Section 13 売掛金の管理の流れをつかもう
売り上げた代金を確実に回収することは、会社の根幹に関わる重要な業務。経理担当者としての責任を自覚しよう。
売掛金の管理の概要
[対象者]営業担当者、上司、取引先
[作成する書類]売掛金元帳、売掛金管理表、領収書、請求書など
[確認する書類]納品書控え、請求書控え、通帳、当座勘定照合表など
売掛金の管理のスケジュール
①売掛金元帳・ 売掛金管理表の作成
納品書控え、請求書控えなどを元に作成。未回収債権を把握する
●納品書など発行後、速やかに
→CHAPTER2 Section13-2「売掛金の管理―売掛金元帳・売掛金管理表」
⑤未入金に対する対応
未入金の売掛金があれば、上司や担当者に伝えて早急に対処する
●未入金確認後
→CHAPTER2 Section13-2「売掛金の管理―売掛金元帳・売掛金管理表」
→CHAPTER2 Section13-3「売掛金の管理―さまざまな会計処理」
会社間の商品・サービスの売買は、「掛取引」=一定期間内の取引金額をまとめて後払いする取引で行われています。Section13-1「売掛金の管理―売上の計上基準」で見るように一定の基準で売上を計上しても、その時点ではまだ代金は支払われていません。会社は「売掛金」=代金を将来受け取る権利(売掛債権)を計上しただけです。
売掛金を受け取れないと会社に現金が入らず、事業を続けていくことができません。一見あたり前のようですが、売掛金の確実な回収は事業の根幹となる重要な業務です。
MEMO
新しい取引先に請求書を発行する際は、締め日などの説明が相手に正しく行われているかなど営業担当者との確認が必須。取引先によっては専用の請求書が指定されている場合もある。
売掛金の処理の流れ
経理担当者が手がける売掛金の管理業務は、売上の計上から売掛金の回収まで一貫して担当することが一般的。例えば経理担当者は納品のつど、または1カ月の納品分をまとめて、請求書を発行します。そして期日までに請求先から請求書通りの金額が入金されたら、「入金消込」という作業を行います。これは、帳簿上で売掛金の残高を実際の入金に応じて消去すること。やること自体は単純ですが、処理に誤りがあると回収の遅延、また得意先との信用問題に発展しかねません。経理担当者にとって、特に入念な確認が必要な作業です。
MEMO
販売先や販売件数が膨大になる大きな会社では、営業部門が月ごとにまとめた売上のデータを経理部門が一括で扱う「バッチ処理」を採用している場合も多い。
Section 13-1 売掛金の管理―売上の計上基準
売上をいつ計上するかについては、いくつかの考え方があるんだ。
売上の計上には主に3通りの基準がある
売上を計上するタイミングは、主に次の3通りがあります。1つめは、得意先へ商品などを出荷した時点で計上する「出荷基準」。2つめは、得意先へ商品などを引き渡した時点で計上する「引渡基準」。3つめは得意先が納品された商品などを「検収」した「検収基準」。どの基準を用いるかについては会社によって異なりますが、一度採用した基準は継続して適用します。
大会社は「収益認識に関する会計基準」にしたがう
2021年4月から始まる会計年度以降は、売上計上の新ルール「収益認識に関する会計基準」(下記「「収益認識に関する会計基準」とは」参照)が適用されています。対象は上場企業と会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の会社、非上場を含む)で、実現主義とは異なった基準で収益を認識することとなります。新ルール導入の影響を大きく受けるのは、主に次のような取引です。
1つめは、契約の履行が一定期間にわたる取引。例えばソフトウェア販売にともなう一定期間の保守サービスなどが該当します。2つめは契約と履行義務が1対1でない取引。例えば上の例では、1つの契約にソフトウェア販売と保守サービスという2つの履行義務が含まれます。それぞれ単独で提供する際に価格が異なる場合、取引価格の再配分という処理が必要です。
なお、上記2種類の取引以外は、顧客が商品・サービスを受け取って対価の支払いの必要性を認識した時点で売上に計上することになるので、「検収基準」が基本となります。
ポイント
- 売上の計上基準は出荷基準、引渡基準、検収基準などの考え方がある。
- 2021年4月から収益認識に関する会計基準が適用されている。
- 収益認識に関する会計基準は上場企業などが対象。
主な売上計上基準
出荷基準
自社から出荷した日
梱包、積み込み、搬出など、どの段階で出荷とするかの基準を社内で定めておく必要がある。
引渡基準
納品された日
