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【会計士が一番最初に読む IPO入門講座】第3回.IPO準備の基本(3):昨今IPOした企業の分析と傾向

【会計士が一番最初に読む IPO入門講座】第3回.IPO準備の基本(3):昨今IPOした企業の分析と傾向

1.ポスト・コロナを想定して

前回に解説した内容と重なりますが、IPOの各年度における件数は比較的日経平均株価を中心とした経済指標に連動する傾向にあります。これは単純に株式市場が好調な際に株価が高くなる傾向があり、このタイミングでIPOするモチベーションが高いと考えられるためです。

このことが示すように今年2020年に入ってご高尚の通り新型コロナウィルスの影響で経済状況が一気に冷え込んでいく中、IPOを予定していた企業のうち18社が申請を取り消す事態になっています。日経平均株価は致命的に下落しているわけではありませんが、コロナウィルスの鎮静化が見られない限りは本年のIPO件数は大幅に下落することが予想されます

ときにアベノミクスが開始したとされる2012年以降は株式市場が回復傾向を辿り、IPOの機運が盛り上がりましたが、IPOは審査対象年度が2事業年度必要であり、一朝一夕で成し遂げられるものではありません

下記のグラフから見る2013年・2014年にIPOした企業はそれ以前から3年から5年の準備期間を経てIPOしていることとなり、逆に言えばリーマンショックから立ち直っていない時期にIPO準備をスタートさせていることになりますので、この2年間は株式市場の回復にIPO件数がそこまで追いつきませんでした。

これを現在に置き換えると、今後しばらくはコロナウィルスの影響による低迷時期が予想されますが、経済情勢厳しいこの時期にしっかりと経営戦略はじめ足元を固めた企業が、ポスト・コロナにドライブがかけられると筆者は考えます。

図1

このコラムを読まれている皆様におかれては、今般のこの時期に、昨今のIPOにおける傾向と対策を会得し、ポスト・コロナの株式市場回復後にスムーズなIPO準備業務に携われるように願ってやみません。

2.昨今のIPOにおけるファクトデータと分析

2018年及び2019年のIPOにおけるファクトデータと傾向の分析を解説します。

(1)業種別

業種別のIPOは以下のグラフの通りです。

図2
図3

2018年と2019年ともに情報・通信業とサービス業の割合が高くなっており、それぞれの企業の事業内容を俯瞰して見た傾向として下記の特徴を持つ企業が増えており、企業成長のための戦術のキーワードが含まれている印象があります。

  • ・ITが事業に大きく関連している (ポジションが上流か下流かでの違い)
  • ・ビッグデータを活用する、またはできる
  • ・サブスプリクション型、または今後その可能性がある

また、不動産業については高い割合とまではいかないまでも例年一定のIPO実績があります。IPO前においては負債比率が高い傾向にあるビジネスであるため、財務安全性を目的としてのIPOのニーズがあると考えられます。

(2)地域別

地域(本社所在地)別のIPOは以下のグラフの通りです。

図4
図5

IPO企業の本社所在地は東京都が群を抜いて多く、金融、情報、アライアンス先など経済活動の中心が首都東京に集中していることの表れでもあります。

一方で、他地域の傾向について筆者の私見は以下のとおりです。

① 近畿
大阪府を中心に例年我が国全体の1割前後の件数が安定して出ている地域ですが、比較的製造業等のモノづくりの事業の会社が多く、事業内容に地域性が出ている反面、どちらかといえば参入障壁の高い、ベンチャーに馴染まないということもいえます。

② 中部甲信越
トヨタ王国である日本有数の中京経済圏の中心の愛知県において近畿地区と同様1割前後のIPO件数が出ている地域であり、2019年に至っては愛知県を本社とする企業だけで10社IPOが生まれております。一方で事業内容及び各社の設立経過年数を見ると参入障壁が高く、老舗の企業が目立ちます。

