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CHAPTER5 決算の業務

Section 02 作成する書類―法律と企業会計原則

決算書は法律や企業会計原則に基づいた作成が必要なんだ。

決算で作成する書類は法律によって異なる

会社は一定期間ごとに経営成績、財政状態、キャッシュフローの状況などをまとめた「決算書」を作成します。決算書はいくつかの法律で作成や提出が義務づけられていますが、その内容は法律によって若干異なります。

決算書の作成を義務づけている法律には、「法人税法」などの税法、そして「会社法」「金融商品取引法」があります(下記図「法律で作成が義務づけられている決算書」参照)。例えば、会社法では「計算書類」として貸借対照表など4種類の決算書を作成しますが、金融商品取引法ではそれに加えてキャッシュフロー計算書を作成しなければなりません。

中小企業では税務申告のために決算書を作成することが一般的であるため、税法だけを意識する場合が大半でしょう。しかし会社法上の「大会社」や上場企業は、会社法、金融商品取引法に基づいた処理を遵守することになります。

企業会計原則に基づいた決算書の作成を心がける

決算書はまた「企業会計原則」に基づいて作成されることが大切。企業会計原則とは、一般に公正妥当とされる企業会計の慣行を要約した原則です。

企業会計原則は、「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」、それと「企業会計原則注解」から構成されています。このうち特に重要とされる一般原則について、下記図「企業会計原則・一般原則」の7つの原則を日々の経理処理から常に心がけなくてはいけません。

ポイント

  1. 決算書の作成を義務づけている法律には、税法、会社法、金融商品取引法がある。
  2. 作成が義務づけられている決算書の種類は、法律によって異なる。
  3. 決算書は、企業会計原則に基づいて作成する必要がある。

法律で作成が義務づけられている決算書

法人税法

法人税法では、税務申告書の提出時に次の4種類の書類の添付を義務づけている。

対象 提出先 作成する書類
法人 税務署 貸借対照表 / 損益計算書 / 勘定科目内訳明細書 / 株主資本等変動計算書
会社法

会社法は、次の4種類からなる「計算書類」及び2種類の書類の作成・株主総会への提出・10年間の保存を義務づけている。さらに大会社は、会計監査人による計算書類等の会計監査も行わなくてはいけない。

対象 提出先 作成する書類
株式会社・合同会社 株主総会など 計算書類 その他
貸借対照表 / 損益計算書 / 株主資本等変動計算書 / 個別注記表 事業報告 / 附属明細書
金融商品取引法

金融商品取引法は、貸借対照表などを含む「有価証券報告書」の作成と財務局及び取引所への提出、また会計監査人による会計監査を義務づけている。

対象 提出先 作成する書類
上場企業など 財務局・取引所 貸借対照表 / 損益計算書 / キャッシュフロー計算書 / 株主資本等変動計算書 / 附属明細表

企業会計原則・一般原則

①真実性の原則 企業の財政状態及び経営成績について真実な報告を提供しなくてはいけない。
②正規の簿記の原則 すべての取引について正規の簿記の原則にしたがい、正確な会計帳簿を作成しなくてはいけない。
③資本・利益区別の原則 資本取引と損益取引を明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。
④明瞭性の原則 決算書によって利害関係者に必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなくてはいけない。
⑤継続性の原則 処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりに変更してはならない。
⑥保守主義の原則 企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて健全な会計処理をしなくてはいけない。
⑦単一性の原則 さまざまな目的のために異なる形式の決算書を作成する場合、それらは信頼できる会計帳簿に基づいて作成しなければならない。

MEMO

会社法上の「大会社」とは、最終事業年度に係る貸借対照表の資本金が5億円以上、または、最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上である株式会社を指す。

Section 02-1 作成する書類―キャッシュフロー計算書の基本

貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つを財務三表と呼ぶんだ。

キャッシュフロー計算書で会社の資金の流れを読み取る

金融商品取引法で作成が義務づけられている書類のうち、貸借対照表、損益計算書とともに「財務三表」をなすのが「キャッシュフロー計算書」です。決算日時点での資産・負債・純資産を示す貸借対照表では会社の資金調達とその運用の状況を、会計期間の収益と費用を示す損益計算書では会社が利益を生み出す要因を、そしてキャッシュフロー計算書では会社の資金の流れを読み取ることで、会社の経営状況判断などに役立てる仕組みです。

