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CHAPTER5 決算の業務

Section 14 知っておきたい会計処理―税効果会計

会計基準と税務基準のずれを調整するのが税効果会計なんだ。

会計基準と税務基準で収益と益金などの認識が異なる

会計上では費用とされても、税務上ではそうならない場合があります。例えば来期に支払う賞与に備えた賞与引当金は、会計上では負債性引当金として処理できますが、税務上では認められていません。従来は税務を基本に会計処理を行ってきましたが、近年ではこのように会計基準と税務基準のずれが広がり、会計上の儲け=利益と税務上の儲け=所得の差異が大きくなっています。この差異を調節して適切に期間配分する手続きが、「税効果会計」です。

一時差異について税効果会計を行う

会計基準と税務基準の違いに基づく差異は、「一時差異」と「永久差異」の2つに大別できます。一時差異は、会計上も税務上もいずれは計上されるものの、認識時期が異なることから生じる差異。賞与引当金の繰入れ額、税法上の限度額を超過した分の減価償却費、減損会計での投資有価証券評価損などがその代表例です。一時差異は会計基準と税務基準とで認識のタイミングがずれていることが原因なので、最終的には一致することになります。税効果会計はこの一時差異を調整するものです。

それに対して永久差異は、会計上の費用と収益、税務上の損金と益金の考え方がそもそも異なっていることから生じる差異。交際費のうち損金算入限度額を超えた部分、寄附金の損金不算入部分などが該当します。一時差異のように解消されることはないので、税効果会計の適用対象にはなりません。

ポイント

  1. 会計基準と税務基準の差異を調節して適切に期間配分する。
  2. 一時差異は認識時期の違いから生じる差異。
  3. 永久差異は税効果会計の対象にならない。

会計基準と税務基準の差異

一時差異

会計上と税務上で一時的に生じる差異。以下の2つが含まれる。

将来減算一時差異
一時差異の解消により、その期の法人税の課税所得が減額する差異が対象。一時差異が生じた年度の税引前当期純利益に差異の部分を加算した後、差異が解消される年度に減算する。

将来加算一時差異
一時差異の解消により、その期の法人税の課税所得が増額する差異が対象。一時差異が生じた年度の税引前当期純利益に差異の部分を減算した後、差異が解消される年度に加算する。

永久差異

会計上の費用と収益、税務上の損金と益金の考え方がそもそも異なる差異。

税効果会計の適用対象となる会社

以下の会社は税効果会計が義務とされる。

  • 上場企業
  • 金融商品取引法の適用を受けている非上場企業

会社法上の大会社についても、税効果会計の適用が必要とされる。また親会社が税効果会計を適用している場合、子会社や持分法対象の関連会社は中小企業であっても税効果会計を適用するのが望ましい。

税効果会計のイメージ(法人税等の税率が30%の場合)

一時差異があるため、実際の法人税等の税額は「税引前当期純利益 × 30%」とずれる。税効果会計を行うことで、税引前当期純利益と法人税等を差し引いた後の「当期純利益」が合理的に対応することになる。

税効果会計を行わない
例「税効果会計を行わない」
税効果会計を行う
例「税効果会計を行わない」

MEMO

「法人税等調整額」は、税効果会計を行う場合に法人税等の額と税引前当期純利益の額を合理的に対応させるため、法人税等を加算または減算するための勘定科目。

Section 14-1 知っておきたい会計処理―減損会計

価値が下がって投資額の回収が見込めなくなった資産は、帳簿価額を減額する処理を行うんだ。

対象になる資産とならない資産がある

「固定資産の減損に係る会計基準」で定められた会計処理を、一般に「減損会計」といいます。これは、収益性が低下した、時価が下落したなどの理由で投資額の回収が見込めなくなった資産について、その帳簿価額を実態に即した価値に減額する会計処理のことです。

減損会計の対象となる資産は、「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つ。有形固定資産は、土地、建物、機械など。無形固定資産は、のれん、特許権、借地権など。投資その他の資産は、投資不動産や長期前払費用などがそれぞれ対象となります。ただし下記図「減損会計の対象にならない資産の例」に挙げたそのほかの会計基準で評価方法が定められている資産は対象になりません。

決算書上では、まず貸借対照表に計上されている固定資産の帳簿価額を、投資の損失の金額分だけ減額します。また損益計算書では、その減額した金額を特別損失の「減損損失」として記載します。

全ての資産について減損を検討しなくてもかまわない

ただし会社が保有する全ての資産について減損の判定を行うのは、作業量が膨大になりすぎて現実的ではありません。そのため減損会計では、減損が生じている可能性を示す事象=「減損の兆候」があった場合にだけ「減損を認識すべきか否か」を検討すればいいとされています。具体的な減損の兆候は、下記図「減損会計の流れ」に挙げた4通りが該当します。

