厳正さとともに、経済・社会状況の変化に合わせ「会計人材には経済社会の様々な分野での活躍が求められて」いるとして、会計専門家としての公認会計士の役割の変化、そして大きな期待が示されています。
とくに大きく取り上げられたのは市場のグローバル化。海外展開等に適切に対応するため、日本公認会計士協会や財務会計基準機構等と連携。「国際的な会計人材の育成」のための取組みを促進していく考えを示すとともに、「公認会計士や試験合格者の活動領域の拡大」に向け、「アクションプランを継続的に策定・実行」していくとしました。
また、国際会計基準については、任意適用企業の拡大促進に引き続き取り組むことを明記。それとともに、基準策定過程における積極的な意見発信、また日本基準の高品質化に向けた取組みを進めていくとしました。
平成27年事業年度の行政方針は、会計士にとって、業務の適正な運営にますます襟を正さなければならないことを感じさせるものとなりました。会計業界の現状に対する当局の視点からは、今後の会計士に求められる資質、重視されるスキルに関するヒントを得ることもでき、キャリア形成を考える上でも有用ではないでしょうか。