Section 19 報酬の支払いの流れをつかもう
個人事業主に仕事を依頼した際の報酬・料金は、源泉徴収をした上で支払わなくてはいけないんだ。
報酬の支払いの概要
[対象者]業務を依頼した個人事業主(弁護士、税理士、社会保険労務士、デザイナー、カメラマン、翻訳者、通訳など)
[作成する書類]報酬・料金等の所得税徴収高計算書(納付書)
[確認する書類]該当する個人との契約書、請求書、領収書など
[作業の時期]支払いの締め日から支払日の翌月10日の所得税納付日まで
報酬の支払いスケジュール
④報酬・料金等の所得税徴収高計算書(納付書)の作成
前月に支払った報酬について、支払額、人数などを集計して作成
●支払月の翌月8日まで
→CHAPTER2 Section19-2「報酬の支払い―源泉徴収した所得税の納付」
弁護士、税理士、またフリーのカメラマンやデザイナーなどの個人事業主に仕事を依頼した場合、会社はその報酬・料金について「源泉徴収」を行います。源泉徴収とは、給与や報酬・料金などを支払う会社がその分の所得税を徴収し、代わりに納付する制度のこと。会社は相手への支払いから所得税分を差し引いておき、所定の日までに税務署へ納付しなくてはいけません。こうした制度を通じて、税金の徴収漏れを防ぐ効果が期待されています。
経理担当者として注意しておきたいのは、支払う側=会社が所得税を差し引いて税務署に納める義務を負っていること。徴収・納付漏れが判明した場合、税務署から請求されるのは会社です。また源泉徴収する税額は、下記「源泉徴収の対象」やCHAPTER2 Section19-1「報酬の支払い―源泉徴収額の計算」で見るように支払う相手や報酬・料金の内容、金額によって異なってくるため、経理担当者はそれらを全て確認した上で処理しなくてはいけません。
さらに会社は源泉徴収にともなって翌年1月末までに「支払調書」を税務署に提出し、報酬・料金の支払額と納付した所得税額を報告する決まり。支払調書はまた報酬・料金を支払った相手に送付することも一般的です。
MEMO
所得税の徴収・納付の漏れが判明した場合、会社は税務署へ納付を行った上で個人事業主に所得税分の返金を求める必要がある。
源泉徴収の仕組み
源泉徴収
報酬を支払う側が所得税・復興特別所得税を差し引いた金額を個人事業主に支払い、差し引いた所得税などを本人に代わって税務署へ納税することを指す。
MEMO
海外居住者や外国法人への支払いがある場合は源泉徴収などの手続きが複雑になるため、顧問税理士や税務署に処理を確認しておくのが望ましい。
源泉徴収の対象
源泉徴収が必要な報酬・料金などの範囲は、所得税法において定められている。なお、所得税法で列挙されていない報酬・料金については対象外。
個人への報酬・料金などが源泉徴収の対象となる範囲
①原稿料や講演料など
ただし懸賞応募作品などの入選者に支払う賞金などは、1人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば源泉徴収は不要。
②弁護士、公認会計士、司法書士など特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
③社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
④プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金。
⑤映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才など)、テレビ放送などの出演などの報酬・料金や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
⑥ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待などを行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
⑦プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金。
⑧広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
注意事項
①支払いを受ける側が団体で個人か法人か明らかでない場合、法人税の納付義務や日常の活動状況などから独立した団体であることを明らかにした上で法人として扱う。
②謝礼、研究費、取材費、車代などの名目で支払われていても、実態が報酬・料金と同じであれば源泉徴収の対象。ただし会社が交通機関などへ通常必要な範囲の交通費や宿泊費を支払った場合は、報酬・料金に含めなくてもかまわない。
③物品その他の経済的利益で支払う場合も報酬・料金に含まれる。
④報酬・料金の額に消費税が含まれている場合、原則としてその額を含めた金額が源泉徴収の対象。ただし請求書や領収書で消費税額が明確に区分されている場合、報酬・料金の額のみを源泉徴収の対象としてかまわない。
出典:国税庁ウェブサイト「No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは」
支払調書の作成・提出
個人に対する報酬・料金の支払いに関する源泉徴収から所得税の納付までの作業は、支払いの都度発生する業務ですが、年末には「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成する作業があります。
支払調書は支払先ごとに作成し、支払先の氏名、住所などのほか、1月から12月までの報酬・料金の支払額と納税額を記載します。作成した支払調書は税務署に提出するほか、報酬・料金を支払った相手にも送付することが一般的です。
支払調書の税務署への提出は翌年の1月末が期限で、その際には支払調書の合計額を記載した「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」も一緒に提出します。なお、その名称の通りこの書類には給与・賞与、退職金などの源泉徴収の金額も一緒に記載します。
