Section 05 基本の財務2表―貸借対照表と損益計算書
貸借対照表、損益計算書は、それぞれ決算日における会社の財政状態、また会社のある一定期間の経営成績を示すんだ。
貸借対照表は資産・負債・純資産からなる
CHAPTER2 Section1「簿記の基本―複式簿記と5つのグループ」で触れた「貸借対照表」と「損益計算書」の仕組みについて、まず基本を押さえておきましょう。貸借対照表は、決算にあたり法律で作成が義務づけられている決算書。決算日における会社の財政状態を、「資産」(左側)「負債」「純資産」(右側)の3つの項目で示します。プラスの財産=資産とマイナスの財産=負債のバランスをまとめた書類ともいえます。
貸借対照表を知る上で重要なルールは、「左右それぞれの合計額が必ず一致する」ということ。したがって3項目は、資産=負債+純資産という関係になっています。また3項目は下記図「貸借対照表の仕組み」のように5つのブロックに大別することで、現在の状態をいっそう把握しやすくなります。
損益計算書は収益・費用からなる
損益計算書も、作成が義務づけられた決算書の1つ。これは会社の一定期間の収益と費用の損益計算をまとめた書類です。
収益とは主に会社が商品やサービスの対価として受け取った売上など、また費用は商品の仕入れやさまざまな経費などが該当します。つまり稼いだ額=「収益」とそれを得るために要した「費用」を示し、その差し引きとして「利益」がどれだけ残っているかが表される仕組み。差し引きがプラスなら会社の成績は黒字、マイナスなら赤字です。
ポイント
- 貸借対照表は資産=負債 + 純資産という関係になっている。
- 損益計算書は利益=収益 - 費用という関係になっている。
- 損益計算書の差し引きがプラスなら黒字、マイナスなら赤字。
貸借対照表の仕組み
資産 = 負債 + 純資産
損益計算書の仕組み
利益 = 収益 - 費用
貸借対照表と損益計算書は、会社の経営状況を表すキホンの書類。
MEMO
株式会社は決算公告=決算について公に告知する義務を負うと法律で定められている。貸借対照表の公告は全ての株式会社、また損益計算書は資本金5億円以上または負債総額200億円以上の会社が対象。
Section 05-1 基本の財務2表―損益計算書
損益計算書は一定期間の費用と収益をまとめることで、その間に会社が得た利益が明らかになるんだ。
何に費用を使い、どれだけ売上げ、どれだけ儲かったか分かる
会社のある一定期間の利益または損失を表す損益計算書は、「P/L(profit and loss statement)」とも呼ばれます。その表示方法は、主に次の2通り。1つは勘定式と呼ばれ、貸借対照表と同じように左側と右側に分けて、費用を左に、収益を右に並べます。左側の下には、算出された「当期純利益」が示されます。もう1つは報告式と呼ばれ、収益の源である売上高を筆頭として縦に表示していくスタイル。各項目の計算を経て、一番下に当期純利益が示されます。いずれも会社が何に費用を使い、どれだけの収益を上げ、どれだけ儲かったかが分かります。
損益計算書のさまざまな指標が経営戦略に役立つ
損益計算書でまず見るべき部分は、最終的に当期純利益がプラスになっているかどうか。利益は内部留保として経営基盤の安定につながるほか、株主への配当原資となります。ただし当期純利益がプラスでも、「営業利益」がマイナスなら要注意。本業で利益が出せておらず、不動産や株式の売却益など一時的な「特別利益」などで儲かったように見えているだけということになります。
損益計算書から求められる「売上高利益率」=売上高に占める利益の比率も、重要な指標。会社の収益性が高いか低いかが分かります。主な3つの売上高利益率=「売上総利益率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」を求めることで、会社のどの部分に収益性があるかの分析が可能になります。
ポイント
- 損益計算書の表示方法には2通りある。
- 損益計算書では当期純利益がプラスかどうかが重要。
- 損益計算書では複数の利益を元に会社の経営成績を見極める
勘定式損益計算書の例
損益計算書の表示方法は2つ。そのうち勘定式は、貸借対照表と同じように左側と右側に分けて、費用を左に、収益を右に並べて表示する。
報告式損益計算書の例
もう1つの表示方法が、報告式。上から下に、収益・費用の性質ごとに各収益から各費用を引き、それぞれの段階利益を計算する。決算報告ではほとんどの場合、この報告式が用いられる。
損益計算書の構成(単位:万円)
損益計算書の5つの利益
①売上総利益
売上総利益 = 売上高 - 売上原価
本業の商品・サービスで儲かった利益。粗利ともいう。商品・サービスの原価にいくら利益を上乗せして売り上げたか分かるため、その商品・サービスが稼ぐ力が読み取れる。
②営業利益
営業利益 = 売上総利益 - 販売費及び一般管理費
売上総利益から販売部門や管理部門などのコストを差し引いた利益。本業での成績を表す。
③経常利益
経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用
毎年経常的に発生する活動にともなう利益。営業利益に本業以外で発生した営業外損益(受取利息や支払利息など)を加減して求める。
④税引前当期純利益
税引前当期純利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
臨時的な要因(例えば備品の売却益や災害による損失など)で発生した収益・損失を加減した利益。
⑤当期純利益
当期純利益 = 税引前当期純利益 - 法人税など
税引前当期純利益から法人税などを差し引いた利益。会社の最終的な利益になる。
5つの利益は超重要なので覚えておこう。
損益計算書のチェックポイント
