Section 03 給与計算の概要
給与の額はさまざまなルールに基づいて決定される。給与規程や法令などのルールについて知っておこう。給与の額はさまざまなルールに基づいて決定される。給与規程や法令などのルールについて知っておこう。
給与は社内規定と法令などに基づいて算出される
会社が支給する給与の額は、さまざまなルールに基づいて算出されます。主なルールは、社内規定と法令の2通り。このうち社内規定は、「給与規程」とそれ以外に分けられます。
「常時十人以上の労働者を使用する」会社は、労働基準法に基づいて「就業規則」を作成しなくてはいけません。就業規則で給与に関する取り決めの記載が義務づけられていますが、多くの会社ではこれとは別に給与規程を作成しています。給与規程にはCHAPTER3 Section02「給与体系の構造」で見たような基本給や諸手当などさまざまな給与の取り決めに加え、支払いの方法や時期などについても記載されています。
給与規程以外の社内規定は、労使協定に基づく取り決めが含まれます。例えば会社が従業員に代わって管理する財形貯蓄の積立金、社宅の使用料などを給与から差し引く場合などが該当します。これらは協定控除とも呼ばれます。
法令に基づき社会保険料や税金も控除する
法令に基づくルールは、所得税、住民税、社会保険料の控除が関わってきます。所得税は給与額や個人の事情に応じて金額が変わり、年末調整などで確定します。住民税は前年の所得を元に計算され、毎年5月に通知が送られてきます。社会保険料は、健康保険、介護保険、厚生年金、雇用保険の保険料をそれぞれ所定の手続きにしたがって控除します。
ポイント
- 給与を定める主なルールは社内規定と法令の2つに大別できる。
- 多くの会社が就業規則とは別に給与規程を定めている。
- 所得税、住民税、社会保険料も給与から差し引かれる。
給与計算の流れ
①総支給額を計算
基本給と諸手当の合計から欠勤控除などを差し引いて総支給額を求める。欠勤控除は、その従業員が欠勤、遅刻、早退した時に差し引く賃金。あらかじめ出勤日数などの勤怠項目をチェックしておく必要がある。
総支給額基本給 + 諸手当 - 欠勤控除など
②保険料の控除
総支給額から控除する社会保険料と雇用保険料を算出する。社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料)は「保険料額表」(CHAPTER3 Section04-2「社会保険・労働保険の概要」参照)で「概算報酬月額」に当てはまる金額(折半額)を用いる。雇用保険料は総支給額に雇用保険料率の被保険者負担分をかけて求める。
社会保険料の控除額健康保険・厚生年金保険の保険料額表を参照
雇用保険料の控除額総支給額 × 雇用保険料率の被保険者負担分
③源泉徴収税額を控除
給与の総支給額から通勤手当などの非課税手当、②で控除した保険料を差し引いて課税対象額を算出。これを「給与所得の源泉徴収税額表」にあてはめ、控除する所得税額を求める。
課税対象額給与の総支給額 - 非課税手当 - ②で控除した保険料
④差引支給額(手取り)を決定
給与の総支給額から各控除額を差し引いて差引支給額(手取り)を求める。
差引支給額(手取り)総支給額 - [保険料の控除額+源泉徴収税額]
※そのほか市町村の通知に基づいて住民税の控除を行う。また、労使協定に基づく控除項目(従業員に対する貸付け金の返済金、会社で加入する生命保険料など)があれば、控除する。
標準報酬月額は、社会保険料の計算を簡便にするため、金額の区分(等級)ごとに設定された計算用の報酬月額。厚生年金は32段階、健康保険は50段階の等級に区分されているんだ。
MEMO
所得税、住民税、社会保険料の控除は「法定控除」と呼ばれ、法律で給与から差し引くことが認められている。なお住民税については、賞与からは差し引かれない。
給与規程(賃金規程)の記載内容
絶対的必要記載事項
労働基準法第89条に基づき、必ず記載しなくてはいけない事項。
賃金の決定・計算方法 | 年齢給・勤続給・職能給などの計算方法、また日給・月給・年俸などの計算期間、そのほか手当や欠勤・休暇取得時の賃金など、会社が実施しているルールを全て明確に記載する。 |
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賃金の支払い方法 | 賃金の支払日や支払日が休日の場合のルール、現金手渡しまたは銀行振込などの支払い方法を記載する。 |
賃金の締め切り | 賃金の集計対象となる期間、また残業手当など変動する賃金が含まれる期間などを記載する。 |
昇給 | 昇給の要件・時期・昇給賃金の計算方法などのルール、また減給を行う場合はそのルールを記載する。 |
相対的必要記載事項
労働基準法に基づき、その事業所で定めがある場合は必ず記載しなくてはいけない事項。
退職手当 | 退職手当を適用する従業員の範囲、退職手当の決定・計算・支払い方法、支払時期などを記載する。 |
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最低賃金 | 最低賃金に関して取り決める場合に記載する。最低賃金法に基づく各都道府県の最低賃金を下回らないよう注意。 |
賞与 | 賞与を含む臨時の賃金を支給する際の要件、時期などを記載する。 |
賃金支払いの5原則
労働基準法はその第24条で、賃金が確実に労働者本人の手に渡るよう、支払い方法に関するルールを定めている。これを一般に「賃金支払いの5原則」と呼んでいる。
通貨払いの原則 | 賃金は「通貨」で支払わなければならず、会社の商品在庫などを「現物支給」することは原則認められない。 |
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直接払いの原則 | 中間搾取を排除して労働者本人の手に賃金全額を渡すため、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止する。 |
全額払いの原則 | 賃金の一部を支払留保することによる労働者の足止めを封じるため、その控除を禁じる。 |
毎月1回以上払いの原則 | 賃金支払いの間隔が開き過ぎることによる労働者の生活上の不安を除くことを目的としている。 |
一定期日払いの原則 | 支払日が不安定で間隔が一定しないことによる労働者の計画的生活の困難を防ぐことを目的としている。 |
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
②賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
労働基準法第二十四条