ポイント

  1. 減損会計は有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産が対象。
  2. 減損損失は損益計算書で特別損失に記載する。
  3. 減損の兆候があった場合にだけ、減損を認識すべきかを検討する。

減損会計の流れ

固定資産のグルーピング

減損会計は、ほかの資産または資産グループのキャッシュフローからおおむね独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位で行うことが前提。この資産グループの範囲は会社によって異なるので、それぞれの実情に応じたグルーピング(例えば特定の製品を作っている1つの工場)を選択する。

減損の兆候を把握

下記の要領で減損の兆候を判定する。

①キャッシュフローをチェック
営業活動から生じる損益またはキャッシュフローが継続してマイナスとなっている、または継続してマイナスとなる見込みである

②回収可能価額をチェック
使用範囲またはその方法について当該資産または資産グループの回収可能価額が著しく低下する変化が生じた、または生じる見込みである

③経営環境をチェック
経営環境が著しく悪化した、または悪化する見込みである

④市場価格をチェック
市場価格が著しく低下している

減損損失の認識と測定

減損損失の認識及び測定を経て、減損の金額を計算。固定資産の帳簿価額から回収可能価額を差し引いて求める。

会計処理

減損損失の測定を経て、会計処理を行って決算書に反映させる。貸借対照表では、固定資産の帳簿価額を減額する処理を行い、損益計算書では、特別損失に減損損失を計上する。

減損会計の対象にならない資産の例

以下のようにそのほかの会計基準で評価方法が規定されいてる資産は、減損会計の対象にならない。

「金融商品に関する会計基準」における金融資産
「税効果会計に係る会計基準」における繰延税金資産
「研究開発費およびソフトウェアの会計処理に関する実務指針」における販売目的のソフトウェア

MEMO

減損損失は、固定資産の収益性の低下によって発生する臨時的な性質を持つことから、原則として特別損失に計上しなくてはいけない。そのため損益計算書で、特別損失の減損損失として記載される。

Section 14-2 知っておきたい会計処理―退職給付会計

退職給付会計は、退職給付の各期の負担額を合理的に見積もることが目的なんだ。

会社は毎期の決算書に退職給付を適切に反映させる必要がある

退職一時金や退職年金など、従業員の退職にともなって支給される退職金を「退職給付」といいます。従業員の勤務期間が長くなるほど、会社は退職給付の支払額が大きくなります。こうした退職給付は、会社にとって従業員へ支払う必要のある負債として計上します。会社はその実態を毎期の貸借対照表、損益計算書に適切に反映させる必要がありますが、退職給付は実際の支払額が確定するまで時間を要します。そこで会社が将来支払うべき退職一時金や退職年金にかかるコストを時価評価し、各期ごとの負担額を合理的に見積もるために定められたのが、「退職給付会計」です。

期末時点での退職給付引当金の残高を求める

退職給付会計では、貸借対照表に記載する「退職給付引当金」と損益計算書に記載する「退職給付費用」の計算を行います。計算にあたっては、まず「退職給付債務」を計算。続いて社外で積立てている年金資産、また勤務費用・利息費用・期待運用収益・数理計算上の差異・過去勤務費用の確認を経て、退職給付引当金と退職給付費用をそれぞれ決算書に反映させます。

退職給付引当金は退職給付費用の発生によって増加する反面、会社が退職者に退職給付を直接支給する、また年金資産へ掛金を拠出することで減少します。これらの増減項目を集計して仕訳に反映させた結果として、期末時点での退職給付引当金の残高が決まります。

ポイント

  1. 退職給付は、従業員へ支払う必要のある負債として計上される。
  2. 退職給付引当金と退職給付費用の計算が主な目的。
  3. 計算にあたっては、まず退職給付債務を計算する。

退職給付の種類

退職給付は、支給方法や積立方法などの違いから主に「確定給付制度」と「確定拠出制度」に大別される。なお、確定拠出制度においては、当期分の掛金を費用計上するのみで、引当金の計上は不要。

図「退職給付の種類」

職給付引当金と退職給付費用

退職給付引当金

各期ごとに発生すると認められる退職給付の額を、会計基準にしたがい債務として計上する引当金。以下のように算出される。


退職給付引当金 = 退職給付債務 − 年金資産 ± 未認識数理計算上の差異 ± 未認識過去勤務費用

退職給付費用

1会計期間の退職給付引当金の増加額。退職給付会計により、退職給付に関する費用として損益計算書に計上される。勤務費用、利息費用、期待運用収益、未認識数理計算上の差異処理額などからなる。

退職給付債務

退職給付見込額のうち、当期末までに発生していると認められる額の現在価値。退職給付会計において、「退職給付引当金」の算出に用いられる。

MEMO

退職給付債務は、現時点で発生している「従業員に支払う退職給付」を現在の価値で評価した債務。

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