損益計算書から「売上高利益率」を求めることで、会社の収益性を分析することができる。売上高利益率には、主に「売上総利益率」「売上高営業利益率」「売上高経常利益率」の3つがある。
①売上総利益率
売上原価にどれだけ利益を上乗せしているかを表す。ただし利益率は業種によって幅があるため、同業種間や自社の過去データを参照する必要がある。
売上総利益率(%)= 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
②売上高営業利益率
売上高に対する営業利益の割合。本業がどれだけ利益を上げられているかを表す。業種によってかなり異なるが、例えば中小企業の平均は小売業であれば1.50%、製造業であれば3.85%、宿泊・飲食サービス業であれば5.19%である。(【参考】中小企業庁|「『中小業実態基本調査 令和元年確報』3. 売上高及び営業費用(1)産業別・従業者規模別表」)
売上高営業利益率(%)= 営業利益 ÷ 売上高 × 100
③売上高経常利益率
売上高に対する本業での利益とそのほかの通常の会社の活動で上がっている利益との合計=経常利益の割合。
数値が大きいほど、財務活動も含めたトータルの収益力が強いといえる。売上高経常利益率は数値が大きいほど、財務活動も含めた会社のトータルの収益力が強いことを表す。売上高営業利益率と同様、業種によって目安となる数値はかなり異なる。
売上高経常利益率(%)= 経常利益 ÷ 売上高 × 100
3つの指標は損益計算書からどのくらい儲ける力があるかを知ることができるんだ。
MEMO
最終的な利益を示す当期純利益は株主資本に振り替えられるため、収益が上がっているかどうかは投資家にとっても重要なポイントとして評価される。
損益計算書の例:トヨタ自動車
多くの会社では自社のwebページで決算書を公開しているのです。
Section 05-2 基本の財務2表―貸借対照表
貸借対照表は、決算日時点で会社にどれだけの財産、借金、元手があるかを示すんだ。
左に資産、右に負債・純資産を置く
決算日時点での会社の財政状態を表す貸借対照表は、「B/S(balance sheet)」とも呼ばれます。左(借方)に会社の財産の運用形態=「資産」、右(貸方)に資産の調達源泉=「負債(返済の必要がある他人資本)・純資産(返済の必要がない自己資本など)」が置かれます。資産の勘定科目は現金化しやすい順に、また負債は早く支払わなくてはいけない順に並べていきます。
自己資本比率などで経営状態が分かる
貸借対照表で注目すべき点は、各項目のバランス。まず総資産に対する純資産の比率は「自己資本比率」と呼ばれ、会社の安全性を見るための指標とされます。「自己資本比率」が高い会社は返済の必要がない資本を中心として事業を行っていることになり、財務体質は良好といえます。
また左の「流動資産」を右の「流動負債」で割った「流動比率」(下記「貸借対照表のチェックポイント」参照)は、会社の短期的な支払い能力を表します。資金繰りが逼迫した会社は、現預金などの流動資産が減少して短期借入金などの流動負債が増加しがち。そのため流動比率が低くなる仕組みです。
右側の上下に並んだ負債を純資産で割った「負債比率」(ページ下部参照)は、自己資本に対する他人資本の比率を示します。これが100%以下で財務が安定しているとされ、低ければ低いほど借金が少ない会社といえます。
ポイント
- 貸借対照表は決算日時点での会社の財政状態を表す。
- 自己資本比率を見ることで会社の安全性が分かる。
- 流動比率は短期的な支払い能力、負債比率は財務の安定性を示す。
勘定式貸借対照表の例
貸借対照表も、勘定式と報告式の2通りの表示方法がある。左右の合計が一致する勘定式は分かりやすいため、貸借対照表ではこちらがよく用いられる。
報告式貸借対照表の例
報告式は上から順に資産、負債、純資産の順に並べる。
MEMO
流動負債に対して固定負債は長期間にわたって借金を負っていることになるが、むしろお金を貸す銀行からの信頼度が高い=経営が良好と見ることもできる。
貸借対照表の5つの主なグループ
①流動資産
現預金など、短期間に現金化できる可能性のある資産。会社の通常の営業サイクルを通じて生じる資産、また1年以内に現金化できる資産などが含まれる。
②固定資産
事業を行うために長期にわたって所有して使用する資産。1年を超えて使用、また投資目的で長期間保有する資産などが含まれる。
③流動負債
買掛金や短期の借入金など、会社の営業取引によって発生した債務及び1年以内に支払いの期限が来る債務など。
④固定負債
1年以内に支払義務が発生しない負債。社債や金融機関から長期的に融資を受けている借入金などが含まれる。
⑤純資産
株主から出資を受けた事業の元手や過去から蓄積された利益など。
「流動」と「固定」の違いはざっくりと言えば「1年以内に決着がつくか」で決まります。
貸借対照表のチェックポイント
貸借対照表からは「自己資本比率」「流動比率」「負債比率」などの指標を求めることができ、会社の安全性などが評価される。
①自己資本比率
会社の安全性を見るための指標。自己資本比率が低いと借入金などの負債が多い、逆に高ければ返済義務のないお金をたくさん持っていることになる。
自己資本比率(%)=純資産÷総資産×100
②流動比率
会社の短期的な支払い能力を判断するための指標。1年以内に返済すべきお金を流動資産で賄える割合を表す。
流動比率(%)= 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
③負債比率
自己資本に対する負債=他人資本の割合を示す。負債比率が小さいほど会社の安全性は高くなるが、場合によって経営が消極的と見ることもできる。
負債比率(%)= 負債 ÷ 純資産(自己資本) × 100
会社の財政状態を示す貸借対照表からは「会社がどのくらい健康か」がわかるのです。