Section 16 仕入管理―仕入の計上基準
仕入の計上基準も複数の考え方がある。自社がどれを採用しているか知っておこう。
会社によっては発注と受取りの部門が分かれている
原材料や商品などの仕入では、数量や品質などに不備がないか、また機械類なら正常に作動するかどうかも厳しくチェックしなくてはいけません。そのため発注と受取りで部門を分け、物流や倉庫の担当部門が後者を担う会社も多く見られます。このように納品された商品などが発注書通りかどうか検品した後に受け取ることを、「検収」といいます。
会社ごとに定まった基準で仕入を計上する
商品などの仕入を計上するタイミングは、主に次の3つ。①出荷基準、②入荷基準、そして③検収基準です。
①出荷基準(発送基準)は、仕入先が商品などを発送した時点で計上。商品の取扱数の多い物販など同じ相手との安定的・継続的な取引が多い業界、またグループ会社同士での取引に向いているといわれます。
②入荷基準(受取基準、納品基準)は、仕入先からの商品などを入荷した時点で計上。商品などを入庫してから計上するので、現物の管理と帳簿上のデータを連携させやすいメリットがあります。
③検収基準は検品した時点で計上。検品を終えて商品などを受け入れたら、正式に納品が完了したことになります。計上までの時間はかかりますが、最も確実な計上基準として広く採用されています。
ポイント
- 納品された商品などを検品後に受け取ることを検収という。
- 商品などの仕入を計上するタイミングは主に3通り。
- 出荷基準、入荷基準、検収基準が主な計上基準とされている。
仕入計上基準の種類
計上基準 | 計上のタイミング | 特徴 |
---|---|---|
出荷基準 | 仕入先が商品を発送した日 |
|
入荷基準 | 商品の入荷入庫した日 |
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検収基準 | 納品された商品の検収が終わった日 |
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実務では検収済みの納品書に基づきまとめて計上することも多い。仕入の計上基準にはほかに、支払いを行った支払基準、使用を開始した使用基準などがあるんだ。
Section 16-1 買掛金の管理―買掛金元帳・買掛金管理表
仕入先との信頼関係を支える買掛金の管理も、売掛金と同様にさまざまな帳簿類を活用した効率的な処理が欠かせない。
買掛金元帳で仕入先ごとに買掛金を管理する
自社の買掛金は、仕入先から見た売掛金でもあります。その支払い漏れは仕入先にとって売上代金の回収漏れとなり、会社間の信頼関係が大きく損なわれます。また場合によっては、自社の資金計画に支障をきたすことにもなりかねません。こうした間違いを防ぐためにも、さまざまな帳簿などを用いた効率的な管理が不可欠です。
買掛金の管理に用いられる帳簿類の代表が、「買掛金元帳」(仕入先元帳)。これは、仕入先ごとに買掛金の発生と支払いを詳細情報とともにまとめる帳簿です。補助簿なので作成は任意ですが、総勘定元帳では把握しづらい買掛金の詳細な現状をひと目で把握できるため、広く活用されています。
買掛金管理表で全ての買掛金の残高をチェックする
またもう1つの「買掛金管理表」は、主に1カ月単位で買掛金の発生・支払いそれぞれの合計をまとめた表。どの仕入先に対して買掛金の残高がいくらあるかを、ひと目で把握できます。
帳簿類を使った買掛金の管理のポイントは、次の4つ。①前月からの繰越買掛金をチェック、②当月が支払期限である買掛金を漏らさず支払ってその処理を入力、③当月の仕入分の買掛金を入力、④来月支払う買掛金をチェック、です。こうして正確な支払いを徹底し、仕入先との信頼関係を強化することも経理担当者の重要な役目です。
ポイント
- 買掛金元帳は仕入先ごとに買掛金の詳細な現状をひと目で把握できる。
- 買掛金管理表は買掛金の残高がそれぞれいくらあるかひと目で把握できる。
- 当月の支払いと仕入を処理しつつ、来月支払う買掛金もチェックしておく。
買掛金元帳の例
①買掛金を計上した日、または買掛金を支払った日を記入。
②取引の内容を記入。
③買掛金を計上=増加した場合は貸方、買掛金を支払った=減少した場合は借方に記入。
④買掛金の残高がプラスの場合は貸と記入。振込額の誤りで過大に支払うなどしてマイナスになった場合は借と記入。
⑤買掛金の残高を記入。
買掛金管理表の例
仕入先別に月ごとに集計し、おかしな点がないか確認する。
MEMO
届いた請求書はそのまま支払いに回すのでなく、必ず納品実績と照合して一致を確認すること。もし不一致の場合は納品実績に合わせて支払いに回し、差異について原因が判明次第、処理を進める。
Section 16-2 買掛金の管理―請求書のチェック
受け取った請求書は内容のチェックが必須。返品や値引きなどにも気をつけよう。
請求書は買掛金元帳と突き合わせて内容をチェックする
発注した原材料や商品などは、受領書、納品書とともに届きます。このうち受領書は、サインをして返却。続いて納品書を元に検品などが行われ、これにパスすれば発注業務が完了します。通常はこの過程で仕入が計上されます。ただし原材料や商品などの誤り、破損などがあると、返品にともなう「仕入戻し」の仕訳などを行うこともあります。
仕入先からの請求書を受け取ったら、まず買掛金元帳と突き合わせます。チェックする項目は、支払期限、商品・サービスの内容、請求金額の3つ。内容に相違があればすぐ購買担当者に確認し、場合によっては仕入先に請求書の再発行を依頼します。
請求額が違ったら購買担当者に問い合わせて対処する
請求額が異なる場合、返品、値引き、割戻しなどを行った情報が経理に回っていない可能性も考えて、購買担当者に確認します。また同じ締め日で集計していても、仕入先が発送日に売上を計上、自社が納品日で仕入を計上している場合、輸送中の商品の分だけ差額が生じることになります。
