2016年8月1日
組織再編の成功のカギとなるのは、多様な手法を適切に使い分けることができるか否か。合併や分割など、根本から組織を組み変えるのではなく、株式の取得による完全親子会社を作ることもその方法となります。今回は、完全親会社・子会社関係を作る手続きである株式交換と株式移転について、その実務について考えてみます。
株式交換は、企業買収の手法の一つとして行われ、既存の企業の発行株式のすべてを自社の株式等と交換する手続き。株式を発行する形で行う場合や、自己株式を利用する場合があります。実施に資金調達の必要が少なく、比較的手続きも簡易であることからM&Aの手法として広く利用されています。
株式交換で交付されるのは、親会社となる会社の株式だけではありません。近年注目されているのが、外資系企業による三角合併。これは、海外の企業の日本国内子会社が、日本の企業を買収する際に、親会社の株式を交付する形の株式交換であり、クロスボーダーの企業再編に利用されています。
もう一つ、完全親子関係を作る手法に株式移転があります。これは、新しく会社を設立し、その会社に既存の会社のすべての株式を移転させる方法。新規の法人の設立登記を行った時点で効力が発生します。
株式移転は、グループ会社の整理、グループ強化を迅速に行うためのスキームとして利用されます。活用される場面として代表的なものが、いわゆる「持ち株会社」の設立です。多くの企業が持ち株会社の配下に置かれる形態を、簡素な手続きにより作ることができる方法として広く利用されています。
株式交換や株式移転を実施するための手続きとして、まず当事者となる会社で、株式交換・株式移転の条件等を定めた計画を作成し、株主総会による承認を得る必要があります。また、債権者保護手続、株式買取請求など法定の手続きが必要になることもあります。株式移転の場合、新会社設立の登記等も必要です。
M&Aアドバイザリーを行う会計士が携わる業務として主なものに、株式交換の際の比率を検討するために、企業価値を算定するデューデリジェンスがあります。また、会計処理や有価証券報告書等への記載、株式の譲渡益に対する課税関係にも目を配る必要があります。会計・税務上の実務が成否を分ける重要なポイントとなることから、会計士の知見が大きくものをいう再編手法であるといえるでしょう。会社法、会計基準、税法などを幅広く学び、実務における留意点を整理しておく必要があるでしょう。