取引先から受け取った受領書の日付で売上を計上。検収はまだ受けていない。
検収基準
取引先で検収した日
取引先による検査に合格し、検収確認書が発行された日付で計上する。
収益認識に関する会計基準の適用範囲
上場会社 | 上場準備会社 | 上場を予定していない会社 | |
---|---|---|---|
会社法上の大会社 | 適用 | 適用 | 適用 |
大会社以外の会社 | 適用 | 適用 | 任意適用 |
会社法上の大会社以外で上場の予定がない会社は、「収益認識に関する会計基準」の適用が任意。なお会社法上の大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が5億円以上、または最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が200億円以上の会社を指すんだ。
MEMO
従来は、異なる基準を採用する会社の決算を公平に比較しづらいなどの弊害が指摘されていた。また国際会計基準(IFRS)との整合性を確保するなどの必要があり、今回の基準が導入された経緯がある。
「収益認識に関する会計基準」とは
「収益認識に関する会計基準」では、下記図「収益認識に関する会計基準の5ステップ」のような5つのステップにあてはめて収益を認識していくことになります。
まず「契約の識別」から始まり、「履行義務の識別」「取引価格の算定」を経て、複数の商品・サービスが含まれる場合は「履行義務に取引価格を配分」、そして最後に「履行義務を充足した時に収益を認識」、という流れになります。
ここで重要なのが「履行義務」という概念で、これは顧客との契約において単体(もしくは一連)の商品・サービスを顧客に移転する約束をいいます(基準第7項による)。
そしてその「履行義務の充足」、すなわち顧客がその商品・サービスを利用しその利益を享受できる段階で収益を認識します。
例えば出荷基準の場合、出荷から顧客の元に届くまで日数があるため、この「履行義務の充足」を満たしていないと言えます。つまりこの「収益認識に関する会計基準」に沿うとすれば、原則として検収基準を用いることになります。
いまはまだ上場企業と会社法上の大会社のみに求められる考え方なのです。
収益認識に関する会計基準の5ステップ
収益認識に関する会計基準では、以下の5つのステップを経て検討したタイミングと金額で、売上を計上する。
ステップ1
契約の識別
顧客との間に、どのような商品・サービスを売買する契約が発生したかを確認。
ステップ2
履行義務の識別
契約に含まれる顧客への履行義務を確認。例えば製品の販売と保守が1つになった契約の場合、履行義務が2つあると見なす。
ステップ3
取引価格の算定
契約の取引価格を把握。例えば1つの年間契約に基づいて入会金を受け取った後に月ごとの使用料が支払われる場合、それぞれの履行義務ごとに金額を算定する。
ステップ4
履行義務への取引価格の配分
それぞれの履行義務を独立して販売する場合の価格を基準として、契約に対する販売価格を配分する。
ステップ5
履行義務の充足による収益の認識
商品・サービスを顧客に移転したタイミングで履行義務が充足されたと見なし、収益を計上する。
収益認識に関する会計基準の対象にならない取引
①「金融商品会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
②「リース会計基準」の範囲に含まれるリース取引
③保険法における定義を満たす保険契約
④同業他社との交換取引
⑤金融商品の組成又は取得において受け取る手数料
⑥「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産の譲渡
出典:国税庁「『収益認識に関する会計基準』への対応について」
Section 13-2 売掛金の管理―売掛金元帳・売掛金管理表
売掛金はミスのなく効率的な管理が不可欠。帳簿などを活用しつつ、入金遅れや金額の不一致には速やかな対応を徹底しよう。
帳簿や表を活用して売掛金の確実な管理を図る
売掛金の管理には、さまざまな帳簿や表が用いられます。その代表が「売掛金元帳」。得意先ごとに、売掛金の計上と回収を詳細情報とともにまとめる帳簿です。補助簿なので作成は任意ですが、総勘定元帳では把握しづらい売掛金の詳細な現状をひと目で把握できるため、広く活用されています。
経理担当者はこの売掛金元帳に基づき、事前の取り決めにしたがって請求書を発行・送付します。発生した売上がこの帳簿から漏れていたら請求が漏れてしまう恐れもあるので、入力などには特に細心の注意が欠かせません。
