Section 11 現預金の管理―出納業務の流れと証憑
紛失や不正がつきものの現金は、徹底した管理が不可欠。経理担当者は、適正なお金の扱いを身につけよう。
入金、出金、残高の管理を徹底するよう心がける
「小口現金」とは、会社に常備しておく少額の現金のこと。仮払いや経費の精算など、日々のこまごまとした出納をこの小口現金で行います。1章でも触れた通り、小口現金の出納管理は経理担当者が任される一般的な業務の1つです。
現金といえば紛失、そして不正が常に隣り合わせ。出納管理を任される担当者は、紛失などに際してあらぬ疑いをかけられることがないとも限りません。現金の出入りをこまめに記録して残高の確認を日々徹底するなど、入金、出金、残高の管理を徹底するよう心がけましょう。
現金を出し入れしたら遅くともその日のうちに記録する
小口現金の担当者は現金の仮払いや精算にあたり、各部門の社員から仮払申請書、経費精算書及び証憑類(請求書、領収書など、CHAPTER2 Section11-1「現預金の管理―請求書・領収書の扱い」参照)の提出を受けます。先に現金だけ払い出すと後から書類を回収するのに手間取ることが多いので、その場で受け渡しするよう習慣づけておきましょう。
担当者は内容に不備や誤りがないかチェックした上で所定の額の入出金を行うとともに、受け取りのサインをもらいます。現金を出し入れしたら、遅くともその日のうちに現金出納帳に記録。また終業時には現金の額と数を数え、「金種表」を作成します。
ポイント
- 現金は紛失・不正と隣り合わせであることを意識して業務に臨む。
- 仮払申請書、経費精算書などと引き換えに現金の受け渡しを行う。
- 終業時には現金の額と数を数えて「金種表」を作成する。
現金管理の流れ
業務開始時
経理責任者が金庫から手提金庫を取り出し、小口現金の担当者に預ける。
出納業務
①現金の払出
仮払申請書、経費精算書などの提出を受け、内容を確認した上で現金を払出す。
②払出しの記録
現金の払出を現金出納帳に記録する。
③現金の受取り(仮払金の未使用分の戻し)
仮払経費精算書の記載漏れがないかや仮払金の残高が正しく精算されているかを確認。
④受取りの記録
現金の受取りを現金出納帳に記録する。
業務終了時
現金の残高を貨幣の種類ごとに数え、金種表を作成。前日と当日の金種表と手提金庫を経理責任者に渡す。
経理責任者が金種表と手提金庫の内容をチェックした上で金庫に戻す。
現金の残高が合わない原因としては、慶弔費など領収書のない支払いの仕訳漏れ、単純な仕訳の間違いなどがよくある例。不一致の原因は、その日のうちに突き止めるのが鉄則だ。どうしても分からない場合は、「現金過不足」の勘定科目で仕訳して金種表の額に合わせよう。
MEMO
一般に現金というと貨幣=紙幣と硬貨を指すが、経理上では取引先が振り出した小切手なども現金として扱う。
Section 11-1 現預金の管理―請求書・領収書の扱い
請求書は確実かつ速やかに処理するのが鉄則。領収書などを含めた証憑類は取引の事実を裏づける重要な書類なんだ。
請求書を受け取ったら速やかに処理する
商品・サービスを提供した側が、相手にその代価の支払いを求めるために発行するのが請求書。支払い条件は、取引開始前に締結された契約の内容に基づくのが前提です。振込みの場合、請求元の口座情報が記載されます。
各部門の担当者は取引先から請求書を受け取ったら、まず内容が正しいかどうかをチェック。そして自分の部門の責任者の決裁を得た後に、経理へ提出します。請求書を受け取った経理担当者は、速やかに処理しなくてはいけません。
支払いに対して領収書が発行される
支払いを行うと、相手から領収書を受け取ります。領収書は、請求に対する代金を支払ったことを証明する書類。印紙税法の定めにしたがい、支払った金額に応じて割印を押した収入印紙の貼付がされています。経費精算にあたって領収書は必須ですが、手書きである必要はありません。支払った相手、発行日、金額などが記載されていれば、レシートでも有効。むしろ手書きより機械が印字するレシートのほうが、税務上の信頼性が高いともいえます。