キャッシュフロー計算書は、会社のなかでどのように資金=お金が動いているか、つまりキャッシュの流れを把握するための計算書。したがって土地や建物などの資産は含まず、キャッシュ=現預金、また現金と同等とされるコマーシャルペーパーや公社債投資信託などの増減のみが示されます。「すぐに使える資金」がどんな要因で増減したかを表す、と考えればいいでしょう。

「営業活動によるキャッシュフロー」などの3要素からなる

キャッシュフロー計算書を構成するのは、「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3要素。それぞれ「本業で得た資金の増減」「設備投資などによる資金の増減」「借入などによる資金の増減」を示す内容になっています。

ポイント

  1. キャッシュフロー計算書では、会社の資金=キャッシュの流れを把握する。
  2. キャッシュフロー計算書では、現預金及び「現金同等物」の増減を表す。
  3. キャッシュフロー計算書は、営業・投資・財務の3要素で構成される。

会社のキャッシュフローのイメージ

「財務活動」で調達した資金で設備投資などの「投資活動」を行い、それによる本業の「営業活動」で会社のキャッシュが増える。3つのキャッシュフローは、それぞれこのように関わり合っている。

会社のキャッシュフローのイメージ
キャッシュフロー計算書の構成要素
営業活動によるキャッシュフロー
  • 会社の本業(事業+投融資)から生じた現預金の流れ
  • 運転資本の増減や減価償却費の足し戻しなど、実際の現預金の流れに基づいて計算する
投資活動によるキャッシュフロー
  • 新規事業のための設備投資、株式投資、M&Aなど、企業が将来に向けて投資している現預金の流れ
  • 取引の結果だけでなく、そのプロセスも表示される
財務活動によるキャッシュフロー
  • 短期・長期借入、社債の発行、増資など資金調達の流れと、支払期限の到来した借入金の返済、配当金の支払い、自社株購入など返済・分配の流れ
  • BS、PLでは把握できない、期中の調達・返済の資金の流れが表示される

出典:経済産業省「地域金融人材育成プログラムテキスト」

キャッシュフロー計算書と貸借対照表の関係

キャッシュフロー計算書のキャッシュ 貸借対照表の流動資産
現金 現金預金 現金
当座預金
普通預金
現金同等物 譲渡性預金(CD)
定期預金(3カ月以内)
そのほか
有価証券 公社債投資信託
コマーシャルペーパー(CP)
売戻し条件付現先
そのほか

出典:名城大学 大西ゼミ 2011年「キャッシュフロー EVA 分析」より

MEMO

キャッシュフロー計算書には、営業活動によるキャッシュフローを主な取引ごとに総額表示する直接法、当期純利益から逆算する間接法の2通りがある。直接法は手間がかかるため、間接法のほうが一般的。

営業活動によるキャッシュフローを見るポイント

事業の健全性の分析

営業活動によるCFはプラスか
事業リスクの大きい事業であれば、一時的にマイナスになることはあるが、マイナスの状態が何年も続いている場合、経営上、問題を抱えていることを示している。

事業の収益性、財務力、株主への還元の分析

BS、PLにおける各種指標とキャッシュフローの比率は業界平均と比べてどうか
売上等の収益に対して、減価償却費等や運転資本増加分等の非キャッシュ項目を織り込んだキャッシュフローの指標を用いることにより、より実態に即した企業の姿を見ることができる。

投資活動によるキャッシュフローを見るポイント

投資内容の分析

固定資産、有価証券への投資の割合とボリュームは業界平均と比べてどうか
投資活動によるCFには、(既存事業維持のための)設備投資、M&A(合併、買収)、新規事業投資、投融資投資などが含まれており、固定資産と有価証券への投資の割合、ボリュームを業界平均と比べることにより、大まかに企業の投資の方向性がわかる。

