2017年05月15日
健全な市場経済を担保するため、極めて重要な役割を担う会計監査。昨今、会計不正事件などを受け、その適正な在り方が議論に上ることが多くなっています。平成28年12月、金融庁は「監査法人の組織的な運営に関する原則」(案)を取りまとめ、公表。この案は「監査法人のガバナンス・コード」として整備されているものであり、会計士として概要を知っておく必要があります。
「監査法人の組織的な運営に関する原則」(案)は、5 つの原則と、それをもとにした 22 の指針からなります。同案では、企業の不正会計などの問題を経て、監査法人の置かれた状況の認識と、今後の課題が的確に表されています。
まず原則1は「監査法人は、会計監査を通じて企業の財務情報の信頼性を確保し、資本市場の参加者等の保護を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与する公益的な役割を有している。これを果たすため、監査法人は、法人の構成員による自由闊達な議論と相互啓発を促し、その能力を十分に発揮させ、会計監査の品質を組織として持続的に向上させるべきである」というもの。指針では、明確なトップマネジメントや、会計士としての職業的懐疑心、非監査業務の位置づけなど、監査法人の基本姿勢を確認しています。
原則2は「監査法人は、会計監査の品質の持続的な向上に向けた法人全体の組織的な運営を実現するため、実効的に経営(マネジメント)機能を発揮すべきである」というもの。監査法人が組織として、適切に機能を果たすための方策として、指針では組織的な運営を行うための経営機関の構成、ITを活用した深度ある監査の重要性などに触れています。
原則3は「監査法人は、監査法人の経営から独立した立場で経営機能の実効性を監督・評価し、それを通じて、経営の実効性の発揮を支援する機能を確保すべきである」とし、指針では、監査法人の経営の実効性を、独立性のある機関が監督・評価すべきであることなどに言及しています。
原則4は「監査法人は、組織的な運営を実効的に行うための業務体制を整備すべきである。また、人材の育成・確保を強化し、法人内及び被監査会社等との間において会計監査の品質の向上に向けた意見交換や議論を積極的に行うべきである」とし、監査の現場から経営機関等への情報の流れを円滑にし、自由な議論を行える体制、いわゆる縦割り、セクショナリズムを排した開放的な組織文化を作る必要性などに触れました。
原則5は「監査法人は、本原則の適用状況などについて、資本市場の参加者等が適切に評価できるよう、十分な透明性を確保すべきである。また、組織的な運営の改善に向け、法人の取組みに対する内外の評価を活用すべきである」としています。ここでは、法人内だけではなく、資本市場の参加者等が監査法人を評価できるよう、原則の適用状況や監査品質向上に向けた取組みに関して、情報開示をすることの必要性などを強調しています。
今回のコードは、大企業に対するコーポレートガバナンス・コードや、機関投資家に対するスチュワードシップコードなど、最近の市場環境の整備のためのコード策定と歩調を合わせたものといえ、直接的な法的拘束力はなくとも、極めて影響力の強いものです。各コードと相互に関連させ、「日本的市場」の在り方を全体としてとらえる視点が必要でしょう。監査法人はもちろん、個々の公認会計士の皆様としても、会計監査に対する社会の大きな期待を踏まえ、コードの内容をじっくり確認しておく必要があるといえるでしょう。