Section 05 資金管理―資金繰りの把握
売上が伸びていても、資金繰りに行き詰まると倒産してしまうことがあるんだ。
資金は会社の血液に例えられる
資金とは、会社がすぐに支払いに利用できる現金、普通・当座預金などを指します。定期預金、売掛金、また不動産や設備などは現金化までに時間を要するため、資金ではなく資産になります。
資金は会社にとっての血液にも例えられます。その流れが止まってしまうと取引先への支払いや従業員への給与支払いが滞ることになり、最後には倒産にいたります。そこでこの資金の収支を月ごとに管理して過不足を調整し、正常な回転を図るのが「資金繰り」です。
月次の資金繰り表で資金の収支を視覚化する
貸借対照表は期末時点の残高、また損益計算書も一定期間の利益を把握できますが、期中に資金がどのように動いたかまでは分かりません。そこで作成されているのが、月次の「資金繰り表」。これにより資金の収支を視覚化することで、リアルタイムの数値が把握でき、計画的な会社経営が可能になります。
資金繰り表は、次の2つから構成されます。1つは、「資金繰り予定表」。これは過去の実績を元に、一般には3カ月ほど先の資金繰りの状況を予測します。もう1つは、「資金繰り実績表」。これは実際の資金繰りの実績を記録します。経理担当者は資金繰り実績表を参照して実績を把握しながら、実効性のある予測を資金繰り予定表に落とし込んでいきます。
ポイント
- 資金の流れが滞ると倒産にいたりかねない。
- 資金繰りでは、資金の収支を月ごとに管理して正常な回転を図る。
- 資金繰り予定表、資金繰り実績表を作成して実効性のある計画を立てる。
資金繰りのポイント
資金繰りを考える上でポイントとなるのが掛け取引と実際の入出金とのズレ。支払いと入金のタイムラグを埋めるために運転資金の確保が必要となる。
資金繰りが悪化する場合
赤字の継続
最大の要因が赤字経営。事業がうまくいかず、赤字が続いて資金不足となり、売上に連動しない固定費の支払いに支障をきたすようになる。また赤字でも金融機関から融資を受けられれば倒産することはないが、これが絶たれると危険な状態に陥る。
過剰な在庫・設備投資
事業がうまくいっていて毎月利益が出ていても、過剰な在庫や設備投資のせいで資金繰りが悪化する場合もある。仕入れや設備投資は、常に資金繰りを念頭に置いて計画を立てなくてはいけない。
売上の急減
売上の急減は外部的な要因でも起こりうる。やはり資金不足をもたらすため、早急な売上の確保、固定費用の圧縮、また場合によっては資産の一部売却の検討などが必要。
売上の急増
売上の急増にともなって仕入や外注などのコストも拡大するため、取引先からの入金のタイミング次第では資金不足に陥る可能性がある。
資金繰りをよくするためには「売掛金の回収は早く、買掛金の支払いは遅く」という考え方が原則。ただし取引先に負担をかけ過ぎて信頼を失うことのないよう注意しよう。
MEMO
高価な設備の購入、大きな投資案件、大型プロジェクトの成否などは資金繰りの計画を立てる上で重要な予測情報であり、経理担当者はその把握に日頃から努める必要がある。
Section 05-1 資金管理―資金調達
資金の調達には、社内から資金を生み出す方法と、社外から資金を調達する方法があるんだ。
さまざまな資金の調達方法を知る
資金不足が見込まれる場合、何らかの形で資金を調達しなくてはいけません。資金調達にはさまざまな方法がありますが、社内から資金を生み出す方法と社外から調達してくる方法の2つに大きく分けられます。
社内からの資金調達には、主に次の3つの方法があります。1つめは、利益の確保。本業の売上を伸ばして利益を上げ、資金を作ります。2つめは、運転資金の見直し。さまざまな経費などの削減を通じて資金を増やします。そして3つめは、貸借対照表の改善。有価証券や固定資産を売却し、現金化します。
