2017年05月22日
会計士業務として、事業承継の支援業務への需要が高まっています。特に最近は、経営者が高齢化する中小企業がかかわるM&Aなどの案件が多くなっており、政府も円滑な承継のための支援策を打っています。今回は、中小企業庁が策定した「事業承継ガイドライン」を参考に、会計人としての関与が望まれる分野を考えてみます。
「事業承継ガイドライン」は、中小企業庁が、中小オーナー経営者が高齢化し、後継者が不足している現状を踏まえ、事業承継ならびに企業活動活性化のため、事業承継の計画・準備、支援体制などについて取りまとめたものです。
同ガイドラインは3つの項目からなります。まず「事業承継に向けた早期かつ計画的な取組の重要性(事業承継診断の導入)」。事業承継は問題が表面化する前に準備、計画を進めることが成功のカギとなります。この項ではそのツールとして「事業承継診断」を紹介し、承継の必要性の啓発を行っています。
2つ目が、「事業承継に向けた5ステップの提示」。この項では、実際の事業承継実務を行う上での手順を、「事業承継への準備の必要性認識」、「経営状況等の把握(見える化)」、「経営改善(磨き上げ)」「事業承継計画策定・マッチング実施」、「事業承継の実行・M&Aの実行」の5つに分け、それぞれに重視すべきポイントをまとめています。
そして3つ目は、「事業承継を支援する体制の強化」。中小企業庁や地方自治体等の行政機関、商工会議所等の団体などが取り組む支援体制を紹介し、今後の政策の方向性も提示。とくに、都道府県を中心にした支援ネットワークの重要性を強調しています。
同ガイドラインの特徴として、会計専門家の重要性について触れている点があります。たとえば、上記「5ステップ」の、「経営状況等の把握(見える化)」の段階では、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」等を活用した適正な決算処理の必要性を指摘。「事業承継の実行」の中では、税負担などの手続きについては「税理士、公認会計士等の専門家の協力を仰ぎながら実行することが望ましい」などとしています。
ガイドラインから見えてくることは、会計士は、会計の信頼性の確保、承継手法の選択のためのコンサルティング、税務などの実務につなげるために、まずは経営者に承継に関する気づきを与えることが重要だということです。会計士が中小企業のM&A業務を手掛けるための鍵となるのは、いかに計画段階にから関与することができるかです。ガイドラインに記載された基礎知識を、行政の動きも注視しながら、中小企業の経営者にわかりやすく提供していきたいところです。