Section 18 月次決算の流れをつかもう
月次決算は法的な義務はないが、リアルタイムでの経営判断には欠かせない作業なんだ。
月次決算の概要
[作業]現預金の確認、棚卸、決算整理、月次決算書の作成、月次決算報告
[作成する書類]損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、資金繰り表、そのほか各種分析資料
[確認する書類]現預金出納帳、売掛金残高一覧表、在庫管理表、棚卸表など
月次決算スケジュールの一例(スケジュールは、企業によって異なる)
会計年度ごとに行う「年次決算」は会社法、金融商品取引法、法人税法などで実施が義務づけられており、株主などに情報提供する、法人税などの計算に用いる、などの目的を持っています。それに対して月ごとに行う「月次決算」は、法律で義務づけられているわけではありません。
しかし会社の実績や財務状況、前年同月と比べた推移などといった経営状況を迅速に把握することは、リアルタイムでの経営判断において不可欠。そのため経営方針や戦略の立案・修正の材料を提供する目的で、多くの会社が月次決算を導入しています。
経理担当者にとっては、決算整理などを毎月行っておくことで四半期決算や年次決算での手間が軽減されます。また経理処理のミスも早期に発見でき、決算の高い精度が維持できるといったメリットもあります。
月次決算が遅滞してしまうのは望ましい状況ではありません。各部署との連携に時間がかかる、会計処理・確認作業が想定以上に長引くこともありますので、それぞれ事前に対策を講じて、スムースな進行を心がけましょう。
MEMO
リアルタイムの経営状況の把握が重視される月次決算は、遅くとも翌月中旬までに報告されることが望ましい。そのため場合によって計算は概算でもかまわない。
月次決算の目的
①リアルタイムに経営の現状を把握して、迅速な対応を図る
②年度計画の売上高、粗利、販管費、営業利益を目標とした進捗状況を管理する
③年次決算の利益を早期に予測し、精度の高い決算見込を立てる
④月次の帳簿整理を確実に行い、より適切な年次決算に役立てる
分析資料リスト
損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、資金繰り表のほか、以下のような分析資料を作成する。ただし前述の通り法律などの定めはないため、各社独自の構成、形式でかまわない。
比較損益計算書
▶予算実績対比
当月の予算(単月及び累計)を達成できているか確認
▶前期比
当月の実績(単月及び累計)と前年同月(同)と比較
部門別損益計算書
▶予算実績対比及び前期比
比較損益計算書を部門ごとに作成し、経営分析及び業績評価に役立てる
そのほかの分析資料の例
受注残高表 / 売掛金残高表 / 買掛金残高表 / 売上高推移表 / 借入金一覧表 / 経費推移表 / 在庫一覧表
MEMO
月次決算を遅滞なく進めるには、次のような注意が必要。社内・社外への関係書類提出の締切を周知して早めの収集を心がける、月次決算のスケジュールを社内で共有してスムースな連携を図る、など。
Section 18-1 売上高と売上原価の確定と月次配賦
損益計算書などの月次決算資料作成のため、まず売上高を確定させるんだ。
売上高と売上原価を確定して、粗利を求める
月次決算で行う主な作業の1つが、売上高(売上)の確定。当月すでに計上している売上(売上計上については、CHAPTER2 Section13-1「売掛金の管理―売上の計上基準」参照)と当月分の請求書控えを突き合わせ、売上の漏れや誤りがないかをチェック、適宜修正処理を行い、当月計上すべき売上高を確定させます。
売上高の確定に続き、当月に売上げた商品にかかった仕入費用=「売上原価」の確定を行います。売上原価は月初の商品棚卸高に当月の商品仕入高をプラス、そこから月末の商品棚卸高をマイナスして求めます。そしてそれぞれ確定した売上高から売上原価を差し引いた金額が売上総利益=「粗利」となります。
実質的に毎月発生している経費を月ごとの金額にならす