社外からの調達方法は、主に次の2つがあります。1つめは、負債を増やすこと。つまり金融機関からの融資を受ける、また社債を発行するなどの方法です。ただし金利負担が発生するほか、会社の信用度が低いと調達が難しい場合もあります。2つめは、資本を増やすこと。つまり株式を発行する方法です。融資などと違って調達した資金を返済する必要はありませんが、配当の負担や会社が買収されてしまうリスクなどもともないます。
資金不足の原因を資金運用表から把握する
資金繰り表では資金の流れを把握できますが、資金の使い道や不足する理由などは分かりません。それを知るために作成するのが、「資金運用表」。連続した2期分の貸借対照表を比較してその1年間に資金をいくら調達して運用したかを示し、財務体質の改善を図ります。
ポイント
- 社内から資金を生み出す方法は、主に3通りある。
- 社外から資金を調達する方法には、融資や株式の発行などがある。
- 資金運用表で、会社の資金構造の変化を一覧表示する。
資金の調達方法
社内調達
利益の確保:本業で売上を伸ばして利益を増やす。
運転資金の見直し:さまざまな経費などを削減して資金確保につなげる。
貸借対照表の改善:有価証券や固定資産などを現金化する。
社外調達
借入・社債:金融機関からの借入や、社債の発行などを行う。
株式発行:株式または新株予約権を発行する。
資金運用表
貸借対照表を連続する2期について比較を行い、当該年の資金の動きを示す。その年に資金をどこからいくら調達したか、またどこにいくら支出したかを把握できる。
(自令和 年 月 至令和 年 月)
運用 | 調達 | |||
---|---|---|---|---|
運転資金 | 売上債権増加 | 売上債権減少 | ||
仕入債務減少 | 仕入債務増加 | |||
商品在庫増加 | 商品在庫減少 | |||
運転資金余剰① | 運転資金不足② | |||
合計 | 合計 | |||
固定資金 | 法人税等支払 | 税引前当期純利益 | ||
配当金支払 | 減価償却費 | |||
固定資産増加 | 固定資産減少 | |||
固定負債減少 | 固定負債増加 | |||
固定資金余剰③ | 固定資金減少④ | |||
合計 | 合計 | |||
財務資金 | 運転資金不足② | 運転資金余剰① | ||
固定資金不足④ | 固定資金余剰③ | |||
資本の減少 | 増資 | |||
短期借入金減少 | 短期借入金増加 | |||
長期借入金減少 | 長期借入金増加 | |||
現金・預金増加 | 現金・預金減少 | |||
合計 | 合計 |
出典:『キャリアアップを目指す人のための「経理・財務」実務マニュアル 下 新版』
MEMO
通常の株式=普通株式は持分に応じて株主総会の議決権が生じるため、場合によって投資家や投資会社に買収される可能性がある。そのため普通株式の代わりに議決権制限株式などの発行も検討が必要。
Section 05-2 資金管理―借入金の基礎知識
借入金の種類についても知っておこう。
借入金は借入期間が1年を超えるかどうかで分ける
会社が金融機関などから資金調達を行って借入れた資金が、「借入金」。借入金は大きく分けて、「長期借入金」と「短期借入金」の2つに分類されます。長期借入金は、1年超にわたって借りる金銭債務。貸借対照表では「固定負債」の部に計上されます。短期借入金は、返済期限が決算日の翌日から1年を超えない範囲に設定された借入金。貸借対照表では「流動負債」の部に計上されます。
借入金はさまざまに分類される
金融機関からの借入金は、「証書借入」「手形借入」「手形割引」「当座借越」などに分類されます。このうち証書借入は、金融機関と「金銭消費貸借契約書」を交わして融資を受ける方法。借入金という場合、証書借入を指すことが一般的です。