請求書、領収書はいずれも「証憑」の代表。証憑とは取引の事実を裏づける重要な書類であり、税務調査や監査(会計監査・内部監査)でもその証拠として扱われます。
ポイント
- 各部門の担当者は請求書の内容を確認の上、責任者の決裁を受ける。
- 請求内容の確認・支払いは会社の内部統制において重要なプロセス。
- 証憑は税務調査や監査(会計監査・内部監査)でも取引の証拠として扱われる。
請求書・領収書の確認事項(フォーマットは会社ごとにさまざまな形式がある)
請求書
①発行日
②宛名(請求先の会社名、部署名、担当名)
③請求元の会社名、住所、電話番号など
④請求代金
⑤商品・サービスの内容、単価、数量
⑥請求元の口座情報(銀行・支店名、口座種類、口座名義、口座番号)
領収書
①宛名
②発行日
③領収金額
④但し書き
⑤収入印紙(5万円以上の場合)
⑥消印
⑦発行元の会社名、住所、電話番号など
受取金額に対する領収書の収入印紙額
取引先から受領した請求書や領収書などを「外部証憑」、自社が発行した請求書や領収書などの控えを「内部証憑」という。取引を裏づける証拠能力は、外部証憑のほうが高いとされるんだ。
MEMO
発注書、注文書を発行している場合は、その控えを相手からの請求書と突き合わせる。これらの証憑類は、法人税法などにより確定申告書の提出期限の翌日から7年間で保存することが定められている。
Section 11-2 現預金の管理―現金・預金の種類
経理は多様な種類の「現金・預金」を扱う。経理担当者はまず会社が保有する現金や預金の範囲を覚えよう。
会社が保有する多様な現金・預金の種類を覚える
一般に現金というと、通貨=紙幣と硬貨を指すのが普通。しかし経理では、それ以外にもさまざまな証券や証書などを現金として扱います。また預金にも、下記図「現金と預金の種類」のようにいくつもの種類があります。経理担当者は経理規程、あるいは先輩や上司に確認するなどして、自分の業務に関連する現金・預金を覚えておかなくてはいけません。
決算時点で会社が持っている現金や預金は、貸借対照表の「資産の部」に示されます。この現金・預金の流れをより詳しく見るためにまとめられるのが、財務三表の1つ「キャッシュフロー計算書(CF: cash flow statement)」です。これは、一定期間のうちに会社のお金=資金がどのように動いたかを把握するための計算書。そのため土地や建物などの資産は含まず、「キャッシュ」だけの流れがまとめられます。
クレジットカードやバーコードでの決済も「キャッシュ」
キャッシュフロー計算書でいうキャッシュとは「現金及び現金同等物」、つまり現金やいつでも現金化できる預金などが対象で、貸借対照表の「現金・預金」とは範囲が異なります。
なお、従来は会社での支払いは、現金による支払いや銀行預金からの振込、また小切手や手形などの決済が主流でしたが、近年ではクレジットカードやICカード、バーコード決済も増えています。これらの支払いもキャッシュフロー計算書におけるキャッシュの増減に含まれます。
ポイント
- 経理が扱う現金・預金はさまざまな種類がある。
- キャッシュフロー計算書で現金・預金の流れがより詳しく分かる。
- 貸借対照表の「現金・預金」はキャッシュフロー計算書と範囲が異なる。
現金と預金の種類
現金 |
通貨(紙幣と硬貨) 他人振出小切手 預金小切手 送金小切手 郵便為替証書 郵便振替支払通知書 期限到来済みの公社債利札 配当金領収証 国庫金送金通知書 など |
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預金 |
普通預金 当座預金 通知預金 定期預金 別段預金 納税準備預金 仕組預金 など |
以下は現金として扱わない