なお、甲信越については2019年山梨県で1社のIPOが生まれておりますが、その他の県についてはここ数年実績がなく、各地で有力なベンチャーを生み出す地域別の取組が待たれます。

③ 北海道・九州
両地域は、気候、産業、経済圏も全く異なる、本来一纏めにして扱う地域ではありませんが、IPOについては同様の傾向がみられますので、併せて述べます。

国内のGDPにおける北海道・九州の割合はそれぞれ5%前後と決して日本経済をリードしている地域ではありませんが、IPOについてはそれぞれ毎年堅実に生まれております。共通事項として下記が挙げられます。

  • ・ともに地理的に他国との距離が近く、ビジネスモデルの構築上ターゲット市場では諸外国や国内全体など広範囲を視野に入れて展開している企業が多い
  • ・過去の証券取引所の統合・縮小の動きにおいても札幌と福岡は現在も証券取引所が健在で、独自性を堅持して地域別の取組を行っている⇒各地域の企業はIPOに際して選択肢を多く持つことができ、IPO意向の企業及びIPO支援業務に携わる関係者が集まる仕組みが出来ている
  • ・首都圏、中京圏、近畿圏から地理的に離れており、比較的オリジナリティを持ったベンチャーが育ちやすい
  • ・とりわけ札幌市と福岡市は大都市ではあるものの「支店経済の街」と呼ばれ、東京に本社を置く企業との交流・情報交換が盛ん

今後東京に次いで多くの新興ベンチャーのIPOステージへの進出の期待が持てる地域ともいえます。

④ 東北
2011年の東日本大震災もありましたが、IPOについては意向を有する企業も含めて非常に少ない傾向にあります。ここ数年もIPOはありません。

⑤ 中国・四国
平成23年に愛媛県という限定した地域から同じ年に2社のIPOがあり、また山口県においては、経済規模は小さいものの2019年含め数年に一度IPOが生まれているなど、比較的エクイティファイナンスによる資金調達を通じた企業成長に理解がある地域と考えられます。

経済規模に鑑み大幅なIPO件数の増加は望めないものの、太古の昔から瀬戸内海を通じた海運を通じて産業が発展してきた地域で、現代においても道路・鉄道といった公共のプラットフォームには比較的恵まれていることもあり、この利点を活かした振興のベンチャー勢力が生まれるべく地域的な取組があれば飛躍できる地域と考えられます。

(3)市場別

証券取引所の市場別のIPOは以下のグラフの通りです。

図6
図7

IPOにおいては圧倒的に東京証券取引所マザーズ市場が選ばれています。この理由として東京証券取引所の流通性、株価形成力の高さ、またマザーズ市場に成長可能性があり将来を期待される企業が集まっている事実、さらにはマザーズ市場から1部へのステップアップルートがあるという魅力などが挙げられます。

一方、2020年2月21日付でリリースされていますが、東京証券取引所は今後市場区分の見直しを行い、マザーズ等新興市場については今後「グロース市場」となり、当市場からのステップアップについては厳格化が予想されます。

個人的意見となりますが、北海道、中部甲信越、九州各地においては地元の証券取引所が存在し、かつそれぞれ新興市場が設けられておりますので、まずは地元の証券取引所を活用して、「上場企業」としての力をつけ、その後ステップアップし最終的に東証1部を目指すというロードマップを選択肢として検討することも十分検討に値すると考慮します。

(4)月別

証券取引所の市場別のIPOは以下のグラフの通りです。

図8
図9

各年度共に12月と3月にIPOした企業の割合が高いことが分かります。この理由として、上場審査において対象企業が予算・計画を達成ないし進捗管理できているかということが審査重点項目となっていることから、ある程度の見通しが立った段階で上場承認が下りるということが影響していると考えられます。

IPO準備の有無に関係なく、事業計画・予算については実効性がある内容で立案し、これに基づいて事業を推進していくという計画性を持った経営を行っている企業は、投資家のニーズを充たす評価の高い企業であるということが出来ます。