また借入金の元本の返済方法には、返済期限の日に金額を一括で返済する方法と、一定期間ごとに分割して返済する方法があります。分割返済の場合は、さらに元利均等返済と元金均等返済とに分かれます。
総資産のうちどれだけを借入金で賄っているかを示す指標が、借入依存度。業界や業種によって異なるが、おおむね50~60%程度が許容範囲とされ、70%を超えると財務状況の見直しが必要と見なされるんだ。
ポイント
- 借入金は、借入期間によって長期借入金と短期借入金に大別される。
- 借入金は、証書借入、手形借入、手形割引などに分類される。
- 借入金の返済方法にも何種類かある。
借入金の種類
借入金は、その借入期間によって以下の2つに大別される。
長期借入金 | 弁済期限が貸借対照表日の翌日から起算して1年超の融資。借入先は、銀行などの金融機関、関係会社、取引先、個人、役員などが一般的。貸借対照表では、株主・役員・従業員、関連会社からの長期借入金を区分表示する。 |
---|---|
短期借入金 | 返済期限が決算日の翌日から1年を超えない借入金。仕入代金の支払いなど、短期間の資金繰りに使われるのが一般的。返済のために一時的に借り入れることを「つなぎ融資」という。 |
金融機関からの借入金は、さらに以下のように分類される。
証書借入 | 金銭消費貸借契約書を金融機関に差し入れて受ける融資。通常、長期借入金はこの方法が用いられる。 |
---|---|
手形借入 | 借入用手形を金融機関に差し入れて受ける融資。通常、短期借入金はこの方法が用いられる。 |
手形割引 | 取引先が振り出した手形を、金融機関が買い取る形で受ける融資。期日が到来する前の手形を買い取ってもらうので、額面の金額から期日までの利息である割引料が差し引かれる。 |
当座借越 | 設定した融資枠の範囲で自由に融資を受けたり返済する融資。融資枠の設定にあたり、当座貸越契約を銀行と締結する。 |
元利均等返済と元金均等返済
元利均等返済
元金と利息の部分が、毎回の返済額が均等になるよう組み合わされている。利息が減るのにともなって元金部分が増加する。
元金均等返済
利息部分は、借入金の残高の減少にしたがって減っていく。一方で元金部分は、均等に一定額を返済していく。
出典:『キャリアアップを目指す人のための「経理・財務」実務マニュアル 下 新版』
MEMO
契約上は長期借入金でも、返済期限が貸借対照表日の翌日から1年以内に迫っている場合は、1年基準(ワン・イヤー・ルール)にしたがって流動資産である「1年以内返済長期借入金」への振替処理を行う。
Section 05-3 資金管理―外貨建資産・負債の処理
輸出入などにともなう外貨建取引の扱いについても知っておこう。
外貨建ての取引は日本円に換算して計上する
外貨建ての取引は、一定の基準とタイミングで外貨を日本円に換算しなくてはいけません。例えばアメリカに輸出した際のドル建ての売上、またアメリカから輸入した際のドル建ての仕入などを、日本円に換算してから計上します。これが外貨建取引の為替換算。為替換算は、取引、決済、決算の3つのタイミングについて考える必要があります。
取引、決済、決算のタイミングでの為替レートの取り扱い
仕入や売上などの取引が発生した場合、原則として取引を行った時点での為替レートで為替換算を行います。ただし海外取引が膨大な件数に上る商社などの場合、日々の処理が膨大な作業になりかねません。そうした場合は継続して適用することを条件に、前月の月中平均レートや前週金曜日のレートを適用することなども認められています。
貸借対照表に計上される売掛金や買掛金などの、計上から回収までに時間差のある金銭債権債務は決済時と取引時では為替レートが異なります。これらの為替レートの差によって生じる損益は、為替差損益として計上します。
外貨建ての債権や債務は、全て期中に決済されるわけではありません。決算時点で残っている外貨建ての売掛金や買掛金は、期末日のレートで換算替えをします。
ポイント
