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CHAPTER3 給与計算と年末調整

Section 04 給与に関わる毎年の仕事の流れをつかもう

月ごとの業務と並行して、年間を通したスケジュールも毎月の予定に組み込んでおく必要があるんだ。

給与に関わる毎年の仕事の概要

[対象者]全従業員
[作成する書類]給与所得の源泉徴収票など法定調書、給与支払報告書、算定基礎届、賞与支払届、労働保険料申告書な
[提出先 / 納付先]税務署、市区町村、年金事務所・健保組合、労働基準監督署など

給与に関わる毎年のスケジュール例(従業員対象)

①入・退社などの事務処理

新規採用者及び異動者の給与設定、退職にともなう処理を行う

4月

②住民税の新年度控除額を登録

6月以降分の住民税額の通知を受け、給与からの控除額を変更する

6月

CHAPTER3 Section05「住民税の特別徴収」

③賞与の支給(年2回)など

多くの会社で6〜7月頃と12月の年2回、従業員に賞与を支給する

6〜7月、12月
CHAPTER3 Section04-4「賞与の社会保険料と源泉徴収」

④社会保険料の随時改定

4月の昇給者を対象に、随時改定者の社会保険料の改定を行う

8月

CHAPTER3 Section04-2「社会保険・労働保険の概要」

⑤社会保険料の定時決定

算定基礎届に基づいて変更した社会保険料を10月に支払う給与から控除する

10月

CHAPTER3 Section04-2「社会保険・労働保険の概要」

⑥年末調整

従業員ごとに給与の支給額に各種の控除などを適用し、最終的な納税額を確定

12月

CHAPTER3 Section07「年末調整の流れをつかもう」

給与計算は、単に従業員に支払う額を算出するだけではありません。給与は従業員ごとに毎月変動し、それにともなって会社が納付する税金や社会保険料などの額も変わってきます。正確な給与計算は従業員のためだけでなく、会社にとっての税務リスクを避ける意味も持っているわけです。

こうした給与や社会保険などに関する業務は、月単位の決まった作業だけでなく、年間を通したスケジュールによって動いています。担当者は年単位の予定を日々の業務日程に落とし込み、繁忙期にも遅滞やミスのないスムースな処理を心がけなくてはいけません。

年単位の業務は毎月何かしら発生しますが、特に忙しくなる時期は次の4つが挙げられます。

まず1月は前年12月から続く年末調整の後処理として、源泉徴収票や給与支払報告書などを提出。続いて4月には、入退社や異動に伴う登録や設定変更があります。6~7月は、住民税額の変更、労働・社会保険の手続きのための集計、夏季賞与の支給など。そして11~12月には年末調整と冬季賞与の支給を行います。

MEMO

法定調書はその種類ごとに前々年の提出枚数が100枚以上になる場合、e-TaxまたはCDなどによる電子提出が義務づけられている。

給与に関する毎年の年間スケジュール(所轄官庁など対象)

税務署 市区町村 年金事務所・健保組合 労働基準監督署など
1月 提出
給与所得の源泉徴収票など法定調書
納付
源泉徴収所得税(特例納付)
提出
給与支払報告書
納付
労働保険料(分割の3期分)
6月 納付
住民税(特例納付)
7月 納付
源泉徴収所得税(特例納付)
提出
算定基礎届 / 賞与支払届
提出
労働保険料申告書
納付
労働保険料(一括ないし分割の1期分)
10月 納付
労働保険料(分割の2期分)
12月 納付
住民税(特例納付)
提出
賞与支払届

MEMO

賞与を支給したら、5日以内に所轄の年金事務所などに賞与支払届(健康保険・厚生年金保険被保険者賞与支払届)を提出しなくてはいけない。

Section 04-1 給与明細書の作成と仕訳

給与の支払いに際しての仕訳についても知っておこう。

給与関連の仕訳は何回かに分けて行う

給与の総支給額には基本給や残業代、通勤費や諸手当が含まれます。そこから会社が源泉所得税住民税社会保険料雇用保険料をいったん預かり、それぞれ納付することになります。

給与に関連する仕訳は何回かに分けて行うことが一般的です。まず給与の締め日の日付で、基本給・諸手当・通勤費などを「給与手当」「旅費交通費」等の費用として借方に計上、貸方には負債である「未払金」を計上します。

そして給与支給日の日付では、上記で計上していた「未払金」を借方に仕訳して相殺、貸方には実際に銀行に振り込んだ金額(手取り額)を「普通預金」等の科目で、給与から控除した社会保険料や所得税・住民税は「預り金」として計上します。