投資意欲・安全性の分析

営業活動によるCFを超える投資をしていないか
投資活動によるCFが営業活動によるCFを上回っている場合、1新興企業で成長局面にある、2既存活動を維持するための最低限のCFを営業CFで賄えていない、などが考えられる。特に、2の場合には短期的には借入れによる調達などで対応できるが、長期的にこの状況が続くと、既存事業の維持が危うくなり、倒産の危機に陥る。

財務活動によるキャッシュフローを見るポイント

財務状況の分析

財務活動によるCFはプラスか、マイナスか
財務活動によるCFがプラスの場合、必要な資金が不足しており、新たに調達したことを示している。
マイナスの場合は、営業活動によるCFで投資活動によるCFを賄え、さらに有利子負債償却等を行っていることを示している。

調達内容の分析

資金調達は何で行っているか
長期借入、短期借入、社債、株式発行のどれにウエイトを置いて資金調達を行っているかを見ることで、企業の借入限度までの余裕度や、短期借入に頼らざるを得ない現状などがわかる。

財務政策の分析

財務活動によるCFがマイナスの場合、何にCFを使用しているのか
財務活動によるCFの使い途を見ることで、有利子負債圧縮、自社株買い、配当など、自社の経営を安定化し、株主重視経営を行っているかどうかがわかる。

出典:経済産業省「地域金融人材育成プログラムテキスト」

キャッシュフロー計算書

令和XX年3月期(令和XX年4月1日から令和XX年3月31日まで ※単位:100万円)

表「キャッシュフロー計算書1」
表「キャッシュフロー計算書2」
表「キャッシュフロー計算書3」
表「キャッシュフロー計算書4」

Section 02-2 作成する書類―キャッシュフロー計算書の見方

キャッシュフロー計算書は、3つの組み合わせでいろんなことが分かるんだ。

3つのキャッシュフローのプラスとマイナスの組み合わせを見る

前項で見た「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3つは、プラスとマイナスの組み合わせでその会社の大まかな経営状態をつかむことができます。

例えば3つともプラスなのがベストではと思われがちですが、これは過剰資産を売却して新規事業を模索している成熟企業でよく見られるパターン。安定成長している会社は、営業活動によるキャッシュフローがプラス、後の2つがマイナスになるのが一般的です。本業で利益を上げつつ投資活動が積極的に行われ、借入金も順調に返済していることが示されているからです。

フリーキャッシュフローは新規投資や配当還元の元手となる

キャッシュフローの指標には、もう1つ「フリーキャッシュフロー」(FCF: Free cash flow)もあります。これは、会社が本業で稼いだお金から事業を維持していくのに必要な支出を差し引いたキャッシュフロー。営業活動によるキャッシュフローから投資活動によるキャッシュフローを差し引いた額、つまり「最終的に手元に残ったお金」を表します。

フリーキャッシュフローは「自由で余裕のあるお金」であり、有望な事業への新規投資、株主への配当還元の元手となります。したがってフリーキャッシュフローが大きいほど、経営の自由度が高まる仕組みです。

ポイント

  1. 3つのキャッシュフローで会社の経営状態がつかめる。
  2. 安定成長の会社は本業で儲けて、投資を積極的に行っている。
  3. フリーキャッシュフローが大きいほど経営の自由度が高い。

キャッシュフローの組み合わせ

キャッシュフロー計算書を構成する「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」がそれぞれプラスかマイナスかによって、会社の経営状況をうかがい知ることができる。3つの組み合わせは、以下のように分類すると分かりやすい。

営業活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフロー
①安定企業型

営業CF + 投資CF − 財務CF −

本業で利益が出ており、積極的な投資が行われている。財務面は順調に借入金を返済中、または借入金がない状態。加えてフリーキャッシュフローがプラスなら理想的。

②積極投資型

営業CF + 投資CF − 財務CF +

本業で利益が出ており、積極的な投資が行われている。財務面は融資を受けている状態。借入金で旺盛な投資を展開する成長企業によく見られる。ただし投資が短期的な場合はフリーキャッシュフローに注意。

③リストラ型

営業CF + 投資CF + 財務CF −

本業で利益が出ている一方、投資面では資産の整理・処分を行っている。財務面は借入金を返済中。財政難に陥って経営立て直しを行っている会社によく見られるパターン。本業は上向きなので回復基調といえる。

④新規模索型

営業CF + 投資CF + 財務CF +

本業で利益が出ている一方、投資面では資産の整理・処分を行っている。財務面は融資を受けている状態。成熟した会社が過剰な資産を売却しつつ、新規事業を模索していることがうかがえる。

⑤攻めの投資型

営業CF − 投資CF − 財務CF +

本業で利益が出ていないにもかかわらず、借入を行って積極的に投資をしている状態。本業が軌道に乗れば、成長が見込めるパターン。また設立当初の会社もこのような組み合わせになりがち。

⑥借入金返済型

営業CF − 投資CF + 財務CF −

本業で利益が出ておらず、投資面では資産を整理・処分している。財務面では費用を工面しながら借入金を返済中。会社存続がいまのがんばりにかかっている状態といえる。

⑦立て直し急務型

営業CF − 投資CF + 財務CF +

本業で利益が出ておらず、投資面では資産を整理・処分している。財務面では融資を受けている状態。借入金が資産を上回っている状況であり、早急に抜本的な改革が必要。

MEMO

事業拡大のため積極的な投資をしているベンチャー企業などは、フリーキャッシュフローが一時的にマイナスとなることもある。こうした投資が将来の収益につながる可能性は十分にあり、中長期の分析が必要。

Section 02-3 作成する書類―そのほかの決算書類

決算では財務三表以外にも作成が義務づけられている書類があるんだ。

株主資本等変動計算書は会社の利益の使い道を示す

決算書は、財務三表以外にもさまざまな書類が含まれます。その1つが「株主資本等変動計算書」。これは全ての会社に作成が義務づけられています。

株主資本等変動計算書は、株主資本の変動の様子を一覧にした書類。「貸借対照表」の純資産の部と同じ区分で、期首純資産の部の金額、当期の変動事由及び変動金額、期末純資産の部の金額を記載して、純資産の部の移動を明らかにします。当期変動額は変動事由ごとにプラスとマイナスが総額で示され、前期末±当期変動額と当期末残高が一致します。利益剰余金の蓄積、また株主への配当など、株主資本等変動計算書によって会社の利益の使い道を見ることができます。

附属明細書で計算書類や事業報告の内容を補足する

会社法では「附属明細書」の作成も義務づけられています。附属明細書には「計算書類」(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書・個別注記表)の内容を補足するものと、同じく会社法で作成が義務づけられている「事業報告」の内容を補足するものの2種類があります。

このうち計算書類に関する附属明細書には、「有形固定資産及び無形固定資産の明細」「引当金の明細」「販売費及び一般管理費の明細」といった項目があり、それぞれ種類、数量、当期の増減額などについて詳しく記載します。

ポイント

  1. 株主資本等変動計算書は、全ての会社に作成が義務づけられている。
  2. 計算書類及び事業報告の補足として附属明細書を作成する。
  3. 計算書類に関する附属明細書には、「引当金の明細」などを記載する

株主資本等変動計算書

表「株主資本等変動計算書」

各項目ごとに、①前期末残高、②当期変動額、③当期末残高を記載。①前期末残高は、前期末における貸借対照表の純資産の部の各項目と金額が一致する。②当期変動額は、変動した事由ごとに変動額を記載。③当期末残高は、貸借対照表の純資産の部の各項目と金額が一致する。

出典:「納税協会ニュース」(平成18年7月付)

附属明細書

有形固定資産及び無形固定資産の明細(取得原価による記載)
区分 資産の
種類
期首残高 当期
増加額
当期
減少額
期末残高 期末減価償却
累計額または
償却累計額
当期
償却額
差引期末
帳簿価額
有形固定
資産
無形固定
資産
引当金の明細(当期減少額の欄を区分する記載)
区分 期首残高 当期増加額 当期減少額 期末残高
目的使用 その他

出典:日本公認会計士協会「計算書類に係る附属明細書のひな型」

そのほかにも補足すべき項目がある場合には適宜それぞれの明細を作成するんだ。

MEMO

貸借対照表がBalance Sheet: B/S、損益計算書がProfit and Loss Statement: P/Lと呼ばれるのに対し、株主資本等変動計算書はStatements of Shareholders’ Equity: S/Sとも呼ばれる。

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