キャッシュフロー計算書の現金及び現金同等物
現金 | 現金及び普通預金・当座預金・通知預金など「要求払預金」(要求すればいつでも払い戻せる預金)を指す。 |
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現金同等物 | 容易に換金可能で価値変動について僅少なリスクしか負わない「短期投資」(満期日または償還日まで3カ月以内の定期預金、譲渡性預金=CD、コマーシャルペーパー=CPなど)を指す。 |
MEMO
例えば満期まで3カ月を超える定期預金は、貸借対照表では預金に含まれるが、キャッシュフロー計算書ではキャッシュ(現金及び現金同等物)に含まれない。
Section 11-3 現預金の管理―現金出納帳
現金の動きを勘定科目とともに記録するのが現金出納帳。現金の残高との照合は毎日行わなくてはいけないんだ。
現金出納帳で現金の入出金を取引内容とともに記録する
現金の出納業務で用いられるのが、「現金出納帳」。日々の現金の入出金を、その取引内容とともに記録する帳簿です。「補助簿」の1つである現金出納帳は「主要簿」(総勘定元帳、仕訳帳)のように作成が法律で義務づけられてはいませんが、手許の現金を管理する上で不可欠です。
現金出納帳への入力作業は、仮払申請書、経費精算書及び証憑類などの書類に基づいて行います。書類を溜め込んでしまわないよう、当日中の処理を心がけましょう。終業時には現金の残高を数える「現金実査」を行い、現金出納帳と照合して過不足がないかを確認します。
「入金合計 = 出金合計 + 次月繰越」になるようチェックする
記載する項目は次の通り。まず「日付」は、入出金があった日付を入力します。領収書などの日付と異なることはよくありますが、現金出納帳はあくまで会社の現金が動いた日を記録する決まりです。続いて「勘定科目」には「現金」の「相手勘定科目」、「摘要」は取引の詳細を記入。そして「収入金額」と「支出金額」、さらに「残高」を計算して入力します。
月末には、収入金額と支出金額それぞれの合計を算出。支出金額及び次月に繰り越す残高の合計と収入金額の合計は、一致する仕組みです。合わない場合は入力のどこかに誤りがあるので、原因を突き止めなくてはいけません。どうしても合わない場合は、現金の実査の金額に合わせます。仕訳としては、雑収入、雑損失となります。
ポイント
- 終業時に現金の残高と照合して過不足がないかを確認する。
- 現金出納帳には日付、勘定科目、摘要、入出金額、残高を記入する。
- 月末には残高と現金の実査を突き合わせ、不一致がある場合は原因を調べる。
現金出納帳の例
会計ソフトに現金出納帳の機能があるので、別途エクセルなどで作らなくてもOK!
Section 11-4 現預金の管理―定額資金前渡制度
各部門、支店、出張所には一定額までの小口現金をあらかじめ渡すのが一般的。経理担当者はその管理をするんだ。
定額資金前渡制度では各部門に一定額までを補充する
大きな会社では、日々の支払いのための小口現金を一定額まで一定期間ごと(毎月が多い)に各部署へ渡すのが一般的。これを「定額資金前渡制度」(インプレストシステム)といいます。小口現金が不足するたびに随時補給する方法もありますが、定額資金前渡制度のほうが資金管理の面で優れているといわれます。
例えばまず月初めに一定額になるよう銀行から引き出しておき、手提げ金庫に保管。各部門の出納担当者はそのなかから日々の支払いを行います。そして月末に1カ月分の支払いを、経理担当者に報告。そしてまた月の初めに一定額まで補充という流れになります。
支店や出張所でもそれぞれ出納業務が発生する
支店や出張所などの各事業所でも、それぞれ小口現金の出納業務が発生します。例えばまず1カ月の活動費をそれまでの実績から見積もっておき、その金額となるよう毎月の初めに本社の経理部門から各事業所の口座に送金。各事業所の出納担当者はそこから各週ごとの活動費を引き出し、手提げ金庫に入れて管理します。事業所の出納担当者は経理の専門家でないことも多いため、業務の説明や指導も本社の経理担当者の仕事になります。