最後に社会保険料や所得税・住民税を納付した日の日付で、給与支給日に計上していた「預り金」を借方に仕訳して相殺、貸方は「普通預金」等の科目になります。

給与支給日までに給与明細を発行する

給与の支払いに際して、会社は「給与明細」の発行が所得税法において義務づけられています。給与明細の主な記載項目は、次の通り。勤怠:出勤・欠勤日数や労働時間数、支給額:基本給と諸手当、控除額:社会保険料・雇用保険料・所得税・住民税の控除額、差引支給額:支給額から控除額を差し引いた額です。

ポイント

  1. 基本給・諸手当は「給与手当」、通勤費は「旅費交通費」などで費用計上する。
  2. 給与関連の仕訳は、締め日、支給日などに分けて行うことが多い。
  3. 給与明細には、「勤怠」「支給」「控除」が記載されている。

給与関連の仕訳例

給与明細
表「給与明細」
給与締め日の仕訳
例「給与締め日の仕訳」
給与支給日の仕訳
例「給与支給日の仕訳」
社会保険料・所得税・住民税の納付日の仕訳
例「社会保険料・所得税・住民税の納付日の仕訳」

※社会保険料の納付期限は月末(支給日の当月末または翌月末)、所得税・住民税の納付期限は支給日の翌月10日。なお、雇用保険料は毎月の納付はなく、毎年6月~7月の年度更新において精算する。

MEMO

労働基準法に関する行政通達では、給与を口座振込で支給する場合に「賃金の支払いに関する計算書を交付すること」と定めている。

Section 04-2 社会保険・労働保険の概要

会社は社会保険に加入して従業員から保険料を徴収し納付する義務を負っているんだ。

会社は従業員が負担する保険料を給与から控除する

社会保険とは、国が管理している保険制度のこと。法律に基づいて運用されている制度であり、会社は加入して保険料を納める義務を負っています。

一般に社会保険と呼ばれるのは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」の3つ。また労働保険=「雇用保険」「労災保険」の2つも、広い意味での社会保険に含まれることがあります。

健康保険、厚生年金保険、介護保険の保険料は、原則として会社と従業員が折半して負担する仕組み。ただし介護保険は、40歳以上65歳未満の従業員が対象です。雇用保険は、業種ごとに定められた割合にしたがって会社と従業員が保険料を負担。労災保険は、会社が全額を負担します。会社は従業員が負担する保険料を給与から控除し、会社の負担額と合わせて納付する決まりです。

標準報酬月額が社会保険料の算定の基準となる

健康保険、厚生年金保険の保険料は、算定の基準となる「標準報酬月額」を「標準報酬月額表」にあてはめて算出します。従業員それぞれの標準報酬月額は、毎年4、5、6月に支払った給与の平均額を標準報酬月額等級区分にあてはめて決定。これが9月分から翌年8月分までの標準報酬月額となり、10月に支給される給与から適用が始まります(当月分給与から前月分保険料を控除する会社の場合)。会社は従業員それぞれの標準報酬月額を「算定基礎届」としてまとめ、毎年7月10日までに年金事務所や健康保険組合などに提出しなくてはいけません。

ポイント

  1. 会社は社会保険に加入して保険料を納める義務を負う。
  2. 会社は給与から控除した保険料を会社の負担額と合わせて納付する。
  3. 会社は従業員の標準報酬月額を算定基礎届にまとめて提出する。

定時決定と社会保険料控除のスケジュール

算定基礎届を提出して標準報酬月額を決定することを「定時決定」という。

表「定時決定と社会保険料控除のスケジュール」

定時決定以外にも急に給与が上がった/下がった時には、随時改定という処理が必要になります。

標準報酬月額の算出方法

保険料額表にあてはめ、該当する報酬月額の保険料(折半額)を10月~翌年9月にわたって毎月の給与から控除する(前月分保険料控除の場合)。

図「標準報酬月額の算出方法」

健康保険・厚生年金保険の保険料額表(令和4年3月分~※東京都の場合)

図「標準報酬月額の算出方法」

標準報酬
該当する金額を選び、その左の欄で等級を確認する。
②報酬月額
標準報酬から等級を探す際の参考とする。
③健康保険料
従業員の等級と同じ行の額が保険料になる。
④厚生年金保険料
従業員の等級と同じ行の額が保険料になる。

出典:全国健康保険協会ウェブサイト「令和4年度保険料額表(令和4年3月分から)」

MEMO

算定基礎届の届出先は、全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)に加入している場合は管轄の年金事務所。健康保険組合の場合は、健康保険分を健康保険組合へ、厚生年金部分を年金事務所へ提出する。

