2017年03月13日
金融政策等の効果で企業収益がアップする中、企業の内部留保が増加していることがメディアで多く取り上げられています。景気回復のためには給与を上げ消費を刺激することが重要だといわれますが、内部留保は、給与額という労働者の視点からだけではなく、資本効率という点で投資家の視点からも注目されています。
財務省が公表した「法人企業統計」によると、2015年度の企業の内部留保は、377兆8689億円。前年度から約23兆円増え、過去最高を更新しています。
内部留保は配当ですべての利益を分配しない限り積み上がっていくことになりますので、収益が上がれば内部留保が増えることになります。ただし内部留保が増えれば、その資金でどのような経営を行うのかについて、投資家から厳格な視線が向けられることも忘れてはいけません。
特に上場企業は、広く投資を募り、株主資本を利益につなげ、その果実を株主に還元することが上場を維持することの意義といえます。往々にして、日本企業は、株主価値を高めることを軽視していると批判されることがありますが、内部留保についても、企業価値向上に資しているのか、厳しく評価されているのです。
内部留保については、2014年に経済産業省が発表した、企業統治の在り方についてまとめた「伊藤レポート」でも言及されています。
同レポートでは、企業価値向上の観点から、日本企業の内部留保の在り方を提言。「株主は、内部留保が資本コストを上回るパフォーマンスをあげることを『期待』している」とし、内部留保の使途について、経営者の能力を見極めるための「リトマス試験紙」と位置付けています。
内部留保額を増やす際には、リスクに備えるための留保という理由だけではなく、配当として分配をしないことの理由、より大きな利益を上げる投資のために内部留保が必要であるとの理由が必要です。日本企業の課題と言われる低いROEなどの向上にもかかわる、重要な視点といえるでしょう。
資本効率と内部留保の関係を啓発するために会計士の存在は大。コンサルティングを行う際、経営者に投資家からの厳しい目を意識させることが重要です。新規投資や労働分配率、配当性向の在り方とともに、内部留保の意義についても財務理論のバックボーンをもとに助言することが求められます。
また、コンサルティングだけではなく、企業内で活躍する会計士への期待も高まっています。伊藤レポートでは、「企業の財務的な観点から企業の置かれた状況を冷静かつ客観的に把握」する役割を果たす専門家として CFOの重要性を強調しています。企業収益が上がっている今、会計士が「経営者」となって活躍するフィールドも、拡大しているのではないでしょうか。