仕入先から請求書が届かない場合、購買担当者を通じてその督促を行います。なお、請求書送付時の事故や到着後に自社内で紛失することもあります。その場合は、仕入先へ請求書の再発行を依頼します。
ポイント
- 納品の過程で返品などに対応した仕訳を行うこともある。
- 請求書は支払期限、商品・サービスの内容、請求金額の3つをチェック。
- 請求額が異なる場合はまず社内で返品・値引きなどがないか確認。
仕入~買掛金の管理の流れ
請求書のチェック
仕入先が作成した請求書に誤りがないか、両社の認識にズレはないかなどを確認する。
支払期限 | 契約通りの支払期限で発行されているか、支払期限が銀行休業日でないか、休業日であればその前日までに着金が必要かその翌日でもいいかを契約書などで確認する。 |
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商品・サービスの内容 | 実際に受け取った商品・サービスか、数量は正しいか、納品書や検収書控えなどと突き合わせて確認する。 |
請求金額 | 契約書や納品書の金額と一致しているか、消費税の計算は正しいか、先月支払った金額が二重に請求されていないかなどを確認する。 |
請求書の確認が購買マターのところもあるけど、おかしいと思ったらできるだけ購買部門に確認しよう。
MEMO
在庫管理がシステム化されている製造業では、汎用品の在庫の数量が一定数を下回ると自動で発注が行われる仕組みが構築されている。
請求書のチェックポイント
電子帳簿保存法とインボイス制度
請求書に関連して、最近税法上の大きな動きが2つありました。
1つは「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」の改正です。電子帳簿保存法ではこれまで紙で保存することが義務づけられてきた請求書などの証憑類を電子データで保存することを認めており、2022年(令和4年)1月の改正において税務署長への事前申請の廃止など、適用するための要件が大幅に緩和されました。
また全ての事業者に対して、請求書などを最初から電子データで受領した場合、印刷して紙で保存することが認められなくなり、タイムスタンプの付与など一定の要件を満たした上で電子データのまま保存することが義務化されました(2023年(令和5年)12月まで猶予期間あり)。
もう1つは2023(令和5)年10月から開始される「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」です。このインボイス制度は消費税に軽減税率が採用され税率が複数となったことから、同様に消費税が複数税率である諸外国にならって導入されることとなりました。
インボイスとは、登録番号や適用される消費税率など一定の事項が記載された請求書などのことで「適格請求書」とも呼ばれます。インボイス制度開始以降は、受領した請求書などがインボイスではない場合、消費税の仕入税額控除が認められなくなります。よって請求書を発行する側としては、発行する請求書をインボイス制度に対応した形式へ変更する必要があり、また請求書を受領する側としては、受け取った請求書がインボイスの要件を満たしているかどうか、というチェックが増えることになります。
電子帳簿保存法もインボイス制度も仕事のやり方に大きな影響があるのです。
Section 16-3 買掛金の管理―さまざまな会計処理
仕入の処理にあたっては、付随費用の計上も必要。そのほかさまざまな取引に対応できるよう備えておこう。
買掛金の計上は仕入の計上基準にしたがう
買掛金計上のタイミングは、それぞれの会社で定めた仕入の計上基準(CHAPTER2 Section16「仕入管理―仕入の計上基準」参照)にしたがいます。例えば「出荷基準」を採用しているのであれば当月中に仕入先が発送した分、「検収基準」であれば当月中に自社の検査に合格した分を当月分として買掛金を計上します。ただし仕入先の計上基準とは必ずしも同じではないため、仕入先から受け取る請求書の内容はしっかり確認しましょう。
付随費用は売上原価に算入する
仕入には原材料や商品などの代金のほかにも、さまざまな付随費用を支払うことがあります。付随費用は、大別すると次の2つ。「①仕入にあたって直接要する費用」と「②仕入れた後で発生する費用」があり、具体的には引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税、買入事務費、検収費、整理費、保管費などが該当します。
これらは「販売費及び一般管理費(販管費)」と混同しがちですが、①、②とも「売上原価」に算入されます。ただしその商品が期末に在庫として残っている場合、その事業年度の損金にはなりません。また②は金額の合計が仕入代金の3%以下の場合、売上原価ではなく販管費として処理することも可能です。
買掛金も売掛金と同様、全額あるいは一部を返品する、また同じ取引先の売掛金と相殺するなど、さまざまな状況に応じた仕訳が必要。そのつど取引の詳細を確かめながら、スムースな処理を心がけましょう。
ポイント
- 買掛金の計上は、それぞれの会社で定めた仕入の計上基準にしたがう。
- 仕入の計上基準は、仕入先の計上基準と異なることもある。
- 付随費用は原則として売上原価に算入される。
買掛金の仕訳例
買掛金の発生と支払い
掛取引で800万円分の商品を仕入れた
買掛金を普通預金から振り込んだ
全額返品
掛取引で50万円分の商品を仕入れた
破損のため商品を全て返品した
一部返品
掛取引で600万円分の商品を仕入れた
不具合があったため、300万円分を返品した
売掛金と相殺
A社に掛取引で100万円分の商品を販売した
A社から掛取引で300万円分の商品を仕入れた
売掛金と買掛金を相殺し、差額を振り込んだ
MEMO
場合によって、社内資料作成のために特定の月の購入代金だけを集計する必要もある。その際は、仕入勘定に購入代金と付随費用それぞれに補助科目を設定して分類すると便利。