Section 04 伝票・帳簿の原則―記入のルール
手書き伝票の起票にあたって、最低限知っておくべきマナーがある。「内部けん制」を徹底しつつ、適正な伝票の作成を心がけよう。
誤りや不正の防止を徹底する
伝票を書き起こすことを、「起票」といいます。伝票を起票するにあたり、経理が知っておかなくてはいけない注意点がいくつかあります。
お金に関わる伝票は、まず誤りや改ざんを防ぐことが大切。またそれらが発生しても、速やかに発見できる体制作りが欠かせません。例えば、複数の担当者が業務に目を通してダブルチェックすることなどが重要。このような社内の体制を、「内部けん制」といいます。
起票に際しての基本マナーをしっかり身につける
手書きでの起票には、鉛筆ではなく修正できない黒のボールペンを用います。略字やくずし字を使わず、アラビア数字で読みやすく丁寧に書くのが基本です。金額は3ケタごとにコンマを打って、位取りするのも忘れずに。そして起票した伝票は、必ず上長の承認を受けるよう徹底しましょう。書き誤った場合は、二重線を引いた上で正しい数字を全桁記入し、訂正印を押すのが原則。こうすることで、誰が訂正を行ったかまで記録することができます。
書き損じた伝票を捨てて新たに書き直すのもご法度。連番になっている伝票に欠番が生じることになり、場合によっては税務調査や会計監査で粉飾決算などの不正を疑われることになりかねません。いずれも簿記以前の常識的なマナーですが、経理担当者はしっかり身につけておく必要があります。
ポイント
- 伝票は、誤りや改ざんの防止に注意が必要。
- 複数の担当者が業務に目を通すなどの「内部けん制」が必須。
- 伝票への記入・修正も経理のマナーを徹底する。
内部けん制システムの基本となる3要素
分業 | 1つの経理業務を最初から最後まで1人が処理するのでなく、複数の経理担当者が分担して作業する。例えば出納業務と記帳業務が分担されていれば、会社のお金を私的に流用してばれないよう会計処理するといったことが不可能になる。 |
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ダブルチェック | 1つの業務が終わったら、別の経理担当者が誤りがないかチェックを行う。例えば会計データの入力にミスがないか作業終了後に別人が確かめるなどして、常に二重のチェックを通す業務の流れを作る。 |
承認 | 上長が各種書類を承認する仕組みを作る。スキルがまだじゅうぶんでない経理担当者が不備のある書類を作成しても、取引や業務に精通した上長のチェックにより誤りが発見されることが期待できる。 |
何重ものチェックが必要なのです。
数字の記入と修正の例
数字はアラビア数字で誤認のないよう注意して書く。例えば1と7、4と9、0と6はそれぞれ混同しがち。1は線1本、4は上を開けて右の横棒をはっきり突き出す、7は左にカギを加える、0は上をしっかり閉じる、といった気遣いが必要。
数字を間違えた場合は、二重線を引いた上に正しい数字を記入して押印する。誤った部分だけ書き直すのでなく、正しい数字を全ケタ書く点に注意。
MEMO
伝票が複数のチェックを受けていても、会計ソフトに入力する際にまた誤りが発生する可能性がある。主に入力を任される経理担当者は、細心の注意を心がけなくてはいけない。
Section 04-1 伝票・帳簿の原則―伝票の書き方
後で誰が見ても正しく取引の内容が分かるような伝票の作成を習慣づけよう。
入金伝票・出金伝票・振替伝票の3種類を主に用いる
仕訳はもともと「仕訳帳」という帳簿を使って行うのが従来のやり方。しかし複数の経理担当者で業務を行う際、1冊の仕訳帳を共有しながら作業するのは効率的ではありません。そこで仕訳帳の代わりに、「伝票」を用いる方法が一般的となりました。
主な伝票には5種類あります。なかでもよく用いられるのが、「入金伝票」「出金伝票」「振替伝票」の3種類。入金伝票は現金の入金取引、出金伝票は現金の出金取引、そして振替伝票は掛取引など現金を伴わない取引を記録します。
どのような取引なのか正しく証明できるよう作成する
