Section 03 発生主義と実現主義
「どのタイミングで費用と収益を計上するか」について、発生主義、実現主義、現金主義などの考え方があるんだ。
費用は「発生主義」で計上する
取引を記録するにあたって重要なのが、「どの時点で取引を計上するか」。例えば商品を売買する際、納入と代金の支払いが必ずしも同時に行われるわけではありません。そこで判断の基準となるのが、「発生主義」。これは取引が発生した時点で計上する処理方法です。
企業会計原則では、費用と収益を発生した期間に計上するよう求めています。そこでまず費用については、発生主義で計上するのが原則となっています。発生主義は、お金のやり取りがまだ行われていなくても取引が確定した時点で計上が可能。そのため例えば精算が複数月にまたがる支出、また減価償却も毎月の会計に均等に配分して計上でき、正確な損益計算が可能になります。
収益は「実現主義」で計上する
一方の収益について、企業会計原則は「未実現収益は(略)当期の損益計算に計上してはならない」とも定めています。例えば発生主義に基づき商品の発注があった時点で売上を計上しても、何らかの事情で納品が翌期になるかもしれません。そうなると、特定の会計期間における損益=「期間損益」を正しく求められなくなります。そこで収益は、発生主義でなく「実現主義」で計上するというのが企業会計のルール。実現主義とは、一定の基準に基づき販売の実現があった=売上が確定した時点で計上する処理方法です。
なお2021年4月から始まる会計年度以降、上場企業と会社法上の大会社には「新収益認識基準」(収益認識に関する会計基準)が適用されています。
ポイント
- 売買の際に納入と代金の支払いが必ずしも同時に行われるわけではない。
- 費用は発生主義で計上するのが原則。
- 実現主義で収益を計上することで、正しい期間損益計算が可能になる。
発生主義の仕組みと仕訳
発生主義とは
金銭の授受の有無に関係なく、取引が発生した時点で費用を計上する考え方。
商品が納品された1月25日時点で取引を計上
実際にお金が動かなくても取引が行われれば計上するのだ。
発生主義の仕訳
以下は7000円の消耗品を購入し、月末に支払う場合。
MEMO
年をまたいで活動を続ける会社は、利益を計算するために期間を区切る必要がある。この区切った期間を「会計期間」といい、その間にどれだけ利益を獲得したかを計算することを「期間損益計算」という。
実現主義の仕組みと仕訳
実現主義とは
販売の実現をもって収益を計上する考え方。
納品を経て請求書を送付=債権の受領が確定した2月25日時点で取引を計上
実現主義の仕訳
以下は100万円の商品を受注し、手付金50万円が振り込まれた場合。受注時には手付金だけを仕訳し、売上は納品時に計上する。
「取引が実現したタイミング」で計上されるのです。
MEMO
「債権の受領が確定した時点」については、実現主義ではいくつかの異なるタイミングが認められており、「出荷基準」「納品基準」「検収基準」などがある。
現金主義の仕組みと仕訳
現金主義とは
ほかに現金主義という考え方もある。これは入出金の事実があった時点で取引を計上する考え方。
取引先から現金が入金された3月25日時点で取引を計上
現金主義の仕訳
以下は7000円の消耗品を購入し、月末に支払う場合。購入時は仕訳をせず、支払時にだけ計上する。支払いが事業年度をまたがると当期に費用が計上されず、正しい期間損益計算ができない弊害がある。
「現金が動いたタイミング」で計上されるのです。
MEMO
企業会計において現金主義は認められていない一方、キャッシュの動きがわかりやすいという利点もある。なお、個人事業者については、一定の要件を満たすことで現金主義による税務申告も認められている。