Section 19-1 報酬の支払い―源泉徴収額の計算
源泉徴収の計算方法は支払う相手や額で異なるので、誤りなく処理するよう気をつけよう。
源泉徴収額は所定の税率を元に計算する
個人からの請求書を受け取った経理担当者は、まずそれが源泉徴収の対象となる報酬かどうか確認します。請求書にはあらかじめ源泉徴収額が記載されていることもありますが、経理担当者はその場合も改めて金額が正しいかどうか確認する習慣をつけましょう。
源泉徴収の額の計算方法は、下記図「基本の計算」の通り。多くの場合、報酬額が100万円以下なら10.21%をかけることで求められます。報酬額が100万円超の場合は、まず100万円に10.21%をかけた額に、100万円を超える分に20.42%をかけた額を加えます。なお複数回にわたる支払いの合計が100万円を超えていても、各1回あたりがそれ以下なら100万円以下の報酬・料金として扱います。ただし相手が司法書士、土地家屋調査士、海事代理士の場合は、1回の額から1万円を差し引いてから税率を乗じる処理が必要です。
消費税は原則として税込みの報酬額で計算する
消費税については、原則として税込みの報酬額に対して所得税を計算します。ただし契約書、請求書、領収書などで本体価格と消費税が明確に区分されている場合は、税抜きの報酬額で所得税を計算してかまいません。
またあらかじめ源泉徴収後の手取り額で契約を交わすこともあります。その場合、所得税を差し引く前の報酬額は、下記図「基本の計算」の計算式で求めます。
ポイント
- 個人から請求書を受け取ったら、まず源泉徴収の対象となる報酬かどうか確認。
- 報酬額が100万円を超える分は別の税率を適用することが多い。
- 消費税は税込みの報酬額で所得税を計算するのが原則。
基本の計算
計算例:翻訳家に対する報酬が10万円の場合
※報酬の金額に税率(10.21%)をかけて源泉徴収額を求める。
100,000円 x 10.21% = 10,210円
計算例:司法書士に対する報酬が50万円の場合
※相手が司法書士の場合は1回の報酬額から1万円を引いた額に税率をかける(円未満の端数は切り捨て)。
(500,000円 - 10,000円)x 10.21% = 50,029円
計算例:弁護士に対する報酬が120万円の場合
※100万円を超える分に対して20.42%をかける。
1,000,000円 x 10.21% + (1,200,000円 - 1,000,000円)x 20.42% = 142,940円
計算例:源泉徴収後の手取り額で契約する場合(手取額からの割戻し計算)
※報酬額が100万円以下で単純に10.21%で所得税を計算する場合。
手取額 ÷ 89.79%(=1-10.21%) - 手取額 = 所得税額
延滞税の計算
定められた期日までに税金を納付しなかった場合、延滞税及び不納付加算税というペナルティが課される。延滞税の計算方法は、以下の通り。
納期限の翌日から2カ月を経過する日まで
→その年度の法定税率(原則年7.3%)、または特例基準割合+1%のいずれか低いほうを乗じて算出。
納期限の翌日から2カ月を経過した日以後
→原則年14.6%、または特例基準割合+7.3%のいずれか低いほうを乗じて算出。
※特例基準割合は、前々年9月から前年8月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利に年1%分を加算した割合。
MEMO
報酬・料金などの支払いを受ける側が法人の場合、源泉徴収の対象となる範囲は「馬主である法人に支払う競馬の賞金」に限られている。
Section 19-2 報酬の支払い―源泉徴収した所得税の納付
源泉徴収した所得税の納付手続きは、原則として毎月行わなくてはいけない。期日を過ぎるとペナルティが発生するんだ。
毎月支払いの翌月10日までに税務署へ納める
源泉徴収した所得税は、支払いの翌月10日までに税務署へ納めます。給与を払う従業員が常時10人未満の小さな会社については経理業務を簡素化するために年2回の納付とする特例もありますが、それ以外の会社は毎月手続きを行わなくてはいけません。
報酬を支払う相手が士業(弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、中小企業診断士、司法書士、土地家屋調査士など)の場合、「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)」を使って手続きを行います。またそれ以外の報酬は、「報酬・料金等の所得税徴収高計算書(納付書)」を使います。
納付が遅れるとペナルティと延滞税が発生する
税務署への納付が所定の期日に遅れると、ペナルティ(不納付加算税)が課されます。その計算方法は以下の通りです。ただしペナルティの額が5000円未満であれば、切り捨てになります。
- 税務署からの連絡前に自主的に納付した→納税額の5%
- 税務署からの連絡後に納付した→納税額の10%
これに加えて、納付までの日数に応じた延滞税も自動的に発生します。延滞税は、「完納すべき本税」に延滞税の税率と延滞期間をかけた額を「365日」で割って求めます。
ポイント
- 小規模な会社を除き、源泉徴収した所得税の納付は毎月行う。
- 納付が所定の期日に遅れると、ペナルティが課される。
- 納付までの日数に応じた延滞税も課されるので、期限に注意する。
給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書(納付書)
報酬・料金等の所得税徴収高計算書(納付書)
MEMO
広告宣伝が目的の賞金・賞品も、相手が法人でなく個人の場合は一定額を超えると源泉徴収の対象となる。賞品は時価換算または「通常の小売販売価格 × 60%」で計算する。