- 外貨建ての取引は、原則として取引を行った時点のレートで円換算。
- 外貨建ての売掛金などは取引計上後、決済時点との差を為替差損益として計上。
- 決算時点で残っている外貨建ての売掛金などは、期末日のレートで換算替え。
外貨建資産・負債の種類
外国通貨 | 外国の紙幣や硬貨(1ドル札、25セント硬貨など) |
---|---|
外貨預金 | 銀行(日本の銀行を含む)に外国通貨で預けた預金(ドル預金など) |
外貨建有価証券 | 外国通貨で償還、払戻しなどを受ける有価証券(国債、社債、株式など) |
外貨建金銭債権 | 外国通貨で受領する債権(売掛金、貸付金など) |
外貨建金銭債務 | 外国通貨で支払いをする債務(買掛金、借入金など) |
外貨建金銭債権債務の期末換算替えの注意点
為替レートは必ず決算日またはそれ以前のものを使用する。
決算日である3月31日が日曜日の場合
決算日前のうち、最も近いものを使用する。
<例>
3月29日(金) 120円 ○
3月30日(土) なし
3月31日(日) なし
4月4日(月) 119円 ×
たとえ決算日(3月31日(日))により近いもの(4月1日(月)119円)があっても、必ず決算日前のもので最も近いもの(3月29日(金)120円)を使う。
特定の科目の期末における処理
前渡金・前受金
すでに代金の受払い(の一部)が済んでいるものであり、基本的には来期以降に資産や売上に振替られるだけのものであるため、期末換算は不要。
未収収益・未払費用
いずれも期末時点では代金の受払いがないが、当期の収益・費用を計上するために用いられる科目。必ずしも外貨建債権・債務とはいえないが、代金の受払いはこれからのため、準ずるものとして期末換算を行う。
前払費用・前受収益
いずれも期末時点で代金の受払いをしたが、当期の収益・費用から除くために使われる科目。代金の受払いが済んでおり、基本的には来期に収益や費用に振替られるだけのものであるため、期末換算は不要。
MEMO
外国通貨、外貨預金についても、外貨建金銭債権債務と同様に、決算時の処理において期末時点の為替レートで再計算し、換算替えを行う。
Section 05-4 資金管理―為替リスクと為替予約
輸出入取引をしている会社は、為替リスクに備えておく必要があるんだ。
為替リスクは2通りに分けられる
外貨建ての輸出入取引は、為替レートの変動による為替リスクがともないます。為替リスクは大きく分けて、以下の2つのタイミングで発生します。
1つは、予算策定時と取引時の為替のズレ。取引にあたって会社は予算を立てますが、会計上は取引が発生した時点の為替レートで計上します。そのため例えば海外から商品を仕入れる際、予算策定時に比べて取引時に円安になると実際のコストが増大します。もう1つは、取引時と決済時の為替のズレ。取引が発生してから決済までの間に為替レートが変動した分は、「為替差損益」として損益計算書に計上します。
為替リスク軽減のために為替予約を行う
為替リスクを避ける方法の1つに、「為替予約」があります。これは外貨の売買を行う実行日または期間と定めた上で、銀行との間でその際の為替レートをあらかじめ取り決めておく為替売買取引。予約を行った時点で、為替上の取引採算を確定させることができます。
ポイント
- 決済時に生じた取引時との為替のズレは、為替差損益として計上する。
- 為替予約は銀行との間で将来の為替レートを取り決める。
- 為替予約を行うことで、為替リスクを回避できる。
為替リスク・輸入取引の場合
為替予約・輸入取引の場合
上図のように為替予約を行うことで、円安によって1ドル=120円で仕入れることなってしまった商品を、1ドル=100円で仕入れることができるため、予想外のコスト増が避けられるんだ。
MEMO
為替予約の予約の実行日は、確定日渡しと期間渡しの2通りがある。前者は特定日、後者は所定の期間内に予約を実行する。