(5)設立経過年数

各年度でIPOした企業のIPO時点における設立経過年数の分布は以下のグラフの通りです。

図10
図11

2000年より以前は比較的社歴の長い、スケールメリットを持ったBtoCの企業がIPOの主流を占めていましたが、東京証券取引所マザーズ市場の開設後はベンチャー企業にエクイティファイナンスの手段を広く確保したことによって、このメリットを生かしたスピードIPOが多く見受けられるようになりました。設立経過年数を見てもグラフの通り設立後20年以内の会社が多くなっております。

(6) 代表者(CEO)年代

各年度でIPOした企業のIPO時点における代表者(CEO)の年代の分布は以下のグラフの通りです。

図12
図13

IPOにおけるCEOに30代、40代といった若い世代が就任している傾向が顕著になっており、30代から50代という幅で伸ばしてみると、全体の7〜8割を占めているという結果になっております。

主観ではありますが、とりわけバブル世代と呼ばれる40代後半〜50代前半については、上昇志向、購買意欲が他の世代と比較して高いと謂われており、「肉食」的な活動をする傾向にあるのではないでしょうか?

経済環境の変化が著しくなる中、CEOにはスピードを持った経営判断が求められており、かつベンチャー企業においてはCEOや経営幹部のポテンシャルに依存する内容が多いことから、元気で優秀かつリーダーシップを有するCEOがこれからもIPOで登場していただくことを願ってやみません。

(7) 主幹事証券会社別

担当した主幹事証券会社のIPO実績は以下のグラフの通りです。

図14
図15

ここ数年の傾向としてメガバンク系、とりわけみずほ証券とSMBC日興証券の件数増加が目立ちます。この背景として各フィナンシャルグループの主流である都市銀行のネットワークを活用したIPO予備軍の掘り起こしが件数に繋がっていることが大きいと考えられます。

一方で独立系大手の野村證券、大和証券が弱くなったというわけでは決してなく、両証券会社は自社クライアントの的確な指導力により優良な銘柄を市場に送り出しているプロフェッショナルであり、各年度順位の変動はあるものの「量より質」という傾向が見受けられます。また、メガバンク系であっても三菱UFJモルガンスタンレー証券は野村證券、大和証券に類似したクライアントの精鋭傾向がみられます。

主幹事証券会社を選定する際には企業との相性も大きいと考えられ、例えるならば、厳格指導塾タイプ、スケールメリットの予備校タイプ、大手以外の家庭教師型タイプ、の各タイプの中から相性の良いところを選定するというイメージでしょう。

(8) 監査法人別

担当した監査法人のIPO実績は以下のグラフの通りです。

図16
図17

担当した監査法人の件数としては依然としてEY新日本、トーマツ、あずさの三大監査法人が多くを占めているものの、ここ数年大手監査法人が新規のIPO準備の監査契約を縮小してきたことを受けてこの三大監査法人は2019年には減少傾向がみられます。

そのバーターとして、中堅・中小監査法人が少しずつではありますが件数を増やしており、このコロナウィルスの問題が顕在化するまでは中小監査法人においても監査法人の職員数の問題から新規の契約を受けられないといった「監査難民の発生」状況が見受けられました。

監査法人は主幹事証券会社と並んでIPO準備では不可欠の存在であり、直前2事業年度の監査証明をお願いするプレーヤーとなるので、IPO準備中における諸問題について会計面を中心に相談できる相手を選ぶ必要があります。監査法人を選ぶ際には、監査法人内に監査業務はしっかりとこなしつつIPOについて造詣があるという公認会計士が担当してくれる監査法人を選ぶ、ということが望ましいでしょう。

(9) その他

2019年におけるIPO企業の傾向のトピックス3つを解説します。

① 機関設計(監査役等)

  • ・監査役会設置会社 66社(76.7%)
  • ・監査等委員会設置会社 20社(23.3%)

