Section 08 引当金の計上
決算では、将来の費用・損失に備えて計上する引当金の処理も必要なんだ。
引当金の計上で適正な期間損益が把握できる
決算にあたっては「引当金」の計上も行います。例えば今後支払う賞与や退職金、あるいは回収の見込みがない売掛金は、いずれも将来においてその費用や損失が発生することがあらかじめ分かっています。
そこでこれを事前に当期の費用に繰り入れて準備しておく見積金額、また貸借対照表に計上されるその勘定科目が、引当金。引当金を設定して一定期間の費用として平準化することで、適正な期間損益が把握できるようになります。ただし引当金として計上する費用や損失は、企業会計原則が定める下記図「引当金の要件と種類」の要件を満たしていなくてはいけません。
貸倒れに備える引当金を貸倒引当金という
「貸倒れ」とは、取引先の倒産などで売掛金や貸付金などの債権が回収できず損失となること。事前にその損失を見積もっておくのが「貸倒引当金」です。
この貸倒引当金のように、将来の損失に備えて資産から控除しておく引当金を「評価性引当金」といい、貸借対照表では資産の部(資産のマイナス)に計上します。それに対して賞与、退職給付、製品保証など、翌期以降の費用の発生を見越して計上する引当金が、「負債性引当金」。これは、貸借対照表の負債の部に計上します。負債性引当金はまた、債務性がある引当金、債務性がない引当金にも分類されます。
ポイント
- 将来発生する費用や損失をあらかじめ計上するのが引当金。
- 引当金を計上するためには、企業会計原則が定める要件を満たす必要がある。
- 引当金には、評価性引当金と負債性引当金がある。
引当金の要件と種類
引当金として認められる要件
企業会計原則は引当金の要件について、以下のように定めている。
- 将来の特定の費用又は損失である
- 発生が当期以前の事象に起因する
- 発生の可能性が高い
- 金額を合理的に見積ることができる
この要件を全て満たす場合、引当金繰入額を当期の費用または損失として計上できる。発生の可能性の低い偶発的な要因による費用または損失については、引当金を計上することができない。
主な引当金の種類
製品保証引当金 / 売上割戻引当金 / 返品調整引当金 / 賞与引当金 / 工事補償引当金 / 退職給付引当金 / 修繕引当金 / 特別修繕引当金 / 債務保証損失引当金 / 損害補償損失引当金 / 貸倒引当金
評価性引当金と負債性引当金
評価性引当金
債権の回収不能などの将来の損失に備えて資産から控除される引当金。
貸倒引当金 / 投資損失引当金など
負債性引当金
将来の支出に備えて計上する引当金。
賞与引当金 / 退職給付引当金 / 製品保証引当金など
▶︎債務性がある負債性引当金
賞与引当金 / 退職給付引当金 / 製品保証引当金 / 売上割戻引当金 / 返品調整引当金 / 工事補償引当金 / 役員賞与引当金 / 工事損失引当金など
▶︎債務性がない負債性引当金
修繕引当金 / 債務保証損失引当金 / 損害補償損失引当金
MEMO
引当金の会計処理には、期末時点の残高と計算し直した額との差額を計上または戻し入れする差額補充法、期末の残高を全て戻し入れた上で新たに必要な引当額を計上する洗替法の2通りがある。
Section 08-1 貸倒損失と貸倒引当金
貸倒損失、貸倒引当金は高度な知識が求められる分野だが、経理担当者として基本をまず押さえておこう。
回収不能になった債権は貸倒損失として計上する
取引先が倒産、また財政状態が悪化して売掛金や貸付金が焦げつく、つまり回収不能=貸倒れとなる事態も起こり得ます。貸倒れとなった債権の金額は、貸借対照表から控除し、同額を損失として計上します。これを「貸倒損失」といいます。金銭債権としての資産価値が消滅するので、損金に算入することが可能です。
ただしどんな場合でも損金算入できるわけではありません。無条件に損金算入を認めると課税が不公平になってしまうことから、民事再生法による再生計画の決定など、客観的に見て回収不能の状態であることが要件とされます。具体的には下記図の3つのケースに限り、貸倒損失を損金算入することが可能。実務上、判断の難しいケースもあるので、税務トラブルにならないよう留意しましょう。
将来の貸倒れに備えて貸倒引当金が設定される
「引当金」とは、将来発生する特定の費用や損失に備えるためにあらかじめ当期の費用として繰り入れて準備しておく見積もり金額のこと。将来の金銭債権が回収不能になる可能性に備えて設定しておく引当金が、「貸倒引当金」です。貸倒引当金の見積額は、対象の金銭債権を①一般債権、②貸倒懸念債権(債務弁済に重大な問題がある債権)、③破産更生債権等(法的に経営破綻している、または法的には破綻していないが実質的に債務者が経営破綻している債権)に分け、それぞれ所定の方法で算定します。
ポイント
- 貸倒れとなった債権額は貸借対照表から控除、損失を計上する。
- 倒損失を損金算入できるケースは3つに限られている。
- 将来の貸倒れに備えた引当金を当期の費用として繰り入れる。