Section 04-3 所得税の源泉徴収

会社は源泉徴収を行って従業員の代わりに所得税を納付するんだ。

会社は従業員の所得税を天引きして納める義務を負っている

所得税とは、給与や事業の儲けなどに課される税金。会社は所得税法に基づき、これを給与から天引きして従業員に代わって税務署に納める義務を負っています。こうした納付方法を、「源泉徴収」と呼びます。徴収した「源泉所得税」は、翌月の10日までに税務署に納付します。

会社は1人でも従業員を雇ったら、源泉徴収を行わなくてはいけません。税理士など個人事業主への支払いなどについても、同様に源泉徴収を行います。

源泉徴収の対象となる給与は、基本給に加えて諸手当が含まれます。ただし通勤手当は社会保険料の算出にあたって報酬月額に含まれますが、所得税については一定額まで非課税となるので注意しましょう。

源泉徴収税額は給与所得の源泉徴収税額表を参照する

所得税の額は、社会保険料などを控除した給与の額に応じて変わります。そこで源泉徴収にあたっては、税務署が配布している「給与所得の源泉徴収税額表」から、該当する給与の額に対応する源泉徴収税額を参照します。また賞与の場合は同じく「賞与に対する源泉徴収額の算出率の表」を用いて求めます。

源泉徴収税額はまた、従業員の扶養親族の数などによって異なります。そのため従業員は毎年、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出しなくてはいけません。

ポイント

  1. 給与から所得税を天引きして代わりに納めることを源泉徴収という。
  2. 会社は源泉徴収を行う義務を負っている。
  3. 源泉徴収額は給与の額や扶養親族の数などで変わる。

源泉徴収の課税対象額の計算式

課税対象額

[総支給額-非課税額]- 社会保険料

源泉徴収額の計算例

東京都勤務・35歳・扶養家族3人(妻と子供2人)

①総支給額……35万円
②通勤手当……1万円
③健康保険料 + 厚生年金保険料……4万7838円
④住民税……1万6000円
⑤雇用保険料……1050円

課税対象額

①-②-③-⑤=29万1112円(下図の

給与所得の源泉徴収税額表(下図参照)の甲・扶養親族3人(下図の)の欄にあてはめ、源泉徴収税額を求める。

⑥源泉徴収税額……3190円

手取り額

①-③-④-⑤-⑥=28万1922円

給与所得の源泉徴収税額表(令和4年分)

令和4年分 源泉徴収税額表

出典:国税庁ウェブサイト「令和4年分 源泉徴収税額表」

MEMO

給与所得の源泉徴収税額表は、月額表(甲・乙)と日額表(丙)の2種類がある。月額表は毎月給与を支払う場合、日額表は日単位で給与を支払う場合にそれぞれ適用する。

Section 04-4 賞与の社会保険料と源泉徴収

賞与からも社会保険料の控除と源泉徴収をするんだ。

賞与から控除する社会保険料と所得税は、給与と算出方法が異なる

賞与支給にかかる社会保険料や税金の処理は、基本的には給与と同じように行います。ただその算出方法については、少し異なる部分があります。

社会保険料は保険料額表は用いず、標準賞与額(下記図「賞与から控除される社会保険料の計算方法」参照)に保険料率をかけて計算します。雇用保険料は給与の場合と全く同じです。

所得税は、賞与の支給総額から社会保険料の合計額を差し引いた額に税率をかけて税額を算出します。税率は、「賞与に対する源泉徴収額の算出率の表」で確認します(下記図「賞与から控除される所得税の計算方法」参照)。住民税は、前年の給与総額をもとにした金額を毎月納めているので、賞与からは控除しません。

また役員賞与は従業員の賞与とは取り扱いが多少異なります。従業員賞与が損金になるのに対して、役員賞与は基本的に損金に算入できません。ただし事前の届出をして基準を満たせば損金算入が認められます。

賞与の仕訳

夏季賞与4,000,000円を源泉所得税と社会保険料800,000円を控除して、普通預金口座から振り込んだ。

表「賞与の仕訳」

賞与から控除される社会保険料の計算方法

社会保険料

控除額 = 標準賞与額 × 保険料率

標準賞与額は、総支給額の1,000円未満を切り捨てた額。標準賞与額には上限があり、健康保険料は年間5,730,000円、厚生年金保険料は1カ月当たり1,500,000円まで。超えた分には保険料がかからない。

保険料率は加入している健康保険によって異なり、保険料率表などで確認する。たとえば、協会けんぽ(東京都)の場合、健康保険料は49.05/1,000、介護保険料は8.20/1,000、厚生年金は91.50/1,000。(2022年3月分~)

雇用保険料

控除額 = 賞与額 × 雇用保険料率

社会保険料・雇用保険料どちらも会社と従業員の負担割合は、給与の場合と同じなんだ。

賞与から控除される所得税の計算方法

図「賞与から控除される所得税の計算方法」
経理の仕事の流れとしくみがまるごとわかる
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