業務執行取締役の職務執行を監査する会社法上の機関については、監査役会とするか監査等委員会とするかは基本的にはどちらでも差し支えはありません。日本においては監査役及び監査役会が監査機関として主流でしたが、監査役会に代わり監査等委員会の設置を検討する企業が増加してきています。

この制度の背景はアメリカにおける機関設計に準じて法制化された国際的な機関設計方法であることから、国際的なビジネスを展開する企業が採用することも考えられます。監査等委員会の場合留意すべきなのは以下の2点です。

  • ・委員会における構成メンバーは全て取締役となるため、監査役と異なり取締役会で議決権を有する(監査役は取締役会の出席が義務付けられるものの、取締役会における議決権は有しません)こととなり、業務執行取締役とすれば好まざる議決権行使が行われる可能性を考慮しなければなりません。
  • ・監査等委員会を設置した場合は、会社法上会計監査人の選任が自動的に義務化されることとなり、上場申請年度を延期するとした場合でも、監査法人により会社法に基づく法定監査を受けなければならないことになります。

それぞれ任期においては、監査役会設置会社の場合は、監査役に就任した方が不適任と考えられるとしてもその方に瑕疵がない、または株主総会で解任されない限り任期は4年となります。監査等委員会の場合は監査等委員となる取締役は任期が業務執行取締役と同様に最長で2年と、改選までの期間が短縮されます。

任期の短さで監査等委員会設置会社を志向する企業もありますが、実は最近では諸外国から日本の監査役については任期が長く、むしろ安定して監査役業務を遂行できることから、コーポレートガバナンス上むしろ良いのではないか、という意見もあります。

従って監査役を既に選任している会社においては特段急いで監査等委員会への移行を考えなくても良いと考えます。

② 役員(取締役及び監査役)における各比率


i.役員(取締役及び監査役)に占める社外役員割合


25%未満 3社(3.5%)
25%以上〜50%未満 58社(67.4%)
50%以上 25社(29.1%)

社外役員比率を高めて取締役会のモニタリング機能を持たせることが主流となっており、社外役員比率が50%以上というIPO企業が3割弱となっております。 IPO準備段階で社外役員比率を高めておく検討が必要です。

ii. 社外役員における国家資格保有者登用

弁護士登用 38社(44.2%)
公認会計士登用 59社(68.6%)

コーポレートガバナンスにおいて有用な意見・指導が出来るとして弁護士・公認会計士を登用している企業が多く見受けられます。

一方で、社外役員に公認会計士が登用されている企業における監査法人と当該社外役員の出身監査法人が同一である企業が22社と少なくなっており、これは監査法人の監査の独立性の観点から望ましくないと国際的に批判を受けていることを受けていることが影響していると推察されます。必ずしも担当監査法人のOBである公認会計士が社外役員であることによって独立性が歪められるとは限りませんが、特に外国の機関投資家は形式的に当該社外役員に不信任を表明することもあり、社外役員の選任に関しては留意する必要があります。

iii. 女性役員比率

女性役員なし 48社(55.8%)
25%以下 32社(37.2%)
25%超 6社(7.0%)

男女共同参画の流れを受けて、女性役員の登用が促されているところですが、IPOにおいては上記の通り女性役員が全くいないという企業が半数以上となっております。性別で意識的に登用しなければならないという必要はありませんが、優秀な女性の役員登用も検討の余地が十分にあります。

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執筆者プロフィール
重見 亘彦(しげみ のぶひこ)
  • 公認会計士・税理士
  • 株式会社サンライトコンサルティング 代表取締役CEO

㈱ミズホメディー(現在東証二部)社外監査役、九州大学大学院非常勤講師、その他IPO準備中の企業の社外役員、顧問、中小監査法人のパートナーを務める。

セミナー実績 名古屋・札幌・福岡各証券取引所のIPOセミナーを中心に講演多数

主な著書(共著)
会計が分かる事典(日本実業出版社)
7ステップで分かる株式上場マニュアル(中央経済社)
関連サイト
株式会社サンライトコンサルティング

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