いずれの伝票も、法律などで規定された書式はありません。市販の伝票を使用したり、社内で独自に作ることもできます。ただし「日付」「金額」「勘定科目」「摘要(取引内容)」「起票者の押印またはサイン」の5項目は必須。いずれも仕訳帳や総勘定元帳に転記する際に必要となります。なお振替伝票は、借方及び貸方の勘定科目をそれぞれ記入。入金伝票は借方の勘定科目が、出金伝票は貸方の勘定科目がそれぞれ必ず「現金」となるので、それは記載しません。
領収書や請求書などがあれば、取引の証拠として伝票に添付しておくのが決まり。どのような取引なのか、誰が見ても正しく把握できることが大切です。
ポイント
- 仕訳帳の代わりに伝票で仕訳を行う方法も一般的。
- 主に用いるのは入金伝票・出金伝票・振替伝票の3つ。
- 必須の記入項目は5つ。証憑類があれば添付を忘れずに。
入金伝票
商品を売って現金を受け取った、現金で売掛金の回収を行ったなど、現金の入金があった時に起票する伝票。勘定科目には貸方科目を記入。
①伝票番号 ②取引が発生した日付 ③入金先の相手 ④貸方科目 ⑤取引の内容 ⑥仕訳ごとの金額 ⑦合計金額
出金伝票
必要経費を現金で支出した、買掛金を現金で支払ったなど、現金の出金があった時に起票する伝票。形式は入金伝票と同じだが、勘定科目には借方科目を記入する。
振替伝票
売掛金が預金口座に振り込まれた、代金後払いで商品を仕入れて買掛金が発生したなど、現金の入出金をともなわない取引があった時に起票する伝票。通常の仕訳と同様に借方と貸方の取引をそれぞれ記入する。
MEMO
1枚の伝票のなかに消費税の標準税率10%と軽減税率8%の取引が混在している場合、取引内容と金額がそれぞれ分かる形で起票する必要がある。
Section 04-2 伝票・帳簿の原則―貸借一致と取引合計の一致
借方と貸方の合計金額が必ず一致する=貸借一致の原則が仕訳の基本。取引が複数ある場合も、左右の合計は同じになる。
借方と貸方の合計金額は必ず一致する
取引を2つに分けて帳簿の左=「借方」、右=「貸方」に振り分けていくのが「仕訳」。この際に左と右、つまり借方と貸方の合計金額は必ず一致することになります。これが「貸借一致の原則」または「貸借平均の原理」です。
取引によっては借方または貸方に複数の項目が入ることがありますが、その場合も貸借は一致します。例えば帳簿価額2万円の備品を3万円で売却したとしましょう。仕訳では借方に現金(資産)3万円の増加、貸方に備品(資産)2万円の減少と備品売却益(収益)1万円が表されます。項目の数や勘定科目は異なりますが、左右の合計はどちらも3万円で一致しています。
複数の取引についても貸借一致の原則が働く
複数の取引が行われた場合も、同様に貸借一致の原則が働きます。例えば以下ような例を考えてみましょう。
①顧客Aに現金で5万円売り上げた
②顧客Bに商品10万円を販売し、代金のうち3万円は現金で受領し7万円は掛けとした
③顧客Bの売上のうち品質不良で3万円の返品があった
3つの取引それぞれはもちろん、取引の合計金額も下記図「複数の取引が行われた場合も貸借が一致する」のように貸借が一致します。個々の取引が複数の項目で表される「複合仕訳」となるケースもありますが、その場合も貸借一致の原則にしたがいます。
ポイント
- 借方と貸方の合計金額は必ず一致する。
- 借方または貸方に複数の項目が入る場合も同様。
- 複数の取引の合計金額も貸借が一致する。
仕訳例:借方または貸方に複数の項目が入る場合
「帳簿価額2万円の備品を現金3万円で売却した」
借方と貸方の合計金額は常に一致するんだ。
複数の取引が行われた場合も貸借が一致する
①顧客Aに現金で5万円を売上げた
②顧客Bに商品10万円を販売し、代金のうち3万円は現金で受領し7万円は掛とした
③顧客Bの売上のうち品質不良で3万円の返品があった
MEMO
複雑な仕訳を扱っていると、左右不一致となることもしばしば起こる。しかし正しく処理をすれば貸借は必ず一致するので、見落としやミスがないか他の人にも確認してもらうこと。