各事業所が独立して会計処理を行う「本支店会計」を採用している場合を除き、それぞれの担当者は出納に関する記録と証憑類などを整理して本社へ送付。本社の経理部門はこれを総勘定元帳などに集計します。
ポイント
- 定額資金前渡制度は一定額までの小口現金を定期的に各部署へ前渡しする。
- 支店や出張所などにも同様に前渡しすることが多い。
- 支店や出張所にも設定金額までの現金を送金する。
定額資金前渡制度
各支店の出納業務(本店が本支店全ての経理を行う場合)
小口現金出納帳の例
MEMO
本支店会計は、支店を持つ会社で行われる会計の方法。本店集中会計制度(本店が本支店全ての経理を行う)と支店独立会計制度(本店と支店が独立して会計処理を行う)の2つからなる。
Section 11-5 現預金の管理―立替払い・仮払いの処理
現金出納業務の代表が、立替払いと仮払い。いずれも内容の承認を得た上で、速やかな処理を図るのが秘訣だ。
立替払いの精算は期日を決めて社内に周知を図る
会社の業務に必要な支払いを、従業員が一時的に負担するのが「立替払い」。経理担当者は、額を確認した上で従業員に支払う=精算を行います。精算にあたってはまず従業員の上司などに立替えを承認してもらった上で、経理担当者が自分で内容を確認。領収書に書かれた商品名やサービス内容などの但し書きが曖昧な場合は、従業員に直接確かめましょう。
会計期間内であれば精算の期限に決まりはありませんが、一定の締め切りを設けないと領収書を溜め込んでしまう従業員が出てきます。そのため、月ごとに期日を決めて社内に周知を図るのが一般的。この場合は従業員に所定の「経費精算書」を作成してもらい、領収書と一緒に提出するよう求めます。
仮払申請書に基づいて業務に必要なお金を前渡しする
会社の業務に必要な支払いのためのお金を、あらかじめ従業員に渡すのが「仮払い」。経理担当者は従業員からの申請に基づき、必要な額を事前に渡します。その際に必要なのが、「仮払申請書」。仮払いの目的、金額、氏名を記入した上で、従業員の上司などの承認を得た書類です。
仮払申請書を受け取った経理担当者は、経理部門の責任者の承認を経て仮払金を払い出します。従業員が仮払金で支払いを行ったら、速やかに仮払経費精算書、領収書、そして残った差額を受け取らなくてはいけません。
ポイント
- 提出された領収書の但し書きが曖昧な場合は従業員に確かめる。
- 立替払いの精算は月ごとに締め切りを設ける。
- 仮払いをした従業員から速やかに経費精算書、領収書、差額を受け取る。
立替払いの流れ
従業員が業務に必要な支払いを代行する
従業員が上司などの承認を得る
従業員が経費精算書と領収書を経理担当者に提出
経理担当者が確認の上、現金を払い出す
立替経費精算書の例
立替払いも仮払いも従業員が勝手にできるわけではなく、一連の手続きを踏む必要があるのです。
MEMO
「精算」は本来、金額を細かく計算し直すことを指す。混同されやすい「清算」は相互の貸し借りを計算して決着をつける、あるいは会社などが解散した際にその後始末として財産関係を整理することなどを指す。
仮払いの流れ
従業員が仮払申請書を作成
従業員が上司などの承認を得る
従業員が仮払申請書を経理担当者に提出
経理担当者が確認の上、経理部門の責任者の承認を得る
仮払金を払出し
仕訳処理→仮払金勘定を用いて仕訳する。
従業員から仮払経費精算書、領収書、差額を受け取る
仕訳処理→仮払金勘定から旅費交通費など実際に使った勘定科目へ振り替える。
仮払申請書の例
仮払経費精算書の例
仮払いの仕訳例
仕訳例:出張旅費7万円を仮払いした
仕訳例:交通費と宿泊費で5万5000円使った後、残額1万5000円を受け取った
仮払いの精算では、領収書、レシート、残金を回収するのを忘れずに!