また「売掛金管理表」は、主に1カ月単位で売掛金の発生・回収それぞれの合計をまとめた表。どの得意先に対して売掛金の残高がいくらあるかを、ひと目で把握できます。
入金遅れや金額の不一致は営業担当者とともに対応する
売掛金の回収が期日に遅れた場合、経理担当者は営業部門とともに請求先に理由を確認し、支払いを督促するなど対策に着手します。また常に請求書通りの金額が入金されるとは限りません。差額が発生した場合、経理担当者はまず売掛金元帳に基づいてどの売掛金が入金されたのかを確認。その分の入金消込を行うと同時に、営業部門に問い合わせます。いずれの場合も問題を把握したら間を置かず、ただちに対処しなくてはいけません。
ポイント
- 売掛金元表で得意先単位の売掛金の管理を徹底する。
- 売掛金管理表で月ごとの売掛金の残高を確認する。
- 期日までに所定の額が入金されない場合はただちに原因を追及する。
売掛金元帳の例
①売掛金を計上した日、または売掛金を回収した日を記入。
②取引の内容を記入。
③売掛金を計上=増加した場合は借方、売掛金を回収=減少した場合は貸方に記入。
④売掛金の残高がプラスの場合は借と記入。振込額の誤りで過大に入金されるなどしてマイナスになった場合は貸と記入。
⑤売掛金の残高を記入。
売掛金管理表の例
得意先別に月ごとに集計し、おかしな点がないか確認する。
MEMO
売掛金と入金の額が一致しない原因として、値引きや返品の可能性もある。まず営業担当者とともに自社にミスがないことを確認した上で、得意先に原因を問い合わせる。
請求書の作成例
領収書の発行例
領収書に記載する項目は、日付、宛名、但し書き、金額、発行者の住所・氏名。5万円以上の場合は収入印紙と割印が必要だが、支払いがクレジットカードの場合はなくてかまわない。但し書きを「お品代」とすると使途不明金として扱われることもあるので、第三者が見て分かるよう具体的に記入するよう注意しよう。
Section 13-3 売掛金の管理―さまざまな会計処理
ひと口に売掛金の処理といっても、状況ごとにその方法はさまざま。営業部門とも協力しながら、正しい処理に努めよう。
入金の仕訳は実際に入金が確認された売掛金から消込処理していく
売掛金計上のタイミングは、それぞれの会社で定めた売上の計上基準(CHAPTER2 Section13-1「売掛金の管理―売上の計上基準」参照)にしたがいます。例えば「出荷基準」を採用しているのであれば当月取引先へ発送した分、「検収基準」であれば当月取引先の検査に合格した分を当月分として取引先へ請求し、売掛金を計上します。なお「収益認識に関する会計基準」(CHAPTER2 Section13-1「売掛金の管理―売上の計上基準」参照)の適用を受ける上場企業などは、原則として検収基準となります。
売掛金の入金消込は、実際に入金が確認された取引から処理します。仕訳の日付は、入金日。振込手数料が自社負担の場合は、入金額と請求額の差額を支払手数料または売上値引として計上します。
入金額の過不足や買掛金との相殺など状況に応じた処理も行う
入金額が請求金額より少なかった場合は、まず実際に入金のあった金額で売掛金の回収を入力。そして差額が入金されたら、残りの売掛金を回収した処理を行います。逆に入金額が多かった場合は、まず売掛金の回収を入力しつつ、超過額を「仮受金」として入力。返金または翌月の売掛金に充当するなどの対処方法を確認し、それぞれに応じた処理を行います。
同じ取引先に対する買掛金と売掛金を、それぞれ相殺する処理を行うこともあります。この場合は相殺分を「買掛金」の勘定科目で借方に記入して、売掛金の回収を処理します。
ポイント
- 売掛金の計上は、それぞれの会社で定めた売上の計上基準にしたがう。
- 入金額の過不足はそれぞれに応じた売掛金の計上を行ってから後日調整。
- 同じ取引先の買掛金と売掛金を相殺する場合もある。
売掛金の仕訳例
売掛金の計上と回収
掛取引で700万円を売り上げた
請求先から手数料自社負担で普通口座に699万9500円が振り込まれた
一部入金
売掛金1000万円のうち、600万円が普通預金に振り込まれた
後日、残り400万円が普通預金に振り込まれた
入金超過
仕訳例:売掛金100万円に対して150万円が普通預金に振り込まれた
50万円を普通預金から返金した
買掛金と相殺
A社から掛取引で100万円の仕入れを行った
A社に掛取引で300万円分の商品を販売した
買掛金と売掛金を相殺し、差額が普通預金に振り込まれた
MEMO
売掛金には5年の時効が定められている。売掛金が支払われないまま5年を過ぎて放置してしまうと、相手への請求権を失うことになる。