月次決算ではまた「月次配賦」と呼ばれる処理も必要。例えば年1回払いの保険料や年2回支給する賞与など、「実質的に毎月発生しているものの、当該月でないと正確な金額がわからない経費」があります。これを全て一括で計上すると当該月だけ経費が増え、各月の正確な損益がわからなくなってしまいます。そこで月割り=年間発生額を12で割って仕訳処理を行い、各月の月次決算に反映させる月次配賦を行います。減価償却費、固定資産税なども、同様に月次配賦を行って毎月の費用として計上します。
ポイント
- 売上高確定のため当月分の請求書控えなどを各部門からもれなく提出してもらう。
- 売上原価の算出により粗利も求められる。
- 実質的に毎月発生している経費を各月に振り分ける処理も行う。
売上原価の求め方
売上原価 = 月初商品棚卸高 + 当月商品仕入高 - 月末商品棚卸高
月次配賦の仕組み
月次配賦の対象となる経費の例
項目 | 賞与 | 損害保険料 | 生命保険料 | 固定資産税 | 減価償却費 |
---|---|---|---|---|---|
支払日または金額が確定する日 | 年2回 | 年1回 | 契約ごとに異なる | 原則年4回 | 年度末 |
MEMO
月初商品棚卸高は前月の帳簿で確認。当月仕入高は、請求書や帳簿を元に一覧表などを作成して合計額を算出。月末商品棚卸高は、実地棚卸の集計額、または当月仕入高を売上原価と見なすなど便宜的な数字を用いる。
Section 18-2 試算表の作成
月次決算にあたって試算表を作成することには、いろんなメリットがあるんだ。
月ごとの試算表を決算書の元とすることができる
経理担当者は毎日の業務を通じて、日々発生する取引を仕訳帳に記録し、これを元に総勘定元帳を作成。そして決算にあたり、総勘定元帳から「試算表」をまとめます。
試算表とは、複式簿記の前提となっている貸借一致の原則にしたがい、全ての勘定科目の合計額や残高を一覧にした書類。勘定科目について借方・貸方それぞれの合計を集計する「合計試算表」、各勘定科目の借方または貸方の残高を集計する「残高試算表」、またこの2つを合わせた「合計残高試算表」の3種類からなります。いずれも借方と貸方の数値が最終的に一致する点が共通しており、一致しなかった場合は何らかのミスがあったことが分かります。貸借対照表、損益計算書などの決算書は、この試算表を元に作成されます。
試算表は決算書作成以外にもさまざまなメリットがある
試算表は、勘定科目ごとの集計結果を示す決算書類を作成する前段階のデータになります。試算表自体は決算書類になりませんが、試算表を分析することで会社の資産や利益が把握できるため、決算書の分析とほぼ同じ効果が期待できるメリットもあります。さらに月次決算にあたって毎月試算表を作成しておくことで、経理担当者は年次決算での作業量を軽減することが可能です。
ポイント
- 総勘定元帳から試算表をまとめ、これを元に財務諸表を作成する。
- 試算表には合計試算表、残高試算表、合計残高試算表の3種類がある。
- 毎月試算表を作成することで、年次決算の負担を減らすことができる。
試算表の種類
合計試算表
総勘定元帳から各勘定科目の借方合計と貸方合計をまとめた書類。会社が一定期間に取引した合計額を把握できる点がメリット。
作成の手順
①総勘定元帳の勘定科目の借方、貸方それぞれの合計額を算出
②合計試算表に転記
残高試算表
総勘定元帳から勘定科目ごとに借方と貸方の合計を差し引きし、まとめた書類。決算時の精算表を作成する際に役立つ。
作成の手順
①勘定科目ごとに借方合計、貸方合計を算出
②借方合計、貸方合計を差し引きし、残高を求める
③残高試算表に転記
合計残高試算表
計試算表と残高試算表を1つの表に合わせた書類。
作成の手順
①勘定科目ごとに借方合計、貸方合計を算出
②借方合計、貸方合計を差し引いて残高を計算
③①で求めた合計を合計試算表部分に、②で求めた残高を残高試算表の部分に転記
試算表を見れば会社の売上や利益が分かるのです。
MEMO
決算整理の結果は、精算表を作成して記録する。精算表は、現金、売掛金、買掛金、貸倒引当金などの勘定科目ごとに、どの項目をどう修正したか、また貸借対照表や損益計算書にどう記入するかを一覧にした書類。