貸倒損失の計上が認められる3つのケース
区分 | 事例 | 損金算入が可能な時期 | 損金に算入される額 |
---|---|---|---|
法律上の貸倒れ | 更生計画・再生計画認可の決定、特例清算に係る協定の認可の決定などによって債権切り捨てがあった場合、また債権者集会の協議決定などで合理的な基準に基づく債権切り捨てがあった場合など | その事実の発生した日が属する事業年度 法的に債権が消滅した切捨部分の金額 | 法的に債権が消滅した切捨部分の金額 |
事実上の貸倒れ | 債務者の支払い能力=資産状況などを勘案し、全額が回収不能であることが明らかになった場合 | 回収不能だと明らかになった事業年度 | 全額 |
形式上の貸倒れ | 取引が停止してから売掛債権について一定期間弁済がない、または回収費用が債権の額を超えるために貸倒れとする場合 | 原則として取引停止から1年以上経過し、督促にもかかわらず弁済がない時 | 売掛債権額から備忘価額(1円)を差し引いた額 |
貸倒引当金の見積額の算定
区分 | 定義 | 見積額の算定方法 |
---|---|---|
一般債権 | 通常の取引通りに入金されているなど、経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権 | 貸倒実績率法 |
貸倒懸念債権 | 経営破綻の状態には至らないものの、債務の弁済に重大な問題が生じている、またはその可能性が高い債務者に対する債権 | 財務内容評価法(債権額から担保や保証による回収見込額を減額)またはキャッシュフロー見積法(債権の元本回収及び利息の受取りに関するキャッシュフローを勘案) |
破産更生債権等 | 裁判上の手続きに入っているなど、実質的に経営破たん状態に陥っている債務者に対する債権 | 財務内容評価法 |
MEMO
貸倒引当金が確実に回収できる額を評価することから「評価性引当金」と呼ばれるのに対し、退職給付引当金などは「負債性引当金」として区別される。
貸倒引当金の対象となる債権の例
一括評価金銭債権に該当する金銭債権
「一括評価金銭債権」とは、売掛金、貸付金やこれらに準ずる金銭債権のこと。以下にあげた金銭債権が該当し、貸倒引当金の対象となる。なお、債務超過や更生計画中など、問題のある会社の債権である「個別評価金銭債権」は除く。
①売掛金、貸付金
②未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃などまたは貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
③他人のために立替払をした場合の立替金(下記「一括評価金銭債権に該当しない金銭債権」の④に該当するものを除く)
④未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
⑤保証債務を履行した場合の求償権
⑥売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形
⑦売掛金、貸付金などの債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの
⑧売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの
実際に貸倒引当金に該当するかは、これらの条件にあてはまるかを確認するのです。
一括評価金銭債権に該当しない金銭債権
以下の金銭債権は通常であれば貸倒引当金の対象とはならないが、「個別評価金銭債権」として貸倒引当金が計上されることもある。
①預貯金及びその未収利子、公社債の未収利子、未収配当他、これらに類する債権
②保証金、敷金、預け金他、これらに類する債権
③手付金、前渡金などのように資産の取得の代価または費用の支出に充てるものとして支出した金額
④前払給料、概算払旅費、前渡交際費などのように将来精算される費用の前払として、一時的に仮払金、立替金などとして経理されている金額
⑤金融機関における他店為替貸借の決済取引にともなう未決済為替貸勘定の金額
⑥証券会社または証券金融会社に対し、借株の担保として差し入れた信用取引に係る株式の売却代金に相当する金額
⑦雇用保険法、雇用対策法、障害者の雇用の促進などに関する法律などの法令の規定に基づき交付を受ける給付金などの未収金
⑧仕入割戻しの未収金
⑨保険会社における代理店貸勘定の金額
⑩法人税法第61条の5第1項(デリバティブ取引に係る利益相当額の益金算入など)に規定する未決済デリバティブ取引に係る差金勘定などの金額
⑪法人が特定目的会社(SPC)を用いて売掛債権などの証券化を行った場合、その特定目的会社の発行する証券などのうちその法人が保有することとなったもの
出典:国税庁「No.5500 一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の